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本編
7話 side・レド
しおりを挟む「……だぁっ!くっそ!まだるっこしいっ!!」
私は今日何度目になるのか分からない戦闘魔法を行使した。風の魔法で、目の前の魔獣の一群が塵と化す。
そんな様子を見て、今日明日の掃除担当の侍女は大変だな、とふと思う。
精神的に追い詰められると口が悪くなるのは、身分を伏せて騎士になった頃からのクセだ。
いつもは王子らしく丁寧な口調を心がけてるから、そのときとのギャップがすごいとミーカに言われたことがある。……なぜか喜んでたが。
「リード副団長!二班、避難誘導終わりましたー!」
「あぁ!ならこっちを手伝え!ぜんっぜん手が足りん!!
……おい、五班の奴らはどこ行った!」
「た、ただいま……戻りました……」
「遅い!次は四班の手伝いだ!
今、あいつらは病院塔にいるから、そこに転がってる怪我人持ってさっさと行け!」
「りょ、了解しました!」
リードという名も、騎士団に入ったばかりのときの名残だ。副団長になって身分と本名を明かした後も、同期と先輩はいまだにこっちの名で呼ぶ。実のところ、それがありがたいと思っている。王子だからと気を遣われたら、やりにくいしな。
さて、二班が戻ってきたことで、大方の避難が完了したらしい。
すでに一班と三班は私について迫り来る魔獣の対処に当たっているし、庭に先行させた六班も役目を終えてこっちに向かっているようだ。
七班は、班員の半分(強いやつ)をハルコスのところに置いてきたからか、残りは負傷してダウンした。まぁまだ正規騎士になったばかりの奴らだったし、しょうがないか。
さてと、こんなせせこましいところでチマチマ魔法を使っていると、色々ものを壊すからそろそろ移動するべきだろう。
「お前らぁっ!今から移動すっぞ!各自結界張りながら、私についてこい!」
「はいっ!」
結界で魔獣を押し出すように進む。……向かうのは、騎士団共有の大演習場だ。
あの場所には、王族と各団長しか知らない仕掛けがあるのだ。まあ、滅多なことじゃ使わないから、だいぶ忘れられているがな。
押し出した圧力で何匹か潰しながら長い距離を歩く。もうすでに日付変更を告げる鐘の音は余韻すら残っていない。
ブチッやらグチャやら物騒な音をたてて床にどす黒い染みを伸ばしていく。……魔獣の体液は、普通の獣より黒味が強いのだ。
こうして廊下で正面から押してこれるのは、魔獣にとって獲物として認識できるのが、私たち騎士団員だけだったからだ。
貴族や王宮付きの侍女従僕を避難させたのは、自動結界魔法陣がある部屋だ。
自動結界魔法陣はその名の通り、自動的に範囲内のものから魔力を受け結界を発動させる。そして、結界内にいる間は魔獣に気づかれないのだ。これは別名で認識阻害や姿隠しと呼ばれている。
ゆえに魔獣たちは私たち以外エサを見つけられなかったのだ。
やがて廊下を抜けると、王宮の裏口に出る。ここから行けば、すぐ目の前が騎士団基地だ。
これから出るような広いところでは、もう魔獣を押すことはできない。だが、周囲に他の獲物がいない限り私たちを追って来るから誘導するのは容易かった。
ようやく演習場に着くと、四方八方から魔獣たちが飛びかかってくる。
「一から三班っ!合同結界包囲陣形・八の型用意────組め!」
部下に結界を組ませると、私は結界外の魔力を操作して雷撃を起こす。
直接触れてない魔力を操作すると威力が加減できないのだが、魔獣相手に加減は必要ないだろう。……まぁ、部下の張った結界に多少ヒビが入ったが。
「いいか?今から中心に移動するぞ。
私が許可するまで結界を解くな。一人でも解いたり緩んだりしたら、死を覚悟しろ」
「了解です!」
部下の結界に守られながら、じりじりと演習場の中央に向かう。私は演習場に仕掛けられた魔法を発動するために魔力を温存する必要があったからだ。
そして、ついに中心に辿り着いたとき──。
「お前ら、全員目を瞑れ」
「はいっ……でも、なぜでしょう?」
「今からここにいる魔獣を焼き尽くす。
……あぁ、命令を無視して目が焼けて失明しても知らんぞ?」
「りょ、了解しましたー!」
部下たちが漏れなく目を閉じたことを確認すると、私はタンタンッと足を踏み鳴らした。と、同時に地面に自身の魔力を流し込む。
足元にあるはずの見えない魔法陣を思い浮かべて、その全てに、端から端まで、まんべんなく魔力を──。
その瞬間、騎士たちを中心に辺りに光が走った。
今まさに結界を破かんと迫ってきていた魔獣は大も小も全て焼き消えていく。
《シリウス・レイ》──闇を払う、絶対魔法。
神の血を継ぐというベースティア王国の王族と、それを守る神獣の加護厚きもののみが行使可能な魔法だ。
……使うと一時的に身体の自由が効かなくなるらしいが、今回はかろうじて意識は残ったようだ。
「ふ、副団長……今のは?」
「国家秘密だ。知りたきゃ、団長になるんだ……な」
「えぇ!?
って、ふくだんちょぉぉお!?」
驚いて目を剥く部下たちに苦笑を漏らしながら私はその場に倒れ込む。慌てて班長格の奴らが駆け寄ってくるが、大魔法を使って体内魔力が減った私は眠くてしかたがない。
「……おい、一班の、班長。
しばらく、私の代わりに、指揮を執れ……他の団と、合流してもいいから、残党狩りを、まか、せ……」
「副団長!リードふくだんちょぉぉぉおおっっ!!」
「……うるさい、頭に、ひび、く……」
ぎゃんぎゃん耳許で騒ぎまくる部下たちをぼんやりと見ながら、私の視界は暗転した。まるで人が死んだみたいに騒ぐな、愚か者。
(────そういえば、アイゼンたちはどうなったかな……)
脳の芯から滲み出るような暗い眠りに抗えずに意識を手放す。
その直前にふと思い出したのは、弟のどこまでも澄みきった木翡翠の瞳だった。
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