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本編
8話
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右から二匹、左から一匹、ついでに上からも一匹の魔獣が迫る。オレはそれらを見留めると、一気に魔法の水の刃で切り裂いた。
その横でミーカ姉上が同じように爆裂魔法と風の魔法で魔獣を蹴散らしていく。
だが、飢えた魔獣たちはそれしきのことで怯むことはない。
「ガゥルルル……ッ!」
ボタボタと血が混じった涎を垂らしながら魔獣はオレたちに牙を剥いた。
「ミーカ姉上っ!」
「分かってますわ!
防御はこちらに任せて、貴方はガンッガン魔法をぶっ放していきなさいっ!」
「はいっ!」
ミーカ姉上のお墨付きを得たオレは、次の魔法を打つための魔力を高めていった。
オレとミーカ姉上は、魔法使いとしての系統が若干異なる。
ミーカ姉上は、俗に“白魔法使い”と呼ばれるタイプの魔法使いだ。
白魔法使いは、自分の周りにある自然魔力を操り魔法を発動する。熟練者ともなれば少し離れているところの魔力も操作できる。複数の魔法を同時発動できるのだが、その分大きな魔法ほど発動までのタイムラグが生じるらしい。……魔法使いでは、わりとオーソドックスな方に類する。
一方、それと対極にあるのが“黒魔法使い”。
黒魔法使いは、自分の中の魔力を直接魔法に変換して行使する。そのためタイムラグなどは一切無いが、一度に一種類の魔法しか使えず、魔力=体力なため長期戦では不利だ。
黒魔法使いは体内魔力の量により左右されるため、職業上の魔法使いとしては少ない。
実際の国全体の統計では、白も黒も半分ずつ存在しているのだが、魔法使いになれるのは白型の人が圧倒的に多い。だいたい九割が白魔法使いだ。
だが、数少ない黒魔法使いたちは封印系の魔法が効かないから、とある事情で重宝されている。
……ま、オレはそのどちらでもないのだが。
「……ぐっ!しつ、けぇな!!このぉ!」
「な、何なんですの……この、数はっ!」
あまりに異常な数の魔獣。魔力には余裕があっても、長引くほどに精神と根本的な体力が削られていく。
この国の王族は男子は十歳、女子は十二歳になると王領の端にある森──通称・黒の森──に放り込まれ(一応護衛は付く)、魔獣狩りを覚えさせられる。
そして、結婚ができるようになる十六歳頃まで、週一間隔で魔獣を間引くために森に狩りに行くことになるのだ。
古い伝承によると、王族のご先祖である初代王は半神で、子孫であるオレたちも神の血を引いているらしい。そのせいか、生まれつき魔力量が多い。
だから、森で魔獣を狩るときに疲れることなどなかった。
だが、今の状況は明らかにおかしい。
オレはまだ十五歳になったばかり。つい一昨日も黒の森に魔獣狩りに行ったのだが、そのときにはこんなに魔獣が増えているとは気づかなかった。
否、そもそもこんなに魔獣はいなかった。
(急に、昨日今日で増えたのか……!?)
いや、その前に、なぜこんなに魔獣が王宮に押し寄せているのか。
この王宮は、王都の中央に位置している。その王都も頑強な防壁に守られていて、滅多なことじゃ魔獣が侵入することはないはずだ。飛行型の魔獣が年に二~五匹ほど入ってくるのが精々だ。それも人的被害が起きる前に騎士団員によって駆除されるのがほとんどで、王宮まで魔獣が来ることはここ数十年はどなかったことだ。
もし、過去に似たような事件が起きていなければ、今頃この王宮は終わっていたかもしれない。
(いや、待てよ……?)
そうだ。過去にも実は、同じようなことが起きていたのだ。
確か20代ほど前の王の時代に、今のように大量の魔獣に当時の王宮が襲われた。当時の王はそのとき負った怪我が元で亡くなり、まだ若き王太子が急遽王位に着くことになったのだ。
今王宮のあちこちにある仕掛けはその当時の名残りだという。
そのときは王が亡くなった後の混乱により、何が起こったか分からず仕舞いだったが、一つ確かなのは襲われたのが王宮だけだったという事実だけだ。
つまり、王都の方は全く無事だったのだ。
その不可解な事件は、正しく今の状況とダブっている。
えっと、当時の見解は確か──。
「そうか!こいつら、人為的なものかっ!?」
「えぇっ!嘘でしょう!?」
当時の筆頭王宮魔法使いは、かの事件を「人の手によるもの」と断定した。以前、王宮の書庫でそのような記録を読んだ覚えがある。
件の調書には、事件が起きる前に怪しげな人物が王宮近くをうろついていたとあったが、今より四百年ほど前のことなので、今回も同じ人物……という訳にはいかないだろう。
それでも、王族を害する意思は変わらない。
(早くっ、知らせねーとっ!)
焦るあまり、集中力が切れるオレ。フラッとよろけた瞬間、眼前に魔獣の爪が迫る──が、寸でのところでミーカ姉上の結界が魔獣を弾く。それから再び向かってきた魔獣を持っていた剣で袈裟斬りにする。
「すみませんっ!ありがとうござ────」
います、と続けようとした言葉は、思いもよらぬことでグッと呑み込まざる得なくなった。
突然、空間がグニャリと歪み、無理矢理抉じ開けられたような裂け目から巨獣が顕現する。
見上げるほどの巨体、他を圧倒するほどの存在感。
それは古代の生き物“マンモス”によく似た魔獣だった。
そして、それが現れたのは──。
「ミーカ姉上えぇぇぇえええっっ!!」
──今だ戦いの最中にいる姉の真上だった。
オレは真っ白に塗りつぶされた思考の中、僅かに残った本能で姉を突き飛ばした。「キャアッ」という短い悲鳴が聞こえ、辺りが一気に暗くなる。
(あ、ヤバ。オレ、死────)
魔法を発動させるにももう身体がいうことを聞かない。酸欠のようになった脳は、全てを諦め思考すること放棄してしまった。
黒に染まっていく視界にオレは目を見開いていた。そのとき、
「────させないっ!」
星踊る黒天から、凛とした少女の声が聞こえた。
その横でミーカ姉上が同じように爆裂魔法と風の魔法で魔獣を蹴散らしていく。
だが、飢えた魔獣たちはそれしきのことで怯むことはない。
「ガゥルルル……ッ!」
ボタボタと血が混じった涎を垂らしながら魔獣はオレたちに牙を剥いた。
「ミーカ姉上っ!」
「分かってますわ!
防御はこちらに任せて、貴方はガンッガン魔法をぶっ放していきなさいっ!」
「はいっ!」
ミーカ姉上のお墨付きを得たオレは、次の魔法を打つための魔力を高めていった。
オレとミーカ姉上は、魔法使いとしての系統が若干異なる。
ミーカ姉上は、俗に“白魔法使い”と呼ばれるタイプの魔法使いだ。
白魔法使いは、自分の周りにある自然魔力を操り魔法を発動する。熟練者ともなれば少し離れているところの魔力も操作できる。複数の魔法を同時発動できるのだが、その分大きな魔法ほど発動までのタイムラグが生じるらしい。……魔法使いでは、わりとオーソドックスな方に類する。
一方、それと対極にあるのが“黒魔法使い”。
黒魔法使いは、自分の中の魔力を直接魔法に変換して行使する。そのためタイムラグなどは一切無いが、一度に一種類の魔法しか使えず、魔力=体力なため長期戦では不利だ。
黒魔法使いは体内魔力の量により左右されるため、職業上の魔法使いとしては少ない。
実際の国全体の統計では、白も黒も半分ずつ存在しているのだが、魔法使いになれるのは白型の人が圧倒的に多い。だいたい九割が白魔法使いだ。
だが、数少ない黒魔法使いたちは封印系の魔法が効かないから、とある事情で重宝されている。
……ま、オレはそのどちらでもないのだが。
「……ぐっ!しつ、けぇな!!このぉ!」
「な、何なんですの……この、数はっ!」
あまりに異常な数の魔獣。魔力には余裕があっても、長引くほどに精神と根本的な体力が削られていく。
この国の王族は男子は十歳、女子は十二歳になると王領の端にある森──通称・黒の森──に放り込まれ(一応護衛は付く)、魔獣狩りを覚えさせられる。
そして、結婚ができるようになる十六歳頃まで、週一間隔で魔獣を間引くために森に狩りに行くことになるのだ。
古い伝承によると、王族のご先祖である初代王は半神で、子孫であるオレたちも神の血を引いているらしい。そのせいか、生まれつき魔力量が多い。
だから、森で魔獣を狩るときに疲れることなどなかった。
だが、今の状況は明らかにおかしい。
オレはまだ十五歳になったばかり。つい一昨日も黒の森に魔獣狩りに行ったのだが、そのときにはこんなに魔獣が増えているとは気づかなかった。
否、そもそもこんなに魔獣はいなかった。
(急に、昨日今日で増えたのか……!?)
いや、その前に、なぜこんなに魔獣が王宮に押し寄せているのか。
この王宮は、王都の中央に位置している。その王都も頑強な防壁に守られていて、滅多なことじゃ魔獣が侵入することはないはずだ。飛行型の魔獣が年に二~五匹ほど入ってくるのが精々だ。それも人的被害が起きる前に騎士団員によって駆除されるのがほとんどで、王宮まで魔獣が来ることはここ数十年はどなかったことだ。
もし、過去に似たような事件が起きていなければ、今頃この王宮は終わっていたかもしれない。
(いや、待てよ……?)
そうだ。過去にも実は、同じようなことが起きていたのだ。
確か20代ほど前の王の時代に、今のように大量の魔獣に当時の王宮が襲われた。当時の王はそのとき負った怪我が元で亡くなり、まだ若き王太子が急遽王位に着くことになったのだ。
今王宮のあちこちにある仕掛けはその当時の名残りだという。
そのときは王が亡くなった後の混乱により、何が起こったか分からず仕舞いだったが、一つ確かなのは襲われたのが王宮だけだったという事実だけだ。
つまり、王都の方は全く無事だったのだ。
その不可解な事件は、正しく今の状況とダブっている。
えっと、当時の見解は確か──。
「そうか!こいつら、人為的なものかっ!?」
「えぇっ!嘘でしょう!?」
当時の筆頭王宮魔法使いは、かの事件を「人の手によるもの」と断定した。以前、王宮の書庫でそのような記録を読んだ覚えがある。
件の調書には、事件が起きる前に怪しげな人物が王宮近くをうろついていたとあったが、今より四百年ほど前のことなので、今回も同じ人物……という訳にはいかないだろう。
それでも、王族を害する意思は変わらない。
(早くっ、知らせねーとっ!)
焦るあまり、集中力が切れるオレ。フラッとよろけた瞬間、眼前に魔獣の爪が迫る──が、寸でのところでミーカ姉上の結界が魔獣を弾く。それから再び向かってきた魔獣を持っていた剣で袈裟斬りにする。
「すみませんっ!ありがとうござ────」
います、と続けようとした言葉は、思いもよらぬことでグッと呑み込まざる得なくなった。
突然、空間がグニャリと歪み、無理矢理抉じ開けられたような裂け目から巨獣が顕現する。
見上げるほどの巨体、他を圧倒するほどの存在感。
それは古代の生き物“マンモス”によく似た魔獣だった。
そして、それが現れたのは──。
「ミーカ姉上えぇぇぇえええっっ!!」
──今だ戦いの最中にいる姉の真上だった。
オレは真っ白に塗りつぶされた思考の中、僅かに残った本能で姉を突き飛ばした。「キャアッ」という短い悲鳴が聞こえ、辺りが一気に暗くなる。
(あ、ヤバ。オレ、死────)
魔法を発動させるにももう身体がいうことを聞かない。酸欠のようになった脳は、全てを諦め思考すること放棄してしまった。
黒に染まっていく視界にオレは目を見開いていた。そのとき、
「────させないっ!」
星踊る黒天から、凛とした少女の声が聞こえた。
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