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2話
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アルエットは案内された客室のソファーに座り、何をするでもなく天井を眺めていた。ちなみに、ソファーは座った瞬間ひっくり返りそうになるほどふわふわだった。ついでに尻が沈んだ。……決してアルエットが重いからではない。
(ロビンってば、説明ぐらいしてくれたっていいのに~)
何にせよ、ロビンが迎えに来るまでアルエットは暇になってしまった。まぁ、一応内鍵は閉めているので、人が入ってくる心配もない。だから、アルエットがドレスを脱ぎ捨ててアンダードレスだけの姿になってようが、ソファーでゴロゴロしてようが、やっぱり一度ソファーごとひっくり返ろうが、それを咎める者はいないのだ。
しかし、超健康優良児であるアルエットは、普段ならもう寝ている時間─といってもまだ十時過ぎだが─になっていた。そこで彼女は、いっそのことここで寝てしまおうかと考えた。
幸い客室には立派なキングサイズ(皇城のだから?)のベッドが備え付けられていた。シーツも布団も実家のものより遥かに高級品なので、アルエットは飛び込みたくてうずうずしていたのだ。
「フワッフワのお布団が……お布団が、私を待っているぅぅぅうっ!!」
ばふーんと派手に布団に飛び込むと、そのままアルエットは子猫さながらにぐるりと丸まり、何度も寝返りをうって布団を堪能した。
あまりの気持ちよさに笑みがこぼれる。表情もこれ以上ないほど緩みきって、ふにゃふにゃと蕩けてしまいそうだ。
(ふおぉぉぉぉぉおおおっっ!何この柔らかさ!
しっとりしているようなのに、軽くてすべすべ!中綿の素材はなんだろ!やっぱり魔獣の羽なの!?
やっばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああいぃ!)
一種の深夜テンション状態に陥ったアルエットは、もはやここがどこなのか、そもそもどうして自分がここにいるのかすっかり忘れてしまっていた。だから、
──ガシャドカバキャッ
部屋の前で突如として響いた剣呑な音に驚き、ベッドの横へと落ちていってしまった。一生の不覚である。
それでも慌てて起き上がると、アルエットは素早くドアを開けた。……断じて野次馬根性が働いたからではない、はず。
そして、アルエットはドアの前に転がっていたものを見て、驚愕に目を見開いた。
「ひ、人ぉ!?」
アルエットの前には白っぽい髪の、かなり高貴な身分と思われる服装の男が壁に沿うように倒れていた。身体は若干震えており、すでに意識は朦朧としているようだ。微かな呻き声が聞こえる。
(た、助けなきゃ!)
アルエットはその男に駆け寄ると、その身体を横向きにした。……いわゆる、回復体位をとったのだ。
口の前に顔を寄せると、弱々しいながらも呼吸はあるようで、アルエットはひとまずホッとした。多少酒臭い気がしたが。
酔っぱらいかな、と思いそのままその場で応急処置を始めようとして──アルエットはその手を止めた。
何がアルエットの中で引っ掛かっているのだ。何だろうと悩むこと三秒後、そういえば、男の手足がやけに冷たく痺れているようだった。アルエットはその症状に心当たりがあった。
(この人、もしかしたら氷茸毒にやられてない?
なら、人が通りそうなここはダメだ。ちょっと動かしたくないんだけど……さっきの部屋に運ぼう)
アルエットは男を魔法で体勢を変えないように持ち上げると、さっきまで自分が寝っ転がっていたベッドに移動した。もちろん部屋の鍵を閉めるのも忘れない。
アルエットはアンダードレスを太腿が出るぐらいたくしあげると、直接肌が触れるように男の顔をそこに乗せた。そう、膝枕である。
そこでふと、アルエットは男が思ったより若いことに気がついた。白い髪を見て咄嗟にご年配かと思っていたのだが、もしかしたら自分と同い年ぐらいかもしれない。
アルエットは魔法で男の容態を調べると、やはり思った通りの毒に侵されていることが分かった。
氷茸毒は症状の進行こそ遅いが、代わりに一度取り込んでしまうと体内が酷く爛れてしまうのだ。ちなみに手足が冷たくなるのは、その症状の前段階の徴である。
「とりあえず、毒を抜かなきゃ」
アルエットは男の胃の上辺りに手をかざすと、そこから魔力を送った。そして染み抜きをするように軽く叩いてから魔力を引き抜くと、男の「うっ」という短い悲鳴と共に毒が身体からズルリと出てきた。
抽出された毒は、仄かに青白く光っている。アルエットは一気に冷却して、毒を結晶化してしまった。
かなり無理矢理な方法だが、これが一番手っ取り早いのだ。
(もうこれで、これ以上は酷くならない。でも、少しすでに爛れてしまってるな……)
通常の治癒魔法は、目に見える表面的な外傷を治すのは出来るが、このように体内に出来た傷を癒すには向いていない。見えないから、どこに魔力をどれくらい向けたらいいのか判断できないからだ。
「……これは、使いたくなかったんだけどな」
そう呟くとアルエットは徐に、自分の人差し指に歯を立てて、思い切り噛みついた。ブツンという音がして皮膚に穴が開き、そこから血が流れ出す。それが真っ白なリネンに垂れないようそっと動かし、人差し指を男の口に突っ込んだ。
自分の血を男の口に捩じ込むと、指を引き抜いた。さらにそれを嚥下させるために水魔法で、一気に喉の奥に流し込む。
「~っ!……ぅ、ぶはっ!」
男はぜいぜいと息を吐いたが、まだ意識が完全に戻ったのではなく、視線はどこか夢うつつを彷徨っているかのようだ。
アルエットはその視線が自分を特定する前に眠りの魔法をかけようとした。
(この人には悪いけど、私は目立ちたくないんだ。それに、ロビンが迎えにくるまでにさっさと終わらせたいからね)
だが、その一瞬前に男の目がアルエットを捉えた。そして、一言。
「……ロ、ビン?」
アルエットは無性に兄を殴りに行きたくなった。
(ロビンってば、説明ぐらいしてくれたっていいのに~)
何にせよ、ロビンが迎えに来るまでアルエットは暇になってしまった。まぁ、一応内鍵は閉めているので、人が入ってくる心配もない。だから、アルエットがドレスを脱ぎ捨ててアンダードレスだけの姿になってようが、ソファーでゴロゴロしてようが、やっぱり一度ソファーごとひっくり返ろうが、それを咎める者はいないのだ。
しかし、超健康優良児であるアルエットは、普段ならもう寝ている時間─といってもまだ十時過ぎだが─になっていた。そこで彼女は、いっそのことここで寝てしまおうかと考えた。
幸い客室には立派なキングサイズ(皇城のだから?)のベッドが備え付けられていた。シーツも布団も実家のものより遥かに高級品なので、アルエットは飛び込みたくてうずうずしていたのだ。
「フワッフワのお布団が……お布団が、私を待っているぅぅぅうっ!!」
ばふーんと派手に布団に飛び込むと、そのままアルエットは子猫さながらにぐるりと丸まり、何度も寝返りをうって布団を堪能した。
あまりの気持ちよさに笑みがこぼれる。表情もこれ以上ないほど緩みきって、ふにゃふにゃと蕩けてしまいそうだ。
(ふおぉぉぉぉぉおおおっっ!何この柔らかさ!
しっとりしているようなのに、軽くてすべすべ!中綿の素材はなんだろ!やっぱり魔獣の羽なの!?
やっばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああいぃ!)
一種の深夜テンション状態に陥ったアルエットは、もはやここがどこなのか、そもそもどうして自分がここにいるのかすっかり忘れてしまっていた。だから、
──ガシャドカバキャッ
部屋の前で突如として響いた剣呑な音に驚き、ベッドの横へと落ちていってしまった。一生の不覚である。
それでも慌てて起き上がると、アルエットは素早くドアを開けた。……断じて野次馬根性が働いたからではない、はず。
そして、アルエットはドアの前に転がっていたものを見て、驚愕に目を見開いた。
「ひ、人ぉ!?」
アルエットの前には白っぽい髪の、かなり高貴な身分と思われる服装の男が壁に沿うように倒れていた。身体は若干震えており、すでに意識は朦朧としているようだ。微かな呻き声が聞こえる。
(た、助けなきゃ!)
アルエットはその男に駆け寄ると、その身体を横向きにした。……いわゆる、回復体位をとったのだ。
口の前に顔を寄せると、弱々しいながらも呼吸はあるようで、アルエットはひとまずホッとした。多少酒臭い気がしたが。
酔っぱらいかな、と思いそのままその場で応急処置を始めようとして──アルエットはその手を止めた。
何がアルエットの中で引っ掛かっているのだ。何だろうと悩むこと三秒後、そういえば、男の手足がやけに冷たく痺れているようだった。アルエットはその症状に心当たりがあった。
(この人、もしかしたら氷茸毒にやられてない?
なら、人が通りそうなここはダメだ。ちょっと動かしたくないんだけど……さっきの部屋に運ぼう)
アルエットは男を魔法で体勢を変えないように持ち上げると、さっきまで自分が寝っ転がっていたベッドに移動した。もちろん部屋の鍵を閉めるのも忘れない。
アルエットはアンダードレスを太腿が出るぐらいたくしあげると、直接肌が触れるように男の顔をそこに乗せた。そう、膝枕である。
そこでふと、アルエットは男が思ったより若いことに気がついた。白い髪を見て咄嗟にご年配かと思っていたのだが、もしかしたら自分と同い年ぐらいかもしれない。
アルエットは魔法で男の容態を調べると、やはり思った通りの毒に侵されていることが分かった。
氷茸毒は症状の進行こそ遅いが、代わりに一度取り込んでしまうと体内が酷く爛れてしまうのだ。ちなみに手足が冷たくなるのは、その症状の前段階の徴である。
「とりあえず、毒を抜かなきゃ」
アルエットは男の胃の上辺りに手をかざすと、そこから魔力を送った。そして染み抜きをするように軽く叩いてから魔力を引き抜くと、男の「うっ」という短い悲鳴と共に毒が身体からズルリと出てきた。
抽出された毒は、仄かに青白く光っている。アルエットは一気に冷却して、毒を結晶化してしまった。
かなり無理矢理な方法だが、これが一番手っ取り早いのだ。
(もうこれで、これ以上は酷くならない。でも、少しすでに爛れてしまってるな……)
通常の治癒魔法は、目に見える表面的な外傷を治すのは出来るが、このように体内に出来た傷を癒すには向いていない。見えないから、どこに魔力をどれくらい向けたらいいのか判断できないからだ。
「……これは、使いたくなかったんだけどな」
そう呟くとアルエットは徐に、自分の人差し指に歯を立てて、思い切り噛みついた。ブツンという音がして皮膚に穴が開き、そこから血が流れ出す。それが真っ白なリネンに垂れないようそっと動かし、人差し指を男の口に突っ込んだ。
自分の血を男の口に捩じ込むと、指を引き抜いた。さらにそれを嚥下させるために水魔法で、一気に喉の奥に流し込む。
「~っ!……ぅ、ぶはっ!」
男はぜいぜいと息を吐いたが、まだ意識が完全に戻ったのではなく、視線はどこか夢うつつを彷徨っているかのようだ。
アルエットはその視線が自分を特定する前に眠りの魔法をかけようとした。
(この人には悪いけど、私は目立ちたくないんだ。それに、ロビンが迎えにくるまでにさっさと終わらせたいからね)
だが、その一瞬前に男の目がアルエットを捉えた。そして、一言。
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