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3話
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アルエットとロビンは双子だ。まぁ、普通の兄妹よりは似ているだろう。
特に小さい頃はアルエットが好んで動きやすい格好──もとい、男装をしていたのもあって、慣れ親しんだ領民たちでも二人を見分けるのが難しかった時期もあるくらいだ。十歳を越えるまでは、間違われることも多かった。
だが、たとえ似てるとはいえ十八の男女ともなれば話は違ってくる。
アルエットは普通の令嬢とは言えない生活をしているものの、見た目は前述のように妖精のような娘だ。華奢で細身で儚げな容姿の美少女タイプ。……地元では領内騎士たちに混ざって野盗狩りをして“血染めの魔女”と呼ばれているとしても。
そして、一方のロビンは本職の騎士だ。身長はアルエットより頭半分ほど高いし、筋力があるから決して細身ではないぐらい図体もいい。まぁ、ゴリマッチョではないのだが。
顔立ちも、中性的とは言えなくもないが、どちらかというとほんのり甘さのあるイケメンといった方がいいぐらいには男らしいだろう。ちなみに、チャラ男風ではない。
アルエットは、さすがにこの歳にもなって自分がロビンと間違われるとは思っていなかった。しかも、一応ドレスを着ている(ほぼ下着のようなものだが)状態で、だ。
これでもし、正常な人間がロビンと間違えたとしたら、アルエットは兄の性癖を疑わなければならない。
(……ロビン、あいつ日常的に女装でもしてるの?)
自分も積極的に男装をするクチなので強くは言えないが、今度から家でも服装を逆転させてあげるべきなのかもしれない。きっと両親は卒倒するだろうけど。
アルエットはそんな未来(たぶん起こらない……はず)を妄想して、また意識を飛ばしていた。
「……くっ、すまん。また、お前に助けられたか」
アルエットは男の声にハッとした。
いまだ勘違いを続ける男は、よく見ると目の焦点が合わなくなっているようだ。金色の瞳がゆらゆらと揺らぎ、必死に視線を彷徨わせている。
氷茸毒は末端神経を麻痺させる効果もあるのだ。そのせいで、毒が抜けたあとも一時的に身体に支障が残ることもある。この男の場合は手足の痺れと視神経の麻痺が起きているのだろう。
そこでふとアルエットは閃いた。
(あれ?もしかして、ここで全部ロビンの手柄にすれば私は目立たないんじゃ……)
アルエットは、この男はロビンの同僚だと思っていた。
ロビンの仕事は騎士の中でも花形の皇族の専属護衛。一部の例外を除いて、高位貴族の次男以下が務めることが多い。皇子の筆頭護衛のロビンは例外の方だが。
そしてアルエットはある事情により目立つことを避けている。もし、正体がバレて見初められでもしたなら、即座に婚約話が持ち込まれるだろう。……貴族とはそういうものだ。
それももし、実家より家格が上のところから持ち込まれた場合、そう簡単には断れないのだ。しかも、アルエットは嫁ぎ遅れとはいえないものの、そろそろ急かされる年齢だ。母やロビンはともかく父は喜んで勧めてくるはずだ。
そこでアルエットはそれを阻止するには、ここでロビンのふりをして、自分がアルエットだと気づかせないことが手っ取り早いと思ったのだ。
(上手くいけば、この高貴そうな人からお礼をもらえるかもだしね。……ロビンが)
まさに一石二鳥(?)!とアルエットは短絡的に考えて、さっそく実行に移した。
「あぁ、目が覚めたのか。
……よかった。お前、毒にやられてたんだぞ?」
アルエット、渾身のイケボ(兄そっくりver)。ついでに口調も兄を真似る。我ながら上出来だとアルエットは内心で思った。
男の方も上手く騙されてくれたようで、アルエットをロビンと疑わず言葉を続けた。
「そう、か。
……情けないな、俺は。お前には迷惑をかけてばかりだ」
男はすっかり弱りきった様子で、なぜか突然滔々と愚痴を溢し始めた。
曰く、この前は落馬しかけただの、落とし穴に落ちただの、階段を駆け降りて足首を挫いただの……男の失敗談は留まるところを知らない。
(この人……大丈夫なの?)
ロビンの部下だとしたら、割りと本気で危うい人物だ。皇子の護衛任務中に何かあったら、まずこの人が一番にやられてしまうだろう。そしたら、なし崩し的に皇子も危険に晒される。結構お人好しなアルエットはついつい心配になってきた。
「俺は、もうダメかもしれない……」
ため息のように長く吐き出された息と共に口をついた弱音は、酷く悲観的だった。
アルエットはついに我慢ならなくなり、思わず口を出していた。
「このアホ!冗談でもそんなこと言ってんじゃねえ!
そうだ、お前は疲れてるだけだ!ちったぁよく寝て冷静になりやがれ!」
アルエットは荒々しい口調となり、男にピシャリと言ってのけた。
声はなんとか男らしさを保っていたが、叫ぶように言ったために少し甲高くなってしまった気がして、アルエットは多少不安を覚えた。
そこでついで同時に眠りの魔法をかけて男を強制的に眠らせてやった。眠りに落とせば、前後の記憶は飛ぶだろうし、これでしばらくは男も休めるだろう。
一応、これもアルエットなりの優しさなのだ。
「ロビン~、早く迎えに来いよ~。その顔一発殴ってやる~!
そのついでにこの男も回収してってくれ~!」
アルエットは男を膝枕したまま、ロビンを呼んだ。
すぐに来るわけでもないが、声に出さなければやってられない。せめて間違われた件については殴r……いや、話し合いたかった。
そんなアルエットの嘆きは、薄暗い部屋の闇に消化されていく。
──夜はまだまだ長い。
特に小さい頃はアルエットが好んで動きやすい格好──もとい、男装をしていたのもあって、慣れ親しんだ領民たちでも二人を見分けるのが難しかった時期もあるくらいだ。十歳を越えるまでは、間違われることも多かった。
だが、たとえ似てるとはいえ十八の男女ともなれば話は違ってくる。
アルエットは普通の令嬢とは言えない生活をしているものの、見た目は前述のように妖精のような娘だ。華奢で細身で儚げな容姿の美少女タイプ。……地元では領内騎士たちに混ざって野盗狩りをして“血染めの魔女”と呼ばれているとしても。
そして、一方のロビンは本職の騎士だ。身長はアルエットより頭半分ほど高いし、筋力があるから決して細身ではないぐらい図体もいい。まぁ、ゴリマッチョではないのだが。
顔立ちも、中性的とは言えなくもないが、どちらかというとほんのり甘さのあるイケメンといった方がいいぐらいには男らしいだろう。ちなみに、チャラ男風ではない。
アルエットは、さすがにこの歳にもなって自分がロビンと間違われるとは思っていなかった。しかも、一応ドレスを着ている(ほぼ下着のようなものだが)状態で、だ。
これでもし、正常な人間がロビンと間違えたとしたら、アルエットは兄の性癖を疑わなければならない。
(……ロビン、あいつ日常的に女装でもしてるの?)
自分も積極的に男装をするクチなので強くは言えないが、今度から家でも服装を逆転させてあげるべきなのかもしれない。きっと両親は卒倒するだろうけど。
アルエットはそんな未来(たぶん起こらない……はず)を妄想して、また意識を飛ばしていた。
「……くっ、すまん。また、お前に助けられたか」
アルエットは男の声にハッとした。
いまだ勘違いを続ける男は、よく見ると目の焦点が合わなくなっているようだ。金色の瞳がゆらゆらと揺らぎ、必死に視線を彷徨わせている。
氷茸毒は末端神経を麻痺させる効果もあるのだ。そのせいで、毒が抜けたあとも一時的に身体に支障が残ることもある。この男の場合は手足の痺れと視神経の麻痺が起きているのだろう。
そこでふとアルエットは閃いた。
(あれ?もしかして、ここで全部ロビンの手柄にすれば私は目立たないんじゃ……)
アルエットは、この男はロビンの同僚だと思っていた。
ロビンの仕事は騎士の中でも花形の皇族の専属護衛。一部の例外を除いて、高位貴族の次男以下が務めることが多い。皇子の筆頭護衛のロビンは例外の方だが。
そしてアルエットはある事情により目立つことを避けている。もし、正体がバレて見初められでもしたなら、即座に婚約話が持ち込まれるだろう。……貴族とはそういうものだ。
それももし、実家より家格が上のところから持ち込まれた場合、そう簡単には断れないのだ。しかも、アルエットは嫁ぎ遅れとはいえないものの、そろそろ急かされる年齢だ。母やロビンはともかく父は喜んで勧めてくるはずだ。
そこでアルエットはそれを阻止するには、ここでロビンのふりをして、自分がアルエットだと気づかせないことが手っ取り早いと思ったのだ。
(上手くいけば、この高貴そうな人からお礼をもらえるかもだしね。……ロビンが)
まさに一石二鳥(?)!とアルエットは短絡的に考えて、さっそく実行に移した。
「あぁ、目が覚めたのか。
……よかった。お前、毒にやられてたんだぞ?」
アルエット、渾身のイケボ(兄そっくりver)。ついでに口調も兄を真似る。我ながら上出来だとアルエットは内心で思った。
男の方も上手く騙されてくれたようで、アルエットをロビンと疑わず言葉を続けた。
「そう、か。
……情けないな、俺は。お前には迷惑をかけてばかりだ」
男はすっかり弱りきった様子で、なぜか突然滔々と愚痴を溢し始めた。
曰く、この前は落馬しかけただの、落とし穴に落ちただの、階段を駆け降りて足首を挫いただの……男の失敗談は留まるところを知らない。
(この人……大丈夫なの?)
ロビンの部下だとしたら、割りと本気で危うい人物だ。皇子の護衛任務中に何かあったら、まずこの人が一番にやられてしまうだろう。そしたら、なし崩し的に皇子も危険に晒される。結構お人好しなアルエットはついつい心配になってきた。
「俺は、もうダメかもしれない……」
ため息のように長く吐き出された息と共に口をついた弱音は、酷く悲観的だった。
アルエットはついに我慢ならなくなり、思わず口を出していた。
「このアホ!冗談でもそんなこと言ってんじゃねえ!
そうだ、お前は疲れてるだけだ!ちったぁよく寝て冷静になりやがれ!」
アルエットは荒々しい口調となり、男にピシャリと言ってのけた。
声はなんとか男らしさを保っていたが、叫ぶように言ったために少し甲高くなってしまった気がして、アルエットは多少不安を覚えた。
そこでついで同時に眠りの魔法をかけて男を強制的に眠らせてやった。眠りに落とせば、前後の記憶は飛ぶだろうし、これでしばらくは男も休めるだろう。
一応、これもアルエットなりの優しさなのだ。
「ロビン~、早く迎えに来いよ~。その顔一発殴ってやる~!
そのついでにこの男も回収してってくれ~!」
アルエットは男を膝枕したまま、ロビンを呼んだ。
すぐに来るわけでもないが、声に出さなければやってられない。せめて間違われた件については殴r……いや、話し合いたかった。
そんなアルエットの嘆きは、薄暗い部屋の闇に消化されていく。
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