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4話
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ロビンはアルエットに“待機”を言い渡した後、会場を抜け出して庭園を駆けていた。その鋭利な視線の先には、おそらく貴族と思われる派手な男が必死の形相で走っている。
ロビンが加速する度に近くの植物はキシキシと悲鳴をあげ、可憐な花は千切れていく。その様子を見て内心で庭師と犠牲になった植物に申し訳ないと思いつつ、狙いを定めると風魔法で木を一本切り倒した。
「うわっ────おぐぇ」
馬車に引き殺されたカエルのような悲鳴と共に男は木──いや、丸太(?)の下敷きになった。
ロビンは素早く駆け寄ると男に剣を向けつつ、拘束魔法で男を雁字搦めした。もはや端から見ると簀巻きにしか見えない。
「くそぉ!放せ、このっ!」
捕まってなお鬱陶しい男を見下ろし、ロビンはここまでの経緯を振り返っていた。
「ロビン、すまん。……今度の夜会、俺付きじゃなくていいから来てくれないか?」
そう頼んできたのは、ロビンの幼馴染みであり乳兄弟でもあるこの国の皇子だった。
皇子は今度の夜会の開催目的に困惑していた。皇子──つまり、自分の嫁探しというものに。
皇子曰く、別に女性が嫌いなわけではない─これを聞いたとき、ロビンは目が据わった─のだが、とある事情によりまだ結婚する気がなかった。
だから、婚約者どころか恋人もいないロビンに出てもらうことで、自分に寄って来るだろう女性を牽制してもらいたいと考えたのだ。
ロビンは自覚していないが、かなり女性受けする見た目だから、かなり効果があるだろう、と。
その夜会の日は非番だったのだが、滅多にない友の本気の懇願にロビンは一二もなく快諾した。……それに、出不精の妹も参加する予定の夜会だったのだ。そのエスコート役として出れば丁度いいと思った。
いざ会場入りして、ロビンは一人の男に目をつけた。
その男は先程の夜会でなぜか終始皇子の側に張りつき、異様な殺気をまとっていた。その手の輩が近づくことはよくあることで、皇子の実力を知るロビンとしては、さほど警戒に値するものでもない。と思っていた。
いざとなれば、自分の代わりに付かせた近衛の者がなんとかするだろう──そう、信じて疑わなかった。
だが、夜会も終盤になりそれなりに役目を果たしたロビンが皇子のもとへ参ろうとしたとき、男の殺気が急に治まり、その姿が会場から去ろうとしたのが目に留まった。
だから、不審に思ったロビンはその男の後を追いかけたのだ。
最初は気づかれないようにこっそりと少し離れた場所から追跡していた。しかし、男は皇城に不慣れだったのか近衛騎士団の基地へと迷い混んだのだ。そこへ親切な宿直の騎士が声をかけ、後ろ暗いところがあった(と、思われる)男はあろうことか騎士に魔法攻撃を仕掛け逃げたしたのだ。
突然のことで驚いた騎士は怪我こそないものの、男が逃げていくのを呆然と見ていることしかできなかった。やがて状況を理解した騎士が仲間に連絡しに行ったのを見届けると、ロビンは庭園の方に行った男を捕まえに行き──今に至る。
「どこ行った、あの男!
────って、ロビンさん!?一体何でここに……?」
「ようやく来たか、遅いぞ」
ロビンは後ろからバタバタと追いついた男たち──騎士たちに呆れも隠さずピシャリと言った。若干苛立った様子に騎士たちは、うっと言葉に詰まってしまった。それを見てロビンはため息を吐く。
「てか、ロビンさん……今日非番でしょ!?なんでいるんすか!」
「私は夜会の招待客だ。父の名代だがな。ほら、証拠にスーツを着ているだろう?」
ロビンはあらかじめ、皇子と口裏を合わせそう装っていた。細かい事情(皇子に頼まれたこととか)を言えないため本来の招待客の父には反対されたが、察しのいい母に蹴られて気絶した後代理人となった母に許可を得た。
……フラメント家では、父は母に勝てないのだ。
「“疾風”のロビンさんの動きに耐えられるって……どんな改造スーツっすか、それ」
ロビンは皇子専属護衛という肩書き以前に、元々名の売れた騎士だった。……でなければ、乳兄弟だから専属になれたのだという批判が飛び交っただろう。
多大な功績とそれに合わせて増えていく二つ名のうち“疾風”は、異常なまでの速さと風魔法を好むことから、国王直々に命名された。そのことを知らぬ者はこの国の騎士にはいないだろう。
そして、そんなロビンの服はロビンの動きに耐えきれずすぐに摩りきれてしまう。そのため、少し値は張るのだが、基本的にロビンの騎士服は特注品だ。もちろん、今回のスーツもである。
縛り上げられた男を受けとりながら、騎士たちはロビンのスーツの頑強さに心うちで拍手を送った。
一通りの仕事を終えると、ロビンは踵を返してその場を去ろうとした。が、そこへ騎士の一人が声をかける。
「ロービーンーさぁん?どちらにいかれるんすかぁ?」
「まさか、これについての調書作成から逃げる気っすかね?」
「お客だからって、そうは問屋が卸さないっす!」
「む、いや。ちが……」
違う、妹を待たせてるんだが。と続くはずたったロビンの呟きは、音になる前に掻き消された。
「そーら、騎士B、C、D!ロビンさんを確保だぁっ!」
「「「イエッサ!!」」」
自称騎士Aによる号令で三人がかりの拘束を受けたロビンは荷物よろしく騎士団基地の事務室へと運ばれていった。
ロビンは書類作業が苦手なのだ。しょっちゅうミスをしては、そこで書類が滞ってしまう。そしてついた二つ名は──“吹き溜りのロビン”。非常に不名誉な二つ名だ。……本人は気にしてないが。
そしてロビンは事務室で書類を受けとり、次いで(しぶしぶ)訪れた尋問室で調書を取り始めた。そこで、捕まった男は驚きの事を口にした。
──皇子に毒を盛った。という、信じがたい出来事を。
さらにそこへ今日の皇子担当の近衛が皇子行方不明を告げる伝令を持ち込んだとき、ロビンは部屋を出ていった。
その様子に捕まった男は愉快そうに表情を歪めていた。
「────もう、手遅れさ」
ロビンが加速する度に近くの植物はキシキシと悲鳴をあげ、可憐な花は千切れていく。その様子を見て内心で庭師と犠牲になった植物に申し訳ないと思いつつ、狙いを定めると風魔法で木を一本切り倒した。
「うわっ────おぐぇ」
馬車に引き殺されたカエルのような悲鳴と共に男は木──いや、丸太(?)の下敷きになった。
ロビンは素早く駆け寄ると男に剣を向けつつ、拘束魔法で男を雁字搦めした。もはや端から見ると簀巻きにしか見えない。
「くそぉ!放せ、このっ!」
捕まってなお鬱陶しい男を見下ろし、ロビンはここまでの経緯を振り返っていた。
「ロビン、すまん。……今度の夜会、俺付きじゃなくていいから来てくれないか?」
そう頼んできたのは、ロビンの幼馴染みであり乳兄弟でもあるこの国の皇子だった。
皇子は今度の夜会の開催目的に困惑していた。皇子──つまり、自分の嫁探しというものに。
皇子曰く、別に女性が嫌いなわけではない─これを聞いたとき、ロビンは目が据わった─のだが、とある事情によりまだ結婚する気がなかった。
だから、婚約者どころか恋人もいないロビンに出てもらうことで、自分に寄って来るだろう女性を牽制してもらいたいと考えたのだ。
ロビンは自覚していないが、かなり女性受けする見た目だから、かなり効果があるだろう、と。
その夜会の日は非番だったのだが、滅多にない友の本気の懇願にロビンは一二もなく快諾した。……それに、出不精の妹も参加する予定の夜会だったのだ。そのエスコート役として出れば丁度いいと思った。
いざ会場入りして、ロビンは一人の男に目をつけた。
その男は先程の夜会でなぜか終始皇子の側に張りつき、異様な殺気をまとっていた。その手の輩が近づくことはよくあることで、皇子の実力を知るロビンとしては、さほど警戒に値するものでもない。と思っていた。
いざとなれば、自分の代わりに付かせた近衛の者がなんとかするだろう──そう、信じて疑わなかった。
だが、夜会も終盤になりそれなりに役目を果たしたロビンが皇子のもとへ参ろうとしたとき、男の殺気が急に治まり、その姿が会場から去ろうとしたのが目に留まった。
だから、不審に思ったロビンはその男の後を追いかけたのだ。
最初は気づかれないようにこっそりと少し離れた場所から追跡していた。しかし、男は皇城に不慣れだったのか近衛騎士団の基地へと迷い混んだのだ。そこへ親切な宿直の騎士が声をかけ、後ろ暗いところがあった(と、思われる)男はあろうことか騎士に魔法攻撃を仕掛け逃げたしたのだ。
突然のことで驚いた騎士は怪我こそないものの、男が逃げていくのを呆然と見ていることしかできなかった。やがて状況を理解した騎士が仲間に連絡しに行ったのを見届けると、ロビンは庭園の方に行った男を捕まえに行き──今に至る。
「どこ行った、あの男!
────って、ロビンさん!?一体何でここに……?」
「ようやく来たか、遅いぞ」
ロビンは後ろからバタバタと追いついた男たち──騎士たちに呆れも隠さずピシャリと言った。若干苛立った様子に騎士たちは、うっと言葉に詰まってしまった。それを見てロビンはため息を吐く。
「てか、ロビンさん……今日非番でしょ!?なんでいるんすか!」
「私は夜会の招待客だ。父の名代だがな。ほら、証拠にスーツを着ているだろう?」
ロビンはあらかじめ、皇子と口裏を合わせそう装っていた。細かい事情(皇子に頼まれたこととか)を言えないため本来の招待客の父には反対されたが、察しのいい母に蹴られて気絶した後代理人となった母に許可を得た。
……フラメント家では、父は母に勝てないのだ。
「“疾風”のロビンさんの動きに耐えられるって……どんな改造スーツっすか、それ」
ロビンは皇子専属護衛という肩書き以前に、元々名の売れた騎士だった。……でなければ、乳兄弟だから専属になれたのだという批判が飛び交っただろう。
多大な功績とそれに合わせて増えていく二つ名のうち“疾風”は、異常なまでの速さと風魔法を好むことから、国王直々に命名された。そのことを知らぬ者はこの国の騎士にはいないだろう。
そして、そんなロビンの服はロビンの動きに耐えきれずすぐに摩りきれてしまう。そのため、少し値は張るのだが、基本的にロビンの騎士服は特注品だ。もちろん、今回のスーツもである。
縛り上げられた男を受けとりながら、騎士たちはロビンのスーツの頑強さに心うちで拍手を送った。
一通りの仕事を終えると、ロビンは踵を返してその場を去ろうとした。が、そこへ騎士の一人が声をかける。
「ロービーンーさぁん?どちらにいかれるんすかぁ?」
「まさか、これについての調書作成から逃げる気っすかね?」
「お客だからって、そうは問屋が卸さないっす!」
「む、いや。ちが……」
違う、妹を待たせてるんだが。と続くはずたったロビンの呟きは、音になる前に掻き消された。
「そーら、騎士B、C、D!ロビンさんを確保だぁっ!」
「「「イエッサ!!」」」
自称騎士Aによる号令で三人がかりの拘束を受けたロビンは荷物よろしく騎士団基地の事務室へと運ばれていった。
ロビンは書類作業が苦手なのだ。しょっちゅうミスをしては、そこで書類が滞ってしまう。そしてついた二つ名は──“吹き溜りのロビン”。非常に不名誉な二つ名だ。……本人は気にしてないが。
そしてロビンは事務室で書類を受けとり、次いで(しぶしぶ)訪れた尋問室で調書を取り始めた。そこで、捕まった男は驚きの事を口にした。
──皇子に毒を盛った。という、信じがたい出来事を。
さらにそこへ今日の皇子担当の近衛が皇子行方不明を告げる伝令を持ち込んだとき、ロビンは部屋を出ていった。
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「────もう、手遅れさ」
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