異世界で勇者兼聖女なりました!……が、現在ドラゴンにストーカーされてます!?

嘉藤 静狗

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第0章 『辞職からの転生』編

4 ※後書き

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「忘れ物、ないかい?心の準備は?」
「だいじょーぶ、全部オッケーだよ」

 ここは、相変わらず真っ白な空間。
 でも、今は私の足下に複雑怪奇な魔法陣──ホントは魔法円と呼ぶらしい──があった。赤橙黄緑青藍紫……くるくると色を変えながら、ふわふわと淡く光を放っている。泡沫うたかたのように、儚く瞬いて──消えて、結んで。
 それが、この空間によくえて、なんとも幻想的だ。

「それじゃ、イリオス。弟への手紙、頼んだよ?」
「うん、任せて~」

 私が異世界に行くにあたり、一つだけ心残りだったこと。それは、弟──悠音ゆうとの存在だ。
 両親はすでに他界していて、親戚付き合いも特になかったから、たった一人の肉親である弟を、私はそれはそれは可愛がっていた。

 あの子がこれからどうなっていくのか、それだけが気がかりで。私はイリオスに無理を言って、弟への手紙を書かせてもらった。スッゴく渋られたけど、なんとか粘り勝ったのだ。

 ……さすがに届けることは出来ないから、そこはイリオスに任せたけど。ちゃんと届けてくれるって、私は信じてる。


 念を押して後のことを頼むと私は、イリオスと延々と悩んだ末に完成した服──いや、もはや衣装だ──を着崩れを直し、魔法陣の中心に立つ。
 その瞬間、光はさらに煌々と輝いた。

「淋しくなるなぁ……」

 と、そう目を細めて呟いたイリオスは、フワッと空中に浮かび上がり、私の目の前に飛んでくる。
 あらゆる宝石が霞んでしまうような、美しい銀朱ぎんしゅの双眸。ぼぉっと見惚れていると、段々とその顔が近づいてきて──。


 チュッと、額に熱が弾けた。


「───っ!!?!?」
「あははっ!清明さやかさん、かぁわいっ」

 コロコロと、無垢に聞こえる邪悪な声を上げてイリオスは、笑った。
 笑いすぎか──それとも、別の理由からか。目尻には涙が浮かんでいた。イリオスはさりげなく拭っていたが、私は何も言わなかった。……言えなかった。
 そんな私の頭を撫でると、イリオスの私より小さな身体が、魔法陣から離れていく。
 少し、胸が苦しい。泣きそうだ。


 イリオスが指揮者のように手をサッとあげると、足下の魔法陣が大きくなり、回転を開始した。
 ……どうやら、これでホントにサヨナラだ。

「ねぇ、清明さん───……」

 閃光に包まれる刹那、イリオスが小さな声で呟いた。音は分からなかったけど、唇の動きは三つ。
 不思議と、私には何を言ったのかが分かった。

「イリオスヴァスィレマッ、必ず!必ず、私は───……っ!」

 私は必死で答えたけど……その声は、あの方に届いただろうか。それを知るすべを、私は知らない。


 でも、あの時イリオスは、きっと────。









 サアァッ──と、風が駆けて、辺り一面の緑に白銀の波が生まれる。
 見上げた空は、抜けるような快晴で、今まで見てきたどんな空より透き通った青色をしていた。
 ……故郷ニホンの空より、ずっとずっと青かった。

 ふと、太陽を見ていると、急に頬を熱いものが伝っていった。
 眩暈がした気がして、その場に背中から倒れ込む。と、若草がサワリと鳴って私を受け止めてくれた。

「あは」

 喉奥──いや、それよりもっと深いところから、ぐうぅっと迫り上がって来る、何か。その衝動のままに、私は口を開いた。

「あはっ、あははっ!あはははは───っ!」

 狂ったように笑う──私。
 それなのに、目からは涙腺がバカになったかように、次々と涙が溢れてくる。

 狂喜、絶望、憤怒、空虚、哀愁、愉快、安楽、寂寥──様々な感情が入り乱れて、心が飽和してしまいそうだ。
 ただ、ひたすらに声をあげ続けて。内側にわだかまるものを、全て吐き出して。
 ……顎が疲れた頃、ようやく冷静になった。

「これから……どうしよっかなぁ」

 太陽に手をかざすと、自身の内に流れる血潮の色が透けて見えた。
 それは、さっき別れたばかりのあの方の瞳を彷彿とさせるようで──。私の目に、新たな雫が盛り上がる。それが焼けるように熱い、そんな気がした。

 そっと胸に、太陽に透かしたその手を当てると、トットットットッと、いつもより少しだけ早い鼓動を感じた。

「私は、生きてる。だったら───」

 私はすっくと立ち上がると、天に向かって大きく伸びをした。ついで深呼吸して、ふっと息を止めてみる。
 そして、覚悟を口にした。……言霊は、力になるから。

「前を向かなきゃ、ね」

 そうして、私はその場から歩き出した。
 そこに涙は、もうない。





 これから始まるのは、まるでお伽噺のように。何より英雄譚サーガのように、永く後世の人々に受け継がれていく物語。
 とある元・平凡女性の生きた、非凡で痛快な波乱万丈の伝説だ。



 ──そして、それは。
 彼女がやがて幸せになる為に迷走した、長い長い回り道のお話。



 ===*後書き*===*===*===
 隔日投稿はここまで!
 次回からは、基本的に火・金曜日に予約投稿されてます。……たまに、番外編を投下するかも?
 ===*===*===*===*===
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