王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷

文字の大きさ
40 / 44
第11章

もうこの手はほどけない

しおりを挟む
無事に王子様業務を全うした景に彼の自室に連れて行かれた。
ソファーに腰掛けようとすると、ベッドのふちに座らされる。
「そういえば真加、なんでそんな恰好をしているの?」
今更?このマイペースさはロイヤルゆえなのだろうか。
やっと2人きりになれたのに、たらたらと経緯を説明することなんて嫌だから適当にあしらう。
「まあ、そんなことはいいんだよ」
「そっか」
「あっごめん。コスプレみたいだよな。気になる?」
「気になるというか……」
景は目線を逸らした。
「真加が私の執事になったみたいでドキドキする……」
「ん、なっ…、何言って」
もっとまともな答えを想像していたのでうろたえた。
「ごめん、そうだよね」
顔を真っ赤にして俯かれると、久々に会えたこともあってとんでもなく愛おしさが湧いてくる。
てか王子様もコスプレ好きなのかもしれない。
景はたまらないのか真加の肩に顔を落とした。
絞り出すように呟く。
「夢みたいだ……」
「俺も」
「ねえ、本当に私のこと好き?」
縋るような瞳で言われる。王子様は自分の魅力を十分にわかっているのだと強く思う。
「さっきも言ったじゃん。好き、大好きだよ。景は?」
「私も大好きだ」
もぞもぞと景の手が動いて、指を握られる。
「でもね……さっきはみんなの前で宣言したけど、やっぱり私はこんな身の上だからさ、……」
こんな情熱的な瞳なのに、言葉が徐々に途切れていく。
その歯切れの悪さに少し不安になる。
「……え、俺フラれるの?」
自分で言うのもなんだけど今めちゃくちゃ雰囲気良かったよね?温度差がすごすぎてついていけない。
「いや、違う!絶対離れない!、離れないけど!」
「もう!何だよ」
「…私と一緒にいるということは、普通の幸せは手に入らないんじゃないかって思う。私は産まれた時からこうだから、自分のことを不幸だとか思わないけど、それが真加にとってつらいことだったらどうしようかと思うんだ」
「景、」
「その……恥ずかしい話なんだけど、急にひどいことを言ったのは、好かれてもいない相手に執着するのはよくないと、真加のことを考えて手放すべきだと考えてしまったんだ」
あのとき、景に嫌われたのだと思っていた。
「だとしたって、本当に傷付けた。あんなやり方はなかった。申し訳なく思ってる。だから、真加がやっぱり無理だって思うなら、……」
景が決定的なことを言ってしまう前に言葉をさえぎる。
「…俺もさ、絶対大丈夫とか言えないけどさ、でも景のことがもうどうしようもないくらい好きなの。だから、一緒に頑張りたいなって思ってる。俺はまだまだ子どもだし、正直景のつらさとか大変さとか全然わかってないと思うけど…」
椿と新が言った「住む世界が違う」というのは本当のことで、真加が今無知なのはどうしようもないことだ。
でも、これからは。
「ううん。そんなことない…本当に勇気を出してくれてありがとう。もう絶対に離さない。一緒に頑張ろう」
景に体を引き寄せられ、ぐっと抱きしめられた。体がぴたぴたに合わされると、安心して力が抜ける。
手の感触を背中に感じて、ふと怪我のことを思い出した。
「いやでも俺も…謝らないといけないことがあるし…」
「え、何?」
「俺のせいでアーチェリーの強化合宿出られなかったって…その、手を刺したって……俺全然知らなくて」
あの日の真加は薬で強制的に発情をして理性が飛んでいた。景にまで気を配る余裕は全くなく、彼がどうして本能に逆らえたのかまで考えていなかった。
しかし、景は「ああ、そんなこと」と抱きしめていた腕を解いて言う。
「そんなことじゃないだろ。ネットでオリンピックレベルって見たよ」
「それはデマだよ。まあでも…あれは私が勝手にやったことで、真加は気にしないで…って無理?」
「…うん」
「手のことは誰に聞いたの?」
「…椿さんと新さん」
小声で言うと景は「またか」と眉をひそめた。
「あれは、手のこともあったけど公務の都合とか、色々あって辞退したんだ。大体私が合宿に行くとなると先方も色々大変でしょ?」
「そうかもだけど…向こうだっていい宣伝なんだからウェルカムじゃないの?」
「それが難しいところだよ。私が選ばれるということは、誰かが選考から漏れることになる。部活の範囲ならまだしも国代表だからね」
「そういうことじゃなくて、景は行きたいとか思わなかった?」
そう言うと景は目を少しぱちくりとさせた。思ってもない返しだったかもしれない。
いつも景は皇太子としての自分ばかり気にしている。しかし、彼の真意が知りたかった。
「うーん…。別に興味の無かったと言えば嘘になる。けど、行けなかったのはさっきも言ったように色々あったからで、誰のせいでもないんだ。だから謝らないでほしい」
強情な景だから、これ以上言っても真加はどうにもならない気がした。
「じゃあ景、手を見せて」
差し出された手は、よく見るとうっすらと怪我の跡が残っているような気がした。
「玉体にとんでもないことを」
「大したことじゃないってば。だって、あの時夏理くんだっていたし、真加を任せられる人間はいくらでもいたのに、わざわざ部屋に行って、勝手に怪我まで作ったんだから」
そう言われると、もう何も言い返せない。
「ずるい」
また強く抱きしめられる。わけもなく涙がこぼれそうになる。
「ずるくて結構。ひどいことを言ったのにまた真加が戻ってきてくれたんだ。もう手放さない」
「……あ」
「え?」
「いや、今じゃないよって感じなんだけど、父さんのことを急に思い出して」
この公開大告白のきっかけでもある、父とのやり取りをふと思い出した。
「何かあったの?」
家族の悩みを知っている景は心配そうに見つめてくる。
「俺さ、この前父さんに景と付き合ってるのかなんて聞かれてさ」
「え!」
「いや、景がSクラスに戻ったあとの話ね。そしたら、跡継ぎとして天風に入れたのに、そんなことになったら困るって」
「え!」
「家だとか、アルファとかオメガとか、俺が気にしすぎてただけだったんだ。それでも、景が居場所を作るって言ってくれてすごく嬉しいのは変わらないけどね」
真加は気分が良くなって、景の背中に手を回す。そのまま胸に頬を預けると、多幸感に包まれた。
そして、景にゆっくりと腕をほどかれる。
顔を見上げるとやけに真剣そうに口を真一文字に結んでいた。
「つまり…君のお父様は、私たちの付き合いに反対ということか?」
「…いや、どうだろう。あの時はありえないとか言っちゃったから、実際そうなったら父さんは何て言うかわかんない」
「そ、そう……じゃあ、今度挨拶に行かせて」
「……また今度ね」
「うん。頑張るからね」
うちの家族が驚きで白目をむく姿が容易に想像できた。
「…でも、お父様の本当の気持ちがわかって本当によかったね」
「うん。ちょっと照れるけど…帰省とか、ちゃんとしないとなって思ったよ」
急に景を連れてきたらびっくりするかもしれない。大事な話だから、景と一緒にいるためにも、家族にちゃんと話さないといけない。
景の瞳に、よく見ると真加の影が映っている。この現実とは思えない距離が、当たり前になるように強く祈った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

処理中です...