ごーいんぐ魔人うぇい~魔人に転生しての気ままに我儘な異世界ライフ~

伊達メガネ

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第四章

そして転生へ……って、魔人? なにそれ、聞いてないよ~~!

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 大きな黒板と、その手前に教壇と教卓、更にその前には教科書と思われる物が幾つか置かれた机と、イスが二つ並んでいた。
 教壇の上には、元の世界さんが浮かんでいた。
 それと、差し棒とメガネが一緒に浮かんでいた。恐らく差し棒を持って、メガネをかけているということだろうが、基本、元の世界さんは肉体が無く、光だけの状態なので、違和感しか覚えない。
 右手を挙手する。
元の世界さん先生質問があります」
 差し棒の先端が、こちらに向けられる。
『なんでしょうか? 人生君』
「いきなり「勉強」って、どういう事でしょうか?」
『これから人生君には、異世界に転生してもらう訳ですが、現在は異世界のことなど何も知らない状態です。そこで、前もって異世界のことを知る為の「勉強」になります」
 なるほどね。元の世界でも日本と外国とでは、常識やしきたりが違うのはけっこうあるからな。ましてや、世界そのものが違うのだから、気を付けないといけないことも多いだろう。
「そう言うことですか。「郷に入っては郷に従え」って言いますし、確かに、「勉強」しておいた方がよさそうですね。まあ、それはいいのですけど――」
 顔を右に向ける。
 隣には異世界ちゃんが、ちょこんとイスに座っていた。
「なんで異世界ちゃんまで生徒こっち側なんですか?」
『なんとなく~~』
「なんとなくなんだ……」
『では、授業を始めさせていただきます。まずは、手元にあります「基礎 異世界Ⅰ」を――』
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『――のように異世界には、元の世界では目にしたことがない、多種多様で巨大な動植物が数多く生息しております。
 なぜそのような生物が生息しているかと言われると、根本的には両者の世界を構築する設計思想の違いから生じるもので、極論から言ってしまえば、異世界ちゃんがそのような生物を、生息させたいと考えたからです。
 勿論、だからと言って、それだけで、このような生物を生息させ続けることは難しいです。これには、ちゃんとした理由があります。通常、生物が真っ当な生命活動を行う為には、十分で適切な栄養素を摂取する必要があります。例えば、元の世界でも象の一日の食事量が100㎏を超えるように、大型の生物ほど多くの食料が必要になります。しかし、異世界に生息するような巨大な生物ともなれば、その量は計り知れず、食事によって生命活動を維持するのは、実質的に不可能だと言えます。
 では、なぜ異世界では、そのような大型の生物が生息できるのか、その最たる理由が、マナの存在です。
 マナとは極微サイズの粒子で、その正体は星から溢れ出た生命エナジーであり、生命活動に必要な栄養素の代わりを果たします。しかも、異世界のいたる所に存在する為、呼吸するだけで簡単に摂取することができるのです。その為――』
『……スゥ~~……ピィ~~……グスゥ~~……ピィ~~……』
 ……異世界ちゃん開始一分と立たずに、寝ちゃってるんだけど……。
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『――ました浄脈も能脈どうみゃくと同じように、血管のように星に張り巡らされています。しかし、その役割は大きく異なり、能脈がマナを循環させる役割に対して、浄脈は毒素から変質した瘴気を循環させています。これは瘴気が世界中に拡散するのを防ぐ為であり、まとめることで効率よく浄化させる為の措置になります。つまり、浄脈は世界中を循環して瘴気を集めながら、更に浄化までさせている訳ですね。
 ただし、割と勘違いされる方が多いですが、マナと瘴気は比例するプラスとマイナスのような関係ではなく、増減する値は完全に独立しています。勿論、ひとつの空間に、蓄積できる粒子の数には限度がありますので、そういう意味では空間容積がひっ迫した状態でマナが減少した際に、代わりに瘴気が増加することはありますが、空間容積に余裕がある状態では、その事態ではありません。よって能脈と浄脈が緊密な地域では、マナと瘴気の両方から強い影響を受けることになるのです。
 実は、この状況は大変由々しき事態を孕んでいまして、魔物は基本的に瘴気から生まれます。更に、濃い瘴気からはより強い魔物が誕生します。これにマナの生命エナジーが加わると、非常に強力な魔物へ強化されてしまうのです。その力は同じ種類の魔物でも段違いに変わりまして、異世界に住まう人々からは「強化種」と呼ばれ、恐れ憚られています。
 ただ、幸いなことに魔物は瘴気から生まれ、瘴気を糧にして生きている性質上、瘴気の存在する場所にしか生息できません。これには例外はなく、「強化種」なども同様で、基本的にその場所から動くことはありません。
 そもそも瘴気は生命に悪影響しかなく、瘴気が濃い場所では、生命活動を行うことすら困難を極めます。元々そいった場所は禁足地なっており、一般の人は立ち入ることはできません。つまり、すき好んでこちらから出向いてでも行かない限り、本来、魔物とは出会う事すらないのです。特に禁足地となっている地域の一部には、「変異種」と呼ばれる――』
『……むにゃむにゃ……ナマケモノはカワイイ……アオウミウシもカワイイ……ハダカデバネズミは……カワイイかも……グスゥ~~……ピィ~~……』
 ……寝言か。ナマケモノは……カワイイか。アオウミウシがカワイイかは疑問の余地があるな。ハダカデバネズミは……可愛くないだろ。
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『――スキルの存在が一般的に認知されており、日常的に目にすることが出来ます。例えば、建築現場では身体向上系のスキル、狩猟や漁業などでは探知系のスキル、製造業では錬金系のスキルなど、様々な分野で多種多様なスキルが使用されています。
 ただし、誰もが簡単にスキルを使用できる訳ではありません。やはりある程度の才能と修練が必要になります。それと、スキルの認識や管理についても、ゲームのメニューのようなUIは存在しませんので、どうしても個人の感覚に依存する部分が大きく、使用できる人を選別する傾向があるのです。
 先程も申したように、異世界には多種多様なスキルが存在しますが、大きく二つの系統に分けることが出来ます。一つは武技アーツと呼ばれるもので、OPを消費し体内で気を練ることで身体能力を向上させたり、気を他のエネルギーに変えて、体外に放出することができます。もう一つは魔法マジックと呼ばれるもので、MPを触媒に様々な呪文を駆使することで、世界の仕組みに影響を与え、意図した事象を引き起こします。
 基本的に両者の違いは、内に作用させるか外に影響を与えるかだけで、実は根本的な仕組みは同じなのです。少々強引な例えにはなりますが、OPやMPが絵具で、動きモーションや態勢、呪文などが筆になり、体内や体外がキャンバスとうイメージです。絵具をつけた筆で描かれた絵が、スキルの発動した結果という形ですね。
 まあ、実際には存在の影響や時の流れ、裏のパワーバランスなど他にも様々な要因がありますので、これが絶対的な仕組みという訳ではありません。あくまでも基本のようなものです。それに、最初に言ったことと真逆になりますが、スキルによってはOPや、MPを消費しないものが存在します。具体的に言えば、固有スキルやユニークスキルなどそれに該当するのですが、こういったスキルは、今話した仕組みに全く当てはまらないケースになり――』
『……スゥ~~……ピィ~~……これぐらっいの~~♪ バックドロップに~~、唐揚げ被って! 洗濯機にド~~ン! ……むにゃむにゃ……』
「今の寝言は何⁉ いや、どういう夢見ているの!」
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『――以上で授業は終了となります。一通り異世界について講義いたしましたが、如何ですか、ご感想は?』
 思わずため息がこぼれ落ちた。
「ハァ~~……。正直、長かったです……」
 しかし、異世界ちゃんが真逆の感想を述べる。
『あれれ~~、もう終わり~~? 瞬きするぐらいの間しかやっていないよ~~』
「そりゃあ異世界ちゃん、ずっと寝ていたからでしょうが……」
『それでは、勉強の成果を確認する為に、テストを行いましょう』
 元の世界さんの言葉に悲鳴を上げた。
「テスト―⁉ そんなの聞いてないよー!」
『ええ、今初めて言いますからね』
「……そんな堂々と言われても」
『何言ってんの~~! 勉強の後にはテストが付いてくるのが、学生の常識でしょうが~~』
「まあ、そうですけど。学生がテストを嫌うのも、常識だと思いますけど。後、異世界ちゃん口から常識なんて言葉を聞くとは、思ってもみなかったです」
『見ちょれよ~~! 百億満点取ってやるぜ~~!』
「言っている意味はよくわからないですけど、その自信はどこからくるのですか? ずっと寝ていたのに……」
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 どこからともなくチャイムが聞こえてきた。
『テストはこれにて終了です。筆記用具を置いてください。答案用紙を回収します』
 あ~~この瞬間の口惜しいような、どうでもよくなるような感覚って、いくつになっても変わらないなぁ。
 机上の答案用紙がひとりでに浮き上がり、元の世界さんの前に飛んで行った。
 そして、元の世界さんは答案用紙を、一瞥することすらなく言った。
『それでは、採点結果を発表します』
「早!」
『先ずは、異世界ちゃんからです。採点の結果は……百点満点です!』
「マジで!」
 それは流石に予想外過ぎるだろ! どうなっているんだ? 普通に不正か? ……いや、待てよ。よくよく考えてみれば、そもそも異世界の問題ってことは、異世界ちゃん自身のことだよな。そうすると、これはある意味、当然の結果なのか……?
『チクショウめ~~! 百億点取れなかったじゃねぇか~~!』
「いや、百点満点なのに、百億点は取れないでしょ」
『それでも百億点取るのが、プロってもんでしょうが~~!』
「なんのプロですか……」
『因みに、合格点の九十点を下回りますと、電流爆破されますのでお楽しみに』
 元の世界さんの唐突のぶっこみに、抗議の声を上げる。
「なんで⁉ そんなのマジ聞いてないですけど!」
『ええ、これも今初めてお伝えします。サプライズって言われるものですね。イェーイ!』
『何言ってんの~~! テストに電流爆破が付いてくるのは、学生の常識でしょ~~!』
「そんなサプライズは要らないですし! そんな常識がある訳ないでしょ! いや、そもそもこれまでもおかしくないですかっ? 今って肉体が無くて魂だけの状態なんですよね? それなのに爆破でダメージや、痛みを感じるのは変でしょう!」
『今ですか……? ここまできて、今更それを聞きます?』
『あ~~あぁ。なんか人生君って、そういうところあるよね~~。そのツッコみのタイミングは、どうなのかな~~?』
「え⁉ 何この空気? なんで自分が悪い感じになっているんですか?」
『あ、人生君の採点の結果は、七十点ですね。残念でした』
『あちゃ~~。どうにも広がんないし、笑いにも変換できない最悪の点数だ~~』
「結果言うのハェーよ! いや、それ以前に全然こっちの心構えができていないし、こういうのって、も〇たみのばりに、溜めに溜めてから伝えるもんじゃないですか? それに、さっきからひとを空気の読めない芸人みたい――」
 突然、体の中を強烈な電流が駆け巡る。
「アババババババババァァァァ――――‼」
 そして、大爆発を起こした。
「ウギャァァァ――――っ‼」


 結局、合格点を取るまでに、テストを五回受ける羽目になった。その都度、赤点を償うダメな学生の如く、補習を受けさせられた上、不合格のたびに電流爆破の餌食にされた。
 ……これまでの中で、地味に一番つらい。
 元の世界さんと異世界ちゃんふたりに念を押して確認する。
「本当に……本当に! これで終了ですよねっ?」
『ええ、後は転生して生まれ変わるだけですね。他には何もありません』
 元の世界さんの言葉に、取り敢えずホッと胸をなでおろした。
 流石にもうネタは尽きているようだし、今回は信じてもいい気がする。
「それにしても、異世界への転生があるたびに、毎回こんなことをしているのですか?」
『いいえ、普段は世界の管理を任せております女神が行いますゆえ、我々が関わることは一切ありません』
「へぇ~、女神なんて者が存在するんですね。いかにも異世界って感じがしますね。それでは、今回はどうしてまた?」
『あまりにも暇だったものですから、今回は我々が対応してみたのです』
『なんか面白いことはないかなぁ~~って思ってさ』
「そうなんだ……」
 納得はしたくないけど、この元の世界さんと異世界ちゃんふたりらしい理由だな……。
「じゃあ、普段はその女神さんが同じように、転生する人たちを爆破して――」
 唐突に、異世界ちゃんが話に割り込んできた。
『ジャジャ~~ン! 見て見て~~!』
 いつの間にか異世界ちゃんの傍らには、大きなキャンバスが浮かんでいた。
 言われた通りにキャンバスを見ると、そこに描かれていたのは異形の者であった。顔の大部分を占める大きな一つ目に、頭髪は無く額が鉢金のように迫り出していて、焼けた肌に筋骨隆々とした肉体、腕は全体のバランスから見ると少し長めに感じ、恐竜を思わせるような太い腿に鍛え抜かれた足に、体の節々や所々が高質化しているみたいで、臀部から細長い段々上の尻尾と、太くて長い蛇のようなイチモツが生えていた。
 ……バケモノだな。こんなのと街中でバッタリ出会ってしまったら、みんな一目散に逃げちまうよ。
「なんですか? この絵は……」
 異世界ちゃんが嬉々として答えた。
『これは魔人なの~~! カッコイイでしょ~~!』
「カッコイイ……?」
 おおよそ一般人の感覚で、カッコイイと思うかぁ? まあ、でも、異世界ちゃんならカッコイイと思いそう。
「魔人……ですか。それは魔物の一種的な者?」
 異世界には魔物が存在するって話していたけど、魔人こんなのがゴロゴロ居たら嫌だなぁ。
『魔物じゃないよ~~! 魔人は“人”なんだから~~!』
「いや、どっからどう見ても“人”ではないでしょ!」
『“人”って入っているから、“人”なんだよ~~!』
「それを言ったら、法も木も怪も“人”になってしまいますよ!」
 あ! 怪人は改造だから“人”でもいいのかな? いや、二十面相なんて者もいるし、必ず改造されているとは限らないか。そっちでも“人”ではあるけれど……。
『どうしても魔人を“人”として認めがたいようですが、魔人これは貴方が転生した姿になります』
 不意打ちともいうべき元の世界さんからの爆弾発言に、驚愕して耳を疑った。
「ハィィィィィ――――⁉ ど、どういうことですかっ?」
『元々貴方自身が望んだことですが、これまでに色々なスキルを付加させましたよね? しかし、通常の人の肉体ですと、ここまでのスキルを扱うことは出来ません。その為の措置が、魔人になることなんです』
『こういう風に強くなりたいって言ったのは、キミだよね~~? でも~~、魔人にならないと、色々なスキルに耐えられなくて、アボ~~ンしちゃうよ! アボ~~ン! 鉄〇君みたいになっちゃってもいいの~~?』
「い、いや、なんかこっちが望んだように言われても! ……そうかもしれませんけど。な、なんか、他に、もっと他に別の手段は無いのですかっ? 魔人この姿はちょっとご遠慮したいです……」
『無いですね』
『無いよ~~』
「無いのかよ! だったら、もう――」
 元の世界さんと異世界ちゃんふたりが、オレの言葉を遮った。
『おや? 断るつもりですか? ここまで色々と行ってきたのに』
『断っちゃうの~~? なんかもったいないような~~』
「うっ……」
 確かに、ここで断るのは、凄く惜しい気がする。これまで砂漠のど真ん中に放り投げられたり、真鉄人君に何回もボロボロになぶり殺されたり、有無を言わせず理不尽に爆破されたり、他にも散々ひどい目に合いながらも、どうにかここまでやって来た。その苦労を全て投げ捨てて水泡に帰するのは、かなり不本意である。
 しかし、だからと言って、魔人あの姿になるのを許容できるかは、また別の話だ。
 魔人あれじゃぁな。絶対に友達なんてできそうもないし、友人になりたいとも思わないよ。って言うか、普通に村八分にされるだろ。嫌だよ、異世界に転生してまで、そんな目に合うのは……。だけど、そうすると、今までやってきたことが、全てパーになるんだよなぁ……。
「う~~~~ん……」
『随分とお悩みのようですね。一応生まれ変わった時から、“魔人”になっている訳ではありません。後々記憶が戻ってから、どうするか決める形になります』
 元の世界さんの言葉に、眉をひそめた。
「記憶が戻ってから……?」
『転生した直後ですと、存在が不安定な上、体も出来上がっていませんから、記憶の定着が難しいのです』
『その状態で記憶が戻っちゃうと~~、それこそアボ~~ンしちゃうよ! アボ~~ン!』
「えっ⁉ でも、前世の記憶がないと、色々と付けてもらう予定の恩恵って、使えないですよね? 恐らく使い方などわからなくなるでしょうから……。いつ戻るのですか? 記憶は……?」
『そのうちどっかで戻るよ~~』
「いや、「そのうちどっか」と言われても、おじいちゃん辺りになってから思い出しても、全然意味がないんですけど!」
『そのうちは、そのうちです』
『どっかは、どっかだよ~~』
「ちょっと待ってください! それだと話が全然変わってくるじゃないですか! そもそも異世界でも難なく生きて行けるように――」
 元の世界さんと異世界ちゃんふたりが、さもめんどくさそうな調子で、オレの言葉を遮った。
『そのお話は長いですか?』
『もう飽きちゃったから~~、とっとと先に進めようぜ~~』
『オイ‼ ふざけんじゃないよっ‼ なんだよその態度は‼ こっちはいきなりこんなことに――」
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 ……という事を、朝目覚めると同時に思い出した。
 異世界に転生して気付けば四十年。既に人生の折り返し地点を過ぎていた。
 マジかよ、このタイミングで記憶が戻るかぁ? もっと早く記憶が戻って欲しかったよ……。あの後、散々揉めに揉めたけど、結局のところあの元の世界さんと異世界ちゃんふたりに強引に押し切られて、転生する羽目になったんだよなぁ。
 目の前にはA4サイズほどのウインドウが二つ、縦と横に並んで表示されていた。
 縦のウインドウには、異世界ちゃんが提示した魔人が映し出され、横のウインドウには「改造しますか?」のメッセージに、「承諾」と「保留」の文字が点滅していた。
 この記憶がオレの夢や、妄想でないことは確かだな。にしてもいきなり「改造しますか?」って、ちょっとダイレクト過ぎるでしょ。もう少しオブラートに包むことは出来なかったのかね? って言うか、“改造”ってことは“改造人間”になるのか? サイボーグなの? “魔人”になると言う話では? それとも“魔人”は“改造人間”の一種なのか? う~~ん、わからないな……。まあ、いいや。後でゆっくり考えよう。今は差し当たって、他に頭を悩まさなければならないことがある。
 取り敢えず「保留」をタッチすると、「メニューを呼び出すと、再度確認のメッセージが流れます」と、メッセージが暫く表示された後に、ウインドウは消えて無くなった。
「……さてと、仕事に行きますか」
 手早く身支度を整えると、荷物を抱えて安宿を後にした。
 向かった先には、早朝でも既に多くの人が集まっていた。年齢や性別、人種も様々だが、皆一様に多くの荷物を抱えている。
 そこにタイミング良く五両の幌馬車と、鎧を身に纏い馬に乗った者が十人ほどやって来た。
 幌馬車は元の世界でいうところのバスみたいなもので、牽引するのは馬ではなく、ライウと呼ばれるモンスターだ。
 ライウはモンスターだが、性格は温厚で家畜化しやすく、耐久性とスタミナに優れている上、モンスターだけあって馬力? があることから輓獣ばんじゅうとしてよく使用されている。
 周りに居た人々が、荷物を抱えて幌馬車に次々と乗り込んでいく。
 幌馬車の中には弓を背負った男がいて、乗り込んでくる人々からお金を受け取っていた。
 この弓を背負った男と、周りの鎧を身に纏った馬に乗る者たちは、全て冒険者だ。これから向かう先は盗賊やモンスターがよく出没する地域で、幌馬車の運行元から道中の警護をする為に雇われている。
 自分も頃合いを見計らって、弓を背負った男そいつにお金を渡して乗り込んだ。支払ったお金の額は少々お高いが、今回ばかりは致し方ない。お金は大事だが、命はそれ以上に大事なものだ。それより問題は、何故そのような危険地域へ、自ら好んで行かなければならないかという事だろう。
 話は一かけ月ほど遡る。
 自分の住む国と隣国はかねてから領土問題で争っていた。そのせいで外交関係は悪化の一途をたどり、最近では戦争の機運が高まっていた。
 そこに目を付けたのが、自分が勤める店の店主だ。
 「先んずれば人を制す」って奴で、他より先駆けて自国や近隣諸国などから、時には強引な手法も使って、軍事物資を大量に買い占めた。
 ここまでなら店主の商才を、称賛することが出来たかもしれない。
 問題はここからだ。
 自国の補給担当官との商談の席で、店主が意気揚々と提示した金額は、通常の流通価格よりも桁が二つほど多かった。完全に足元を見下しまくった金額である。
 正直、バカだと思った。いくらなんでもやりすぎだろう。
 これには補給担当官が激怒した。おまけに、商談の決裂どころか、今後の取引の停止まで言い渡される始末。
 しかも、話はこれだけでは終わらない。
 どこをどうやったらこうなるのかわからないが、突如として自国と隣国との外交関係が復調し、戦争の話自体がどこかへ飛んで行ってしまった。
 つまり、買い占めた軍事物資は、完全に無用の長物となってしまった訳だ。
 個人的どころか、大多数の人々は戦争が回避されたことに万々歳であったが、店主としてはおかげで軍事物資を捌くことが出来なくなって大慌て、このままいけば店が潰れてしまう可能性だってある。って言うか、十中八九潰れる。
 そこで、その後始末の貧乏くじを引かされたのが、このオレだ。
 自国や近隣諸国では、到底、軍事物資を捌くことが難しいので、やって来たのは遠く離れたクスの国。目指すはタカハって街だ。
 そこは、街中にダンジョンが在ることで昔から有名な街で、店主曰く「冒険者などの腕自慢が普段から多く集まっているので、大量の軍事物資も捌ける筈だ!」とのこと。
 正直、「んな訳ねぇじゃん!」と思った。
 「先んずれば人を制す」って奴だ。昔からダンジョンが在ることで有名な街で、普段から多くの冒険者や腕自慢が集まっているなら、古くからそれを目当てとした連中が、常日頃から多く集まっている筈だ。今更よそ者が入り込む隙間など、一ミリたりともあろう筈がない。
 だが、そうは言っても、このままいけば店が潰れる憂き目にあうことも事実だ。それによって、自分自身も路頭に迷うことになるかもしれない。
 結局、色々と不本意ではあったが、タカハの街へ商談に赴くことに決めた。
 因みに、当の店主本人は危険な地域に行くのを嫌がって、全て自分に丸投げしてきた。全く腹立たしい限りである。
 幌の中から外を眺めると、空は雲一つなく晴れ渡り、二羽の鳥がじゃれ合いながら自由に飛び回っていた。
 ……異世界に転生しても、あんまり変わらないな。オレの人生。


 タカハの街に着いた頃には、大分日が傾いていた。
 道中、特に何事も無く、無事にたどり着くことが出来たのは幸いだったが、それならそれで支払った運賃が少々高めな分、恨めしく感じる。実に現金なものである。
 幌馬車から降りると、大きく体を傾けて背伸びした。半日ほど幌馬車の中に押し込められて、体が凝り固まっている。
 直ぐ傍には、大きな城壁が聳え立っていた。かなりの広範囲にわたって築かれていて、その屋上には等間隔に見張り台と、幾人かの兵士の姿が見える。
 予想していたより遥かに大きな街だなぁ。警備も厳重そうだし、安心ではあるんだけど、逆に言えば、これだけの備えをする必要がある訳だ。
 城壁の反対側を見ると、黄金に輝く麦畑が一面に広がっており、遠くの方にも幾つか耕作地が見える。
 絶景だなぁ。ホントいい景色だね……。
 そこはシクツ平原。農耕が盛んな緑あふれる豊かな土地で、特に麦の産地として有名だ。
 しかし、もう一つ有名なものがある。モンスターが非常に多いことでも有名なのだ。
 これは恐らく、この付近に能脈でも通っていて、マナが影響しているのではないかと思う。
 マナは生きとし生けるもの全てに恩恵を与え、動植物の成長を助け育んでくれるが、それは同時に、モンスターに対しても恩恵を与えてしまうのだ。
 歯がゆいねぇ。これがこの世界の一番いい所なんだけど、一番悪い所でもあるんだよなぁ。
 弓を背負っている男が話しかけてきた。
「お前さん、観光って訳じゃねぇよな? 周りが気になるのもいいが、とっとと並んだ方がいいぜ。時間がかかるからよ」
 弓を背負っている男が示した先には、大きな石造りの門があり、人々が長蛇の列をなしていた。その傍らには数人の兵士が控えていて、鋭い目を光らせている。
 幌馬車から降りた人々が、次々と長蛇の列に並んでいく。
 おっと、確かにその通りだな。こんなところでいつまでもボーっとしていられない。日が暮れちまうよ。
 弓を背負っている男に礼を言うと、自分もそれに倣って後に続いた。
 結構な時間と列が進み、ようやく門の中へとやって来た。
 そこに居たのは、ニヤニヤと笑みを浮かべる妙にひょろ長い兵士だった。
 初対面でこう言ってはなんだが、あまり好きになれそうもない奴だ。
 にやけ面の兵士に街へ来た目的を告げながら、台帳に必要事項を記載し終えると、街に入る為の税金を支払った。
 唐突に、にやけ面の兵士が馴れ馴れしく肩を組んできた。
「随分遠くからやって来たんだな。ご苦労なこった」
 なんだ、コイツ⁉
 嫌悪感を抱きながらも、顔には出さすに答える。
「いえいえ、商いの為なら致し方ないことです。昔から商人とは、売り手や買い手も求め旅から旅を続ける者でして、こういうことにも慣れております。別段苦労には感じないですよ」
「へぇ~~、そうかい。ところでアンタ、この街に来るのは初めだよな? そうすると色々と心配事もあるもんだ。そこでこんな物があるんだけど――」
 にやけ面の兵士が懐からペンダントを取り出した。
「……なんですか? それは……」
「お守りみたいな物さ。まあ、この街限定ってことにはなるけど、色々と災難を避けることができる。アンタだってそういう目に合うのは、ご免だろ?」
 にやけ面の兵士は分かっているだろと言わんばかりに、意味ありげに笑った。
 職業柄、色々な所を旅していると、こういうことがたまにある。下っ端の役人などが小遣い稼ぎによくやる手だが、何か困ったことがあった時に、色々と便宜を図るからとそそのかして、物を売りつけてくる。とある筋の方々がやっている、おしぼり代とやり方は変わらないが、実際に何かあった時は一切何もしてくれないで、こちらの方がかなりたちが悪い。
 そういうことね。最初はなから気に食わない野郎だと思っていたけど、マジで気に食わない野郎だな!
「へぇ~~! そういう物があるのですか。なかなか興味深いですね……あっ! ところで今、時間はどれくらいですか? いや~約束があることを忘れていましたよ! すみませんね、遅れるといけませんので、これにて失礼します!」
 にやけ面の兵士の腕を強引に振り解くと、そそくさと歩きだした。
 後ろ手に舌打ちが聞こえてきたが、無視して一切振り返らずに歩いて行く。
 無論、約束などありはしない。今回の旅費などは今のところ自腹で出している。商談が上手く纏まれば必要経費として、後ほど店主が出してくれるだろう。しかし、思うような成果が上がらなければ、ビタ一文補ってはくれない。店主アイツはそういう奴だ。それなのにこんなところで募金するほど、ボランティア精神に富んではない。


 夕焼けが街全体を赤く染めていた。
 人通りの多い広い通りを、トボトボと歩いて行く。
 タカハの街はかなり栄えているようで、通りも建物を大きく、多くの人が行き交っていた。
 まいったなぁ。結構な時間になっているし、これどこに向かへばいいんだ?
 初めて訪れる縁もゆかりも無いタカハの街では、懐具合に見合った宿を見つけるのも難しい。その為、登録がてら商人ギルドに紹介してもらおうと考えていたのだが、場所がわからない上、何時まで開いているかも定かではない。
 本当だったら入口で確認する筈だったのに、これもあのにやけ面の兵士クソ野郎のせいだ!
 しかし、幸いにも商人ギルドは入り口の門からほど近い、広い通りの目立つ場所に在ったおかで、思っていたよりも直ぐに見つけることができた。
 商人ギルドはレンガ造りの割と大きな建物で、汚れや目立った破損部分は見られず、よく手入れされているのが窺える。
 中に入ると、こんな時間でも商談に勤しむ者が数多く目られ、壁に貼り付けられた大きな提示版には、様々な商品の在庫や金額、連絡先などが所狭しと張り出されていた。
 ホッ、まだやっているようだな。助かったよ。それにしても、結構人が多いなぁ。
 タイミング良く空いていた、受付カウンターの女性に声をかける。
「すみません、商人登録をお願いしたいのですが……」
 懐からギルドカードを差し出した。自国の商人ギルドで、登録した際に発行されたものだ。
「かしこまりました。他の地域で既に登録されている方ですね」
「ええ、そうです」
 受付の女性は笑顔で書類と羽ペンを差し出した。
「では、登録料の小金貨二枚と、こちらの書類に必要事項の記載をお願いします」
 うう……地味に高いよなぁ。
 小金貨二枚は日本円で二万円ほどだ。懐の巾着の財布から取り出して、受付の女性に手渡す。
 商人ギルド加盟国でなんらかの商いをする場合は、その地域を統括する商人ギルドへ登録をする義務がある。
 ただし、商人ギルドへの登録自体は努力義務と言われる奴で、実は特に罰則規定がある訳ではない。だから商人ギルドに登録をせずとも商いをすることはできるし、見つかったところで痛くも痒くもないのだ。実際、諸事情があって表に出にくい人たちは、登録せずに公然と商いを行っている。
 それなら商人ギルドに登録せずとも、いいではないかという気もするが、商人ギルドに登録することによって様々な情報を得ることができるし、何かトラブルが生じた場合、例えば商品を納入しても代金が支払われなかった際など、登録していれば商人ギルドが仲裁役となってくれて、色々と便宜を図ってくれる。最悪、少ないながらも保険金も出してくれるのだ。
 逆に登録していない場合だと全てが自己責任となる為、相対的には登録した方が有益である。欲を言えば、登録料をもう少し安くしてくれると、非常にありがたいのだが。
 受付の女性はテキパキとした動きで、手早く登録を済ませてくれた。
「こちらギルドカードをお返しします」
「ありがとうございます。ついでにご相談があるのですが……実はこちらに訪れたのは今回が初めてでして、周りに縁故がないことから、幾つか取引先を紹介していただけないかと思いまして、それで――」
 扱っている商品を告げた時、受付の女性は一瞬、怪訝そうな表情を浮かべた。本当に一瞬だけ。
 あ~~、これは嫌な予感が当たっちまったパターンだなぁ……。
「それでしたら、うちの方で幾つかご紹介出来ると思います。確認しますので、少々お待ちください」
「すみません、助かります」
 受付の女性は相変わらずテキパキとした動きで、手早く取引先を幾つかリストアップしてくれた上に、アポ取りの段取りまでつけてくれた。おまけに、この街に馴染みのないオレの事情を察してくれて、安宿まで紹介してくれる始末。
 実に優秀な女性である。あのにやけ面の兵士クソ野郎とは大違いだ。


 受付の女性から紹介された宿は、かなり殺風景であった。
 部屋の広さは二畳ほどで、動くごとに軋む床に、小さな木製の突き出し窓以外は、その部屋には何も無かった。人の住む環境としてどうかと思うところはあるが、現代の日本でいうところのカプセルホテルみたいなところで、むしろ激安の宿代と個室であることを考えれば、今の自分には理想的な環境とも言える。ここを紹介してくれた受付の女性の慧眼に、改めて感心を覚えた。
 不意にお腹が鳴った。朝から干しブドウしか食していないことに、抗議の声を上げている。
 こんな宿屋に食事などあろうはずもないし、手持ちには携帯食として忍ばせていた干しブドウしかない。
「お腹空いたなぁ……」
 小さな窓から外を眺めると、暗闇が広がっていた。
 治安が心配な時間帯である。現代日本と違って気軽に夜出歩くことなど、この世界ではありえない。と言うか、元の世界でも気軽に夜出歩くことが出来る国なんて、数える程度にしかないだろう。今思えば日本の環境が異常だった気がする。
 だが、流石に干しブドウだけでは、もう腹を誤魔化すことができそうもない。
 しょうがないので、宿屋の婆さんに相談してみることにした。
 すると、客商売とは思えないぶっきらぼうな調子で、意外な言葉が返ってきた。
「……大丈夫だ。ここに行ってみな」
 何が大丈夫なんだ? と思ったが、如何せん空腹が限界に達していた。
 まあ、最悪ヤバそうだったら、逃げてくればいいか。
 取り敢えず宿屋の婆さんを信じて、教えられた所に行ってみることにした。
 夜道をおっかなびっくりしながら十分ほど歩くと、暗闇の中に煌々と輝く明かりが見えた。
 段々と近づくごとに、賑やかな声が聞こえてくる。
 ここかな……? 宿屋の婆さんが言っていたのは。
 そこは割と広めな通りで、両端には様々な露店が軒を連ねていた。
 露店から活気のある呼び込みが発せられ、通りを溢れんばかりの人々が楽し気に行き交っている。
 へぇ~~! こいつは予想外の展開だ!
 後で知ったことだが、タカハの街には元々ダンジョンを目当てにした、冒険者が絶えず訪れるおかげで、宿泊施設や飲食業が結果的に発展を遂げた。それが冒険者たちの間で一定の評価を受けて周りに評判が伝わると、今度はそれを目当てにした人が集まってきて、更に街が栄える結果になったそうだ。今ではダンジョン以上に、観光地として有名になっているらしい。そういった観光施設の中でも、特に初期費用の負担が少なく、手軽に始めやすい露店は人気で、街のいたる所に出没するらしい。
 人ごみをかき分けながら通りの中を進んでいく。
 どこかアジアの露店街の雰囲気を醸し出していて、扱っている物も実に様々だ。シュラスコのような大きな肉の串焼きや、チーズとサラダの入ったクレープ、魚や貝などが乗った鉄板焼きと、アルコールや果物類も豊富で、それを即席でジュースやカクテルにして販売していたりする。
 それと飲食物以外にも、生活雑貨品や衣料品なども売られていて、中には武器や防具を販売している露店もあった。この辺は流石ダンジョンの街だと感心させられる。
 あまりにも多種多様な露店があるので、ついつい目移りしてしまう。一通り見てみたいところであったが、これ以上時間をかけるのは、どうにもお腹が空き過ぎていた。
 ふと、グツグツと煮え立つ大きな鍋の露店が目に入った。
 麦粥屋か……。まあ、この辺りは麦で有名だしな。
 麦粥は地元でもよく食されている、馴染みのある食べ物だ。仕事とはい本来であればえせっかく遠くまで来ているのだし、普段あまりお目にかかれない、その土地の名物などを食したいところである。ただ、滞在する期間がどれぐらいになるか分からないが、機会はまだまだあるだろう。何より麦粥は懐にもお腹にも優しいのがありがたい。一先ずこの麦粥屋に入ることに決めた。
 麦粥屋のカウンターの上には、様々な付け合わせが大鉢に乗って並んでいた。
 基本的に麦粥自体には、さして味は付いておらず、好みの付け合わせを加えて、好きなように味を変えていくのだ。個人的には干し肉と、オリーブオイルにニンニクと唐辛子を漬け込んだ赤ニンニクと呼ばれる物を、良くチョイスしている。
 なんの捻りもなくいつもの構成でオーダーすると、今の自分にはありがたいことに、秒の早さで麦粥が供された。
 冷めた干し肉と赤ニンニクを、熱々の麦粥の中でほぐす。そうすると、色々とちょうど良い塩梅になるのだが、解していてあることに気が付いた。
 あれ⁉ 麦粥と思っていたら、これ米粥か……!
 気付いたのはそれだけではない、もう一点あった。
 米粒が丸い……! 日本と同じものだ!
 小麦が普通にあるように、異世界にも当然ながら米はある。あるにはあるのだが、日本の米とは違い、米粒が細長い元の世界でいうところの、タイ米などのインディカ米に近い種だ。少なくても自分がこれまでに生きてきた中では、それしか見たことが無かった。
 そんな自分を見透かすように、店主のオヤジが話しかけてきた。
「あんちゃん、ここら辺の奴じゃねぇだろ?」
「ええ、そうですね」
「この辺りじゃあ粥と言えば米で、米粒もこの丸い奴さ」
「へぇー、珍しいですね」
「ああ、なんでも灰色の一族から伝わってきたって、それが定着したって話だな」
 灰色の一族か……タカハの街とは、切っても切れない一族だ。
 それにしても、記憶が戻る前ならさして気にしなかっただろうが、今となっては日本と同じような米粥はありがたかった。
 記憶が戻ったとたんに、こういうのに当たるとはねぇ。運命的なものを感じるな。……嫌いな言葉だけど。
 店主のオヤジと言葉を交わしながらも、熱々の米粥の中で干し肉と赤ニンニクを十分に解し、それを口に含んだ。
「……美味い!」
 元日本人としての業なのか、転生前以来というかなり久方ぶりの米粥は、ひどく美味しく感じた。
 ただ、美味しい理由はそれだけではない。米は日本の物と品質にあまり遜色はなく、燻製肉は思っていたよりもずっと柔らかかった上、何よりも素晴らしいのが赤ニンニクだ。辛味にコクが強くあるが、嫌味が無く後味がスッキリしていて大変美味しい。
 店主のオヤジは得意げな表情で、笑みを浮かべている。
「そうだろう、そうだろう!」
 空腹なのも手伝って、米粥を夢中で頬張り一気に平らげた。
 そして――。
「すみません、もう一杯同じ――」
 こちらが言い終わるよりも先に、店主のオヤジはカウンターに米粥を置いた。
「ヘイ、お待ち―!」
 一秒たりとも待っていなかった米粥は、今度も瞬く間に胃袋へと消えていった。
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