【虐げヒロインはドSエリートに翻弄される】〜囚える鎖を放すか否か(仮)

光月海愛(こうつきみあ)

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S(藍野視点

裏と表

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「春だね」

 サービスエリアで蝶を見て何気に言ったが、その時、明日美の表情は完全に凍てついていた。
 虫嫌いにしても、度が過ぎるだろう。
 蝶恐怖症?
 それとも何かトラウマがある?
 明日美の事は、実は良く知らない。
 けして恵まれた環境ではないのは間違いが、もしかしたら、虐待なんかもあったのかもしれない。
 それを知ってる人間は、会社には居ないのだろうか?


 本社に戻り、明日美に竹林部長を呼びに行かせた。
 俺と一線を超えて、気持ちが彼から、どのくらい自分に向いたか試したいのもあった。

 その間、女子社員を適当に相手しながらメールの確認をする。少し前に竹林さんから来ていたようだ。

【件名 契約内容のご相談について】

 何の契約だ?
 コンサルタントの件か?

 俺は、少し考えて自分も屋上に行く事にした。

 竹林さんは、穏やかで見るからに誠実そうな人柄だ。
 仕事もできるし、UMENOを買収したい側からすれば残しておいてもいい人材だろう。

 だけど、陽キャぶっていても、根深い所が暗い俺からすれば、煙たい存在でもあった。

 屋上に上り、二人を探すと、竹林さんが明日美を背後から抱えるような体勢でいた。

 ――何をしてるんだ? 

 自分が明日美に頼んだ癖に、二人で仲睦まじくされると苛つく。

「明日美さん、意外とおっちょこちょいだな」

 明日美の顔が赤い。会話から、彼女が転んだか何かだわかったけど。

 おはようございます、と竹林さんが俺に気が付いた。
 相変わらず仏みたいな穏やかな表情だが、内面は分からない。

「竹林さん、事務所に戻らずここで話しませんか?」

 彼は、にこやかに承諾した。
 俺は明日美を一切見ずに、彼女が立ち去るのを待った。

 すると、竹林さんは口角をぐんと下げて、低い声でこう言った。


「藍野さん、もし差し支えなければ戸籍謄本を提出していただくことは可能ですか?」












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