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第二章 大伍と挫折
予感
しおりを挟む宴会の後。
飲み足らずにコンビニで買い物した帰り、ロビーで桑崎さんを見かけた。
おっ。 浴衣だ。
俺もそうだし、他の客もそうなんだけど、何故かこの人が着ているのを見たら、夏祭りに来たような浮き立った気持ちになる。
「それ、壊れてますよ」
自販機の前で財布を開ける彼女に声をかけた。
「壊れてるって、どれ?」
振り返って俺を見た桑崎さんの素っぴんは、昼間と全く印象が変わらない。
アラサーのわりには肌がキレイだからかな。
少しだけ話をして、その間に彼女の目線が俺の腕に移ったのを感じた。
英子に貰った、俺には不釣り合いの腕時計に。
腕を隠してしまいたかった。
「じゃあ、そろそろ部屋に戻りますね。明日の集合は9時です、遅れないようによろしくお願いしますね」
「……あ」
そうこうしてるうちに、桑崎さんはエレベーターに乗って部屋に戻ってしまった。
″ 部屋飲みしませんか? ″
酒の勢いで誘おうとした。
あの人が、軽率に客の部屋へ行くわけがないのに。
じゃあ、 話がしたければ、親密になりたければ彼女の部屋に行けばいい……。
そう思う人がいるかもしれないけれど、 俺は彼女の部屋番号を知らないし、フロントに尋ねたりもしたくない。
今夜は諦めよう。
ちょっとやけになって、 袋から缶ビールを取りだし、やや温くなってそれを、壊れた自販機の前で飲んでいると、
「いや、流石にそれはマズイだろー?」
同じツアーの男性客、例の南条さんと、父子で参加していた息子の方が、話しながらこっちに歩いてきていた。
桑崎さんに執拗に絡んでいた南条さんは、飲みすぎてもうフラフラな様子。
「マズくはないさ。せっかく偶然にも部屋が分かったのに。あんただって部屋に誘ってたじゃないか。それに誰にも遊びに来てもらえない、誘っても貰えない女って惨めだと思わないか?」
俺の前を通り過ぎる時、南条さんじゃない方がそんな事を言っていた。
焼酎と、強いニンニク臭が鼻をついた。
ーー ″ 部屋 ″ ?
「俺は女がなびかないと嫌なタイプでね」
首を横に振る南条さんが自分の部屋に戻ると、
「チッ」と軽く舌打ちして、もう一人の男はエレベーターに乗って行った。
嫌な予感しかしなかった。
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