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第四章 浩司と転機
冷たい唇
しおりを挟む部屋で、 睡魔と戦いながら桑崎からの連絡を待つ。
ミンティアでは追い付かなくて、昼間に赤石婆さんから貰った、唐辛子のガムを噛むことになった。
これが想像以上の辛さで口の中で燃えるようだった。
あの婆さん、いつ、どんなタイミングで食ってやがるんだ? 絶対にイタズラ用だろ?
一時間後。
ようやく桑崎から電話がかかってきた。
赤石婆さんに同情したのか、病院に残ると言い出した。
「だって、一人なんですよ? ………こんな旅先の病院に。目覚めたら、誰もいないんですよ? この先どうなるのかも分からないのに」
心配した通りだ。
桑崎の隙は、この情の脆さのせい。
それを叱責したあと、俺は、タクシーを呼んで迎えに行った。
「………迎えに来てくれたの?」
「本当はバスで行こうかと思ったけど、駐車場から出せなかった」
何の遠慮か警戒か知らないが、桑崎は俺より一人分離れてタクシーに乗り込んだ。
が、よほど疲れていたのか、直ぐに、うとうとし始めて、タクシーが道を曲がったのと同時に俺の肩に寄りかかってきた。
「お……」
起こそうと思ったけれど、完全に寝入ってる顔を見たらそれもできない。
一人分空けていたのが仇となって、桑崎はキツイ態勢でもたれかかっている。
俺は、少しだけ寄って桑崎の体の支えになった。
すると、ぐんと、桑崎の顔と匂いが近くなった。
「ありゃ、夜間工事で通行止めだった。すんません、迂回します」
タクシーの運転手が、暗闇に光る赤灯を見て急遽Uターン。
桑崎の頭がガクン!と肩から落ちて、ストン!と俺の太股を枕にした。
女の体温が、足に広がっていく。
この時ばかりは、理性が一瞬にして飛んだ。
″ 帰りに変なことしないでくださいね ″
三宅の言葉が頭を過ったけれど、直ぐに何処かに消えた。
こんな事態でも起きない無防備な桑崎。
その首と肩の下に腕を入れて、座る態勢に戻しながら、薄くて、それでも柔らかそうな唇に見とれる。
半開きになった口から白い歯が覗いて、今にも何か語りだしそうだった。
ーー 起きるなよ。
そう願いながら、一瞬だけ、自身の唇を、被せるように落とした。
冷え性なのか、ヒヤリとした感触だった。
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