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第五章 紫都とリスタート
キラキラ
しおりを挟む「最後の最後まで色々ございましたが、この旅で全員が同乗するのも、いよいよ熊本港までとなりました」
マイクを持った蛯原さんがそう言うと、何となく寂しい空気が漂った。
ツアー参加の皆さんを拾うのは、各自、最寄りバス停からだったが、島原港からは、南高地域のお客様をマイクロタクシーに乗せてお送りするため、一気に乗客が減るのだった。
「少しの時間ですが、ここでキラキラネームのクイズをしたいと思います」
最後まで明るいガイドをしようと、蛯原さんが手作りのボードを取り出して皆に見せた。
キラキラネームという言葉が浸透したのはここ数年だ。
年配のお客様に通じるのか、と思う人もいるかもしれないけれど、実際クイズをしてみれば、ああ!となる方が殆ど。
「蛇足ですが、キラキラネームに対して、私のように優子など、″ 子 ″ がつく名前をしわしわネームって言うらしいです」
車内に笑いが起きる。
優子でそれなら、私の ″ 紫都 ″ なんてどうなるの?
「まずは簡単なものからいきますね、これは何と読むかお分かりになりますか?」
蛯原さんがマジックで書いた名前は、 ″ 赤斗 ″
。
「せきと、しか読まんやろ」と、前の席の方が答えたあと、
「れっど?」
と、主婦グループの一人が正解を言った。
「何でわざわざ英語?! 逆にダサくね?」
南条さんのツッコミに、年配の方々がウンウンと頷く。
和やかに進む読み当てのクイズの間、私は、レポートの追加を進めさせてもらう。
……と、思ったけど。
あまりの面白さに、つい、私もクイズにのめり込んで見てしまう。
キュッキュッ……と蛯原さんのマジックを走らせる音に耳を澄ます。
「はい、これも簡単なものです」
″ 沙音瑠 ″ 。
「さ、ねる?」
木下さんのお父さんの方が首をかしげている。
「近いですね、これは私も大好きなブランドです!」
蛯原さんが、にやっと笑うと、
「しゃねる! 私も好き!」
と、岡田にキーホルダーをプレゼントしていた女の子が答えた。
続けて、美富(びとん)・大雌 (エルメス ) が出て、女性客の間で湧く。
好きなブランド名を、お母さんが子供につけたのだろうか。
「ここからはハイレベルですよー!」
蛯原さんが大きく書いたその漢字は、
″ 姫守 ″ 。
「 お父さんが、将来、女の子を守るようにと付けたようです」
それならば、″ ナイト ″ なの?
と、皆が口に出したところで、蛯原さんは首を横に振った。
「が、お父さんはその言葉の意味を勘違いしてたようで、まるっきり逆の意味の読み方なんです」
すると、
三宅くんが、
「 ″ ひも″ ?」
と答え、
「凄い!良く かりましたねぇ! 実際、ヒモになってたら凄いですね!」
蛯原さんが拍手をし、三宅くんが顔を赤くしていた。
それから、一時間半弱で熊本港に到着。
「島原に着く頃は、薄暗くなってわかりづらくなりますので、大きな荷物をここでお渡ししておきますね。それをバスの座席の方へ置いて、フェリーには貴重品を持っていってください」
駐車場にて、バスの下に納めていたスーツケース等を、岡田や蛯原さんと手分けしてお客様に渡す。
「くれぐれも船内のプレミアム室には入らないでくださいね。そちらをご希望のお客様は、各自お手続きください」
フェリーに上がっていくお客さまを見送っていると、最後にバスを出てきた三宅くんと目が合った。
「…ぁ……」
何か言いたげだったけれど、
「お気をつけて」
と、微笑むだけにしておいた。
二人の間に流れたぎこちなさに、蛯原さんが気が付いた。
「なんか、あったの?」
ーー ″ やり直したい、もう人によりかからない。その上で桑崎さんに、また会いたいんです ″
少し迷ったけれど。
私は、三宅くんの気持ちにノーと答えた。
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