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第六章 優子の青春と恋

どちらかというと好き

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     ーー三宅大伍くん。
   
    初めて見たその時に、なんて可愛い男の子だ!って目が釘付けになった。
   
    色白で、ふんわりとしたそれでいて艶のある長目の茶髪。
   
    目はそんなに大きくはないけど、少し西洋っぽい奥目で、鼻は高いのにイヤミじゃない。
  
    外人で言ったら、若い時のレオ様? (それしか知らない )
   
   ジャニーズで言ったら若い時のタッキー?
   
   けして誉めすぎではない。
   
    おまけに、
 
  「僕、替わってもいいですよ」
    
    一人の客のワガママな要望にも、快く席を替わってあげるその人間性。
    
    ………このツアー、ちょっと楽しみ。



    けど。
    三宅くんは、私に関心を持つどころか、どうも添乗員の桑崎 紫都の方に気があるらしい。
     
    殆ど空回りに近いけど、何かと彼女の前でいい顔しようとするし。
    
    どんなに華のない女でも、やっぱり若い方がいいのね。
    10年前の私なら、絶対にいい勝負が出来たはずなのに。
     
    時って残酷だ。


       

    恋のライバルとしてはもとより、
  
  「トラベルプロの桑崎紫都を使ったツアーの評判は良い」
   
    こんな噂を聞いた事があった私は、同じ旅行業界の人間としては、会う前から彼女にとても興味があった。
    
    けして美人とかではない、という追加の前評判が、余計に私のそれをそそった。
  

  「おはようございます。蛯原さんですか? 三日間宜しくお願いいたします」
     
    港近くで拾って貰ったバスでの初めの挨拶。
     
    確かに美人ではない、と思った。
    
    けれども、自身の幸せは薄そうな、それでいて人の良さそうな雰囲気は滲み出ている。
      
    いつも寅さんに振り回されている妹の ″ サクラ ″ 的なオーラがあるなぁ、と。
      
   ………それは誉めすぎか。



    しかし、人が良いだけでは、添乗員の人気ランキングの首位にはなれない。
    
    この桑崎紫都の何がその名誉を与えてるんだろう?
     ひょっとしてガイドの領域まで入って仕事してる?
     男性客に色目でも使ってるとか?
     
    ガイドの傍ら、じっくりと彼女を観察させて貰ったけど………。
    
    その両方も違うみたい。
    女性客にも男性客にも媚びない。
    
     至って目立たず、自分が車内で長い時間マイクを持っていると、その存在すら忘れてしまうほど気配がない。
    
     かといって仕事をしてないわけではなく、やることはやっている、極力さりげなく、さらりと。
    
    良くわからないけど、今までにいないタイプの女添乗員だった。
   
    私は、キライでは、ない。












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