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第六章 優子の青春と恋

デリカシー

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    キライでは、ない。
    ………と思っても、やはり三宅くんが彼女と良い仲になるのは面白くない。
    
    こうなったら、霧島温泉に浸かって、お肌つるつるになって浴衣姿でノックアウトさせてやる。
    
   うなじは綺麗だって今でも好評なんだから。
      
   が。
    一日目の夜は、浴場近辺、フロアーやラウンジをうろついても、三宅くんの姿を見かける事なかった。
 
    はぁ。
    やっぱり、縁がないの?
    
   諦めて自販機のところでドリンク剤を飲んでいると、
   
 「よぉ、ガイドさん、素っぴんだと誰だかわかんなかったよ! お、年齢のわりにはケツ、垂れてねぇな」
  「は?!」
   
    酔っぱらった南条さんにお尻叩かれただけ。
    触られ損とはまさにこの事だ。

    アイツに触らす為に浴衣でウロウロしてたんじゃないのに!
    
    ムシャクシャして部屋に戻る。
    一人にしては広すぎる8畳間。
   
   布団の上で寝転がり、テレビをつけてボンヤリと観る。
     
    昔はさ、呼んでもないのに、勝手に部屋訪問をしてくる男達が沢山いたのにね。
 
    思い出したら余計に虚しくなった。
     
    鹿児島の夜は何だか暑い。
    窓を開けようとしたら、灰が入ってくる可能性がある為に開けないようにと注意書があった。
    
  「………」
    
    それは、客の健康を考えて?
    それとも、部屋の掃除の事を考えて?
    いいや。エアコン入れよう。

    かなり古い型のエアコンで、ダイヤル回して調整するんだけど、これがいくら温度下げても暖かい風しか出てこない。
  
  「冷房にならないんだけど?!」
      
     フロントに電話しても、
   
  「当ホテルは全館空調のため現在暖房設定であり、暑い場合は送風でお過ごしください」
    
     だと。
     
    仕方なくそうしたけれど、やっぱりむしろ暑くなった。
    全く寝れやしない。
     
    こんなんじゃ、明日、酷い顔で三宅くんに会わなきゃいけないじゃない、どうしてくれんのよ。
     
    ………と思ったけど、いつの間 にかグッスリ寝ちゃってた。
     疲労にはかなわないのね。


  


   「″ きみをまもーるたーめ そのためにーうーまれてきたんだー ″」※
   
    目覚ましの音楽がスマホから流れる。
    
    昔、好きだったグループのヒット曲だ。
    
    布団から出て、少しだけ網戸にした。
    
    夜はあんなに寝苦しかったのに、二日目の朝はすがすがしかった。
     
    温泉ではなくシャワーを浴びて、支度を済ませる。
     泥パックの効果はあったみたい。
    ファンデーションのノリがいいもの。
     
    チークと口紅、たまにはオレンジにしてみようかな。
     ちょっとは若々しくなるかもしれない。
     
    以前よりパツンパツンになった制服のスカートを穿いて、 後ろ姿を大きな鏡で確認。
    
    確かに昔よりは大きくなったけど、南条の言うように垂れてはない。
     
    むしろツンと上がってる。
    
    少しでも自分の良いところを見つけて、テンションを上げる。こうしなきゃやっとられん。
  
    殆ど人のいないレストランに行くと、すでに岡田が座っていた。


    ″  男にチヤホヤされる年齢が過ぎたらーーそれでもガイド続けてるんだから、いちいち目くじら立ててないで笑って返せ、いつまでも乙女気分でいるなよ ″
    

    岡田を見ていたら、昨日言われた事を思い出しイラッとした。
   
    が。
    ここは大人。
    この男よりも8才上の私が子供のようにすねたら痛い。
    
    席は沢山空いていたけど、あえて岡田と同じテーブルに着いた。
    
    窓際で、外の景色が見える良い場所だったし。
  
  「おはようございます」
  「………あぁ」
  
    無愛想にチラリと私を見て頷く。だけ。
    おはようには、おはようでしょ?
    挨拶もまともにできないの?
    
    呆れて言葉も出ないけど、お腹は鳴った。
 
    岡田が、意外とバランス良く、トレイの上を洋食でまとめているのを見て、私もパンを食べたくなり、早速バイキング料理を取りに行った。


  「時間かけて取ってきたわりには、少ないな」
  「えっ」
    
    岡田が、席に戻った私のトレイの料理を見て、呟いた。
 
  「そーでもないでしょ?」
  
    クロワッサンに、ロールパン、スクランブルエッグにウィンナー、そしてミニサラダ、コーヒー。
  
  「女はある程度、年齢いったら鉄分とカルシウム取らなきゃダメなんだろう?」

    岡田がわかった風な事をいう。
    まぁ、確かに更年期きたら意識的に摂れって言われるけど。
   
    はっ。
    まさか。   私、更年期と思われてる?

    だとしたら、やっぱりデリカシーのない男。
    そんなんだから、その顔で独身なのよ。
  
 「何だよ、意味もなく睨むなよ」
 
    岡田が私の視線に気が付いて、クロワッサンをそっぽ向いて食べ始めた。
     
    女嫌いなら、こうやって面と向かって食事するのも苦痛なんでしょうね。
    
    特に会話もなく、黙々と朝食を食べてると、
 
 「おはようございます」
   
    桑崎紫都が、珍しくちょっと遅れて現れた。

   うおっ。
    何、この娘。
    昨日よりお肌ツルッツルッじゃない!
  
 「おはよう、桑崎さん、泥パックしたでしょ?」
  
 「わかります? 全身やりました」
    
   やっぱり若さよねぇ。私のちょっと調子良くなった、とはレベルが違う。
     
    美人じゃなくても、美肌ってのは武器になるもの。
    だからなの?
   
  「顔にシーツのシワの痕がついてる」
   「えっ?!」
   「冗談だよ」
    
     岡田が超つまんない冗談言って、クスリと笑ってるし。
   
    私とは随分、態度が違うじゃないのよ。
    
    まぁ、別に岡田に微笑まれたって全く心臓揺さぶられないけどね。
  
 「桑原さん、そんなに食べるの? 見かけによらないよね!」
 
    桑崎紫都の取ってきた朝食メニューがほぼ和食なのを見て、美肌の要因は、コレかぁと妙に納得。
  
    私も明日からはそうしようっと。












    ※ SMAP【らいおんハート】歌詞 野島伸司


 





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