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第六章 優子の青春と恋
縁
しおりを挟む……… それにしても。
このツアーが呪われてるのか、桑崎紫都がトラブルの星の下に生まれてるのか、この三日間色んな事があった。
韓国のツアー客と揉めるし、巻き込まれて添乗員が怪我するわ、昨夜はお客様が救急搬送ときた。
桜の名所巡りなのに、殆ど散ってしまってたのも運無さすぎよね。
「三宅くんも桜の写真撮りたいよねぇ」
道の駅の軒下で休憩中、思わず呟いた私の横で、岡田が自販機から水を買っていた。
「三宅だけじゃなく、皆そうだろぉよ」
「じゃあ、八重桜でもいいから咲いてるとこ行くべきかなぁ」
「桑崎に聞いてみろ」
「そう……ね…っ?!」
不意に岡田の手元に視線を移してギョッとした。
うっそ。
ミネラルウォーターのペットボトル、さっき開けたのに、もう殆ど空だ。
喉、渇きすぎ。
こいつ、糖尿とかじゃないの?
岡田の喉仏がごくごくと水を欲し動いている。
「なんだよ? 俺が水飲んだらそんなにおかしいか」
「いいえ、別に。昨夜、飲みすぎた?」
「飲んでない。それどころじゃなかったし」
そうよね。
桑崎紫都の迎えに行ったんだもんね。
「これ食ったら飲まずにはいられない。ほら、お前も食え。ガイド中に喉から火吹くかもしんないぞ」
つまんない己の冗談に笑いを堪える岡田が、唐辛子のガムを私にくれた。
「ゴジラかっつーの」
「肌の質感は似てんじゃねーの?」
「は?!」
直ぐにそれを突き返す。
こいつ、とことん失礼!
「そんなにカリカリすんなよ、シワ増えるぞ」
「あんたが余計な事を言うからっ………」
「それより、ほら、お前のお気に入りの三宅が、桑崎と二人でソフトクリーム食ってる。邪魔しに行かなくて良いのか?」
岡田が顎でクイッと屋外の休憩椅子を指して、目で私に見ろ、と言う。
確かに三宅くんと桑崎紫都が並んで座って雑談?している。
「邪魔しに、とか人聞き悪いわね」
てか。
あんたが気になってるんでしょう?
リバーシブルだか何だか知らないけど、好きな俳優のあだ名つけるほどハマってる三宅くんを、女に取られそうでさ。
「取り敢えず、桑崎と話し合って次の行き先を決めてこい」
トン………と、岡田が私の背中を押す。
もしかして、気を利かせたつもり?
岡田の癖に?
でも、なんだろ。
この感じ。 悪くないって、思った。
この人が、ノーマルなら、ね。
流れてきた情報通り、水前寺江津湖公園は、所々葉っぱも見えていたが、八重桜を綺麗に咲かせていた。
ようやくお目にかかれた桜に、お客様たちはウットリとした顔をしていた。
良かった。
三宅くんもしきりに写真を撮っている。
カメラを持つ真剣な姿もカッコいい。
素敵な写真が撮れればいいね。
そうだ。
「そうそう、皆様、桜のジンクスをご存知ですか?」
ここで、つい、あまり皆さんが興味ないようなガイドをしてしまう。
私も信じてるわけではないのだが。
ーー ″ 満開の桜の木の下で愛を誓い合うと幸せになれる ″
″ 桜の花びらが地面に落ちる前にキャッチしたら恋の願いが叶う ″
私が紹介したジンクスを、岡田がくだらないって顔をしたのも見たし、肝心の三宅くんは聞いてなかった。
「ガイドさん、あんたは結婚はされてないのかね?」
散策の時間。お茶を飲んで一息していると、木下さんという高齢のお客様に尋ねられた。
「え、ええ。してないんですよぉ、良い年して」
自己紹介で未婚既婚の類いは言わないけども、何となく察してほしい。指輪もしてないしさ。
「そうか、あんたがもう少し若ければ、うちのせがれと、どうかと思ったが、やっぱり孫の顔を見たいんでねぇ」
「そりゃそうですよねぇ」
じいさん、何気に傷つくんですけど。
あなたの息子も50位でしょ? こっちだってノーサンキューだわよ。
「でもな、近所に嫁さんに先立たれて、子供も自立して独りで寂しく暮らしてる、金だけは貯えてるいい男がおるんよ。年は60で退職したばかり、そこに後妻に入るってのはどうだね? あんた、別嬪だしな」
……それ、近い未来、要介護よね?
「ありがとうございます 。でも私、こういう仕事してますので、殆ど家に居ないので…」
歳も40を過ぎたらこんな話しか来なくなる。
もう、私の恋の花は、咲くことはないのだろうか?
応援ありがとうございます!
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