本日は桜・恋日和 ーツアーコンダクター 紫都の慕情の旅

光月海愛(こうつきみあ)

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第七章 紫都の新しい旅

忘れ物

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  「えぇっ!?」
    
   と驚く私に、岡田の方が目を丸くしていた。
  
 「そんなに驚くことか? だから何で俺がゲイなんだ?!」
  
  「だって。女嫌いだって有名だったし、事あるごとに、″ これだから女は ″ って言うし、暇あれば外国の美少年の写真とか動画ばかり見てるし、三宅くんの事、執拗に見つめてたから」
 
  「執拗にって………それは間違った憶測から来る捉え方の違いだろ?」
   
 「じゃあ、本当に違うんですか?」
    
    岡田は軽く溜め息をついて、そして、私にすがるような視線を向けた。
  
 「違う。その証拠に俺の背後には水子霊が見えるはずだ」
    
 「………え」


    私は、岡田の近辺と、乗客の居なくなった車内をそっと振り返った。
   
   暗闇ではあるけれど、こちらの世界とは違う等は感じない。
 
 「なにも、見えませんけど?」
 
 「そうか。なら、いい。つまり、言いたいのは、俺にも、女と色々な過去があったってこと。あんたと同じで懲りてるってだけだ」
  
  「…色々な………」
 
    女性を妊娠させて、その赤ちゃんが亡くなった事実があるってこと?
  
    冗談なのか、真実なのか。いまいち分からない。
    
    だけど、過去を話した途端に横顔に深い闇を感じさせる岡田を見ていたら、嘘じゃないんだと思った。
   
  「そろそろ着くぞ」
   
     岡田は、数メートル先の駅を見つめ、バスのウインカーを上げたあと、速度を落とした。
    
    そこは、 私が降りる場所だった。


    入り口のドアが、抜けたような音を立てて開く。
    
   たった三日前、ここからバスに乗ったのに。
    一週間も二週間も旅をしていたみたいだ。
    
    私は、自身の小さめのボストンバッグを持って席を立った。
 
  「おつかれさん、イノシシに遭遇したらとりあえず一目散に逃げろよ」
 
  「それ、私を殺そうとしてますよね? そっと距離を置くのが正解だって知ってますから」
  
  「さすがだな」
    
   クック…と最後までイヤな笑いをする岡田が、ふっと、何かを思い出したように、「おい」と、手を伸ばして、私の腕を掴んだ。

   「な、なんですか?」
  
    ドキッとした。
   
   ノーマルな男だと分かってしまったから余計に。
   

  「明後日、明々後日って仕事は入ってるのか?」

  「え?」
    
    明後日、明々後日?
    多分、連休だったはずだ。
   
    私はスマホのスケジュール帳を確認して、
  
  「仕事じゃありませんけど?」
    
    恐らく怪訝な顔をして、岡田を見た。
 
 「なら、ちょっと付き合わないか? 俺に」
     
   デートの誘いにしては、照れも戸惑いもなく淡々と言う。
     一体、なに?
 
 「付き合うって、どこに?」
   
    岡田が謎な男だけに、全く想像がつかない。

  「宮崎………」
 
  「宮崎? 今朝までいた?」
    
    岡田は振り返り、バスの座席を見渡して、小さく頷いた。
  

   「バスの忘れ物を届けるついでだ」







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