70 / 84
第七章 紫都の新しい旅
忘れ物
しおりを挟む
「えぇっ!?」
と驚く私に、岡田の方が目を丸くしていた。
「そんなに驚くことか? だから何で俺がゲイなんだ?!」
「だって。女嫌いだって有名だったし、事あるごとに、″ これだから女は ″ って言うし、暇あれば外国の美少年の写真とか動画ばかり見てるし、三宅くんの事、執拗に見つめてたから」
「執拗にって………それは間違った憶測から来る捉え方の違いだろ?」
「じゃあ、本当に違うんですか?」
岡田は軽く溜め息をついて、そして、私にすがるような視線を向けた。
「違う。その証拠に俺の背後には水子霊が見えるはずだ」
「………え」
私は、岡田の近辺と、乗客の居なくなった車内をそっと振り返った。
暗闇ではあるけれど、こちらの世界とは違う気等は感じない。
「なにも、見えませんけど?」
「そうか。なら、いい。つまり、言いたいのは、俺にも、女と色々な過去があったってこと。あんたと同じで懲りてるってだけだ」
「…色々な………」
女性を妊娠させて、その赤ちゃんが亡くなった事実があるってこと?
冗談なのか、真実なのか。いまいち分からない。
だけど、過去を話した途端に横顔に深い闇を感じさせる岡田を見ていたら、嘘じゃないんだと思った。
「そろそろ着くぞ」
岡田は、数メートル先の駅を見つめ、バスのウインカーを上げたあと、速度を落とした。
そこは、 私が降りる場所だった。
入り口のドアが、抜けたような音を立てて開く。
たった三日前、ここからバスに乗ったのに。
一週間も二週間も旅をしていたみたいだ。
私は、自身の小さめのボストンバッグを持って席を立った。
「おつかれさん、イノシシに遭遇したらとりあえず一目散に逃げろよ」
「それ、私を殺そうとしてますよね? そっと距離を置くのが正解だって知ってますから」
「さすがだな」
クック…と最後までイヤな笑いをする岡田が、ふっと、何かを思い出したように、「おい」と、手を伸ばして、私の腕を掴んだ。
「な、なんですか?」
ドキッとした。
ノーマルな男だと分かってしまったから余計に。
「明後日、明々後日って仕事は入ってるのか?」
「え?」
明後日、明々後日?
多分、連休だったはずだ。
私はスマホのスケジュール帳を確認して、
「仕事じゃありませんけど?」
恐らく怪訝な顔をして、岡田を見た。
「なら、ちょっと付き合わないか? 俺に」
デートの誘いにしては、照れも戸惑いもなく淡々と言う。
一体、なに?
「付き合うって、どこに?」
岡田が謎な男だけに、全く想像がつかない。
「宮崎………」
「宮崎? 今朝までいた?」
岡田は振り返り、バスの座席を見渡して、小さく頷いた。
「バスの忘れ物を届けるついでだ」
と驚く私に、岡田の方が目を丸くしていた。
「そんなに驚くことか? だから何で俺がゲイなんだ?!」
「だって。女嫌いだって有名だったし、事あるごとに、″ これだから女は ″ って言うし、暇あれば外国の美少年の写真とか動画ばかり見てるし、三宅くんの事、執拗に見つめてたから」
「執拗にって………それは間違った憶測から来る捉え方の違いだろ?」
「じゃあ、本当に違うんですか?」
岡田は軽く溜め息をついて、そして、私にすがるような視線を向けた。
「違う。その証拠に俺の背後には水子霊が見えるはずだ」
「………え」
私は、岡田の近辺と、乗客の居なくなった車内をそっと振り返った。
暗闇ではあるけれど、こちらの世界とは違う気等は感じない。
「なにも、見えませんけど?」
「そうか。なら、いい。つまり、言いたいのは、俺にも、女と色々な過去があったってこと。あんたと同じで懲りてるってだけだ」
「…色々な………」
女性を妊娠させて、その赤ちゃんが亡くなった事実があるってこと?
冗談なのか、真実なのか。いまいち分からない。
だけど、過去を話した途端に横顔に深い闇を感じさせる岡田を見ていたら、嘘じゃないんだと思った。
「そろそろ着くぞ」
岡田は、数メートル先の駅を見つめ、バスのウインカーを上げたあと、速度を落とした。
そこは、 私が降りる場所だった。
入り口のドアが、抜けたような音を立てて開く。
たった三日前、ここからバスに乗ったのに。
一週間も二週間も旅をしていたみたいだ。
私は、自身の小さめのボストンバッグを持って席を立った。
「おつかれさん、イノシシに遭遇したらとりあえず一目散に逃げろよ」
「それ、私を殺そうとしてますよね? そっと距離を置くのが正解だって知ってますから」
「さすがだな」
クック…と最後までイヤな笑いをする岡田が、ふっと、何かを思い出したように、「おい」と、手を伸ばして、私の腕を掴んだ。
「な、なんですか?」
ドキッとした。
ノーマルな男だと分かってしまったから余計に。
「明後日、明々後日って仕事は入ってるのか?」
「え?」
明後日、明々後日?
多分、連休だったはずだ。
私はスマホのスケジュール帳を確認して、
「仕事じゃありませんけど?」
恐らく怪訝な顔をして、岡田を見た。
「なら、ちょっと付き合わないか? 俺に」
デートの誘いにしては、照れも戸惑いもなく淡々と言う。
一体、なに?
「付き合うって、どこに?」
岡田が謎な男だけに、全く想像がつかない。
「宮崎………」
「宮崎? 今朝までいた?」
岡田は振り返り、バスの座席を見渡して、小さく頷いた。
「バスの忘れ物を届けるついでだ」
0
あなたにおすすめの小説
夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~
美和優希
恋愛
社長秘書を勤めながら、中瀬琴子は密かに社長に想いを寄せていた。
叶わないだろうと思いながらもあきらめきれずにいた琴子だったが、ある日、社長から告白される。
日頃は紳士的だけど、二人のときは少し意地悪で溺甘な社長にドキドキさせられて──!?
初回公開日*2017.09.13(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.03.10
*表紙イラストは、イラストAC(もちまる様)のイラスト素材を使わせていただいてます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魅了持ちの執事と侯爵令嬢
tii
恋愛
あらすじ
――その執事は、完璧にして美しき存在。
だが、彼が仕えるのは、”魅了の魔”に抗う血を継ぐ、高貴なる侯爵令嬢だった。
舞踏会、陰謀、政略の渦巻く宮廷で、誰もが心を奪われる彼の「美」は、決して無害なものではない。
その美貌に隠された秘密が、ひとりの少女を、ひとりの弟を、そして侯爵家、はたまた国家の運命さえも狂わせていく。
愛とは何か。忠誠とは、自由とは――
これは、決して交わることを許されぬ者たちが、禁忌に触れながらも惹かれ合う、宮廷幻想譚。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜
葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー
あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。
見ると幸せになれるという
珍しい月 ブルームーン。
月の光に照らされた、たったひと晩の
それは奇跡みたいな恋だった。
‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆
藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト
来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター
想のファンにケガをさせられた小夜は、
責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。
それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。
ひと晩だけの思い出のはずだったが……
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる