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第七章 紫都の新しい旅

ふたりぼっち。

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    沈黙が続く。
 
  「三宅くんと連絡先交換しましたか?」
    
    なのでレポートを仕上げながら、どうでもいいことを岡田に聞いてしまった。
 
   「してない… ふ…ぁ…何で?」
    
    乗客が居なくなって気が抜けたのか、岡田は大きなアクビをして答え、そしてガムを噛み始めた。
  
    眠いよね。昨夜も遅かったし。
     
    今からだって、私を降ろして、また島原の会社に戻って車両点検やら報告書やら仕事があるはずだし。
 
  「三宅くんに会えなくなるから、寂しくないかなって」
   
  「…やけにアイツにこだわるな? 寂しいのはそっちだろ」

   「私は、もう、男にはコリゴリですから」
 
   「フェリーのあの男がそう思わせたんだろうな」
  
   「…はい。当たりです」
     
     ああ、そうだ。
     美隆のこと、お礼言わなきゃ。
 
   「あの、さっきは…」
   「なら三宅をその気にさせるなよ、″ 必ず連絡します ″ なんて、絶対に勘違いするだろうが」
     
    ありがとう、を言う前にダメ出しされて、ちょっとムッとする。
 
   「何よ、そんなに三宅くんが心配なら、…好きなら、この連絡先に電話して告白でもしたらいいじゃない」
      
    私が三宅くんから貰ったメモ紙を、岡田の横 顔にちらつかせると、鋭い目で睨まれた。
  
   「あんた、さっきから何言ってんの??」

    「何って…」
    まさか、私にバレてないとでも思ってるの?
    岡田が、運転しながら、時折り、答えを欲するように私に視線をやる。
      
     じゃあ、言うわよ?
      遠回しには言わないわよ?
  
  「だって、岡田さんは!…」
    

   やっぱり本人目の前に口に出すにしては直接的過ぎる。
      
     躊躇って、一度、言葉を切った。
 
  「俺は、なんだ?」
    
    だけど、他に該当する言葉が見当たらない。
     BLって多分わからないだろうから、
   
   「ゲイですよね?」
   「げ?!」
     
    大きく声を上げた岡田が、ハッとしたように急ブレーキを踏み、突然、バスを急停車させた。

    席から立っていた私は、ガクン!とよろめき、運転席の岡田の肩に倒れかかった。
 
  「危ないじゃない! 動揺しすぎ!いくら図星だからって…」
   「イノシシ」
   「え?」
   
     岡田が指差した前方には、緑色に眼を光らせた獣が立ち止まって此方を睨んでた。
  
     あれがイノシシ?
   
  「この辺、あんたの地元だろ? 小さい頃はアレとも遊んでたんだろうが。急に道路に出てくんなって注意しろよ」
  「私は動物と話せるわけじゃありません」
  「野生児だろう」
  「どこをどう取ったらそう見えるのよ」
    
    岡田が笑いながらクラクションを鳴らすと、イノシシは勢いよく道路の脇から林道へと駆けて行った。
     最近は、街中にもイノシシや猿が出没するって聞いたことあるけど、本物は初めて見たな。
   
  「山を壊すから、食い物が無くなってるんだろうな、気の毒に」
     
    岡田は、らしくない言葉に続けてようやく私の問いに答えた。
   

  「で、俺のどこをどう見たらゲイという結果になったんだ。期待にそえなくて悪いが俺はノンケだ」





 
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