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裏切りと恋 3
疎外感と不信感
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「″おはよう、なつみ″」
寝起きの私に挨拶をするのは、ランだ。
リビング内をくるくると移動しながら、人の気配を探している。
「おはよう、ランちゃん」
「″ケイはまだ寝てるの?″」
「ううん、昨夜は帰ってきてないから」
広いベッドで一人朝を迎えるのは今日で三日目。
大きな欠伸をする私に向かって、
「″ウワキしてるんじゃないの?″」
と爆弾発言を残し、ツツーと所定位置に戻っていくランはやっぱりただのAIじゃないような気がしてきた。そもそも私が本命かどうかも分からないし。
いつもより早めに出勤して仮眠室の方へ向かう。
……差し出がましい?
来る途中に神城くんが好きな店のサンドイッチと珈琲を買ってきたのだが、
「……あれ。誰も使ってない」
そこは鍵がかかって人の気配が無かった。
そういえば、会社に泊まるとか連絡は入って無かった。自分は専属の秘書なのにそんな事をも教えて貰えないのだろうか。
「おはようございます」
秘書室に行くと、麦野さん達が何やらつまらなそうな顔で話していた。
「え、今朝も?」「うん、昨日も見たし間違いないよ」
何の事だろうと何気に耳を傾けていたのだが……。
「元秘書の佐藤さんとホテルから出てきてたよ」
聞いた途端に心臓が握り潰された様に痛くなる。
「やっぱり神城社長とあの人、付き合ってたんだね」
「会社が大変な時に自分は部下とホテル? ガッカリなんだけど」
そこからはもう、彼女達の声はぼんやりとしか聞こえなくなった。
神城くんと佐藤さんの事に気を取られたまま、関連会社へのメール対応と直のクレームの返信に追われる。
相次いだトラブルのせいでこれまで順風満帆だった業績が著しく下がっているのは各部門からの報告でも明らかだった。
「ちょっと見ない間に鈴木さんもやつれたんじゃないの?」
休憩室で会った長野さんに心配されたが、そんな彼もメディアへの対応に追われて疲弊しているのが分かる。
「私はメイク手抜きしてるだけです」
「女性は大変だよな。そういえば最近倉林さんも元気なかったよね」
意中の人を探して目をキョロキョロさせる。
「副社長専属ではなくなったから余計に忙しくなったのかもしれませんね」
私には教えてくれないが、恐らく彼女は神城くんの指示の求め、副社長の事を調べてるのだと思う。
「そっか、なかなか誘う暇もないな。本当隙のない高嶺の花なんだよ。いつ報われるんだ、俺の片思い」
こんな時でも恋愛モードの長野さんを前に笑ってしまう。
「あ、啓くんお疲れ」
そこへ珍しく神城くんが姿を現した。
「あぉ、お疲れ様」
彼の隣には当然のように佐藤さんが……。
近頃はまるで夫婦の様にいつも一緒にいる。こうなると、どっちが秘書なのかわからない。
「また二人で研究室に籠もってたのか」
私達の斜向かいに座って、彼女が買ってきたらしいお弁当を広げている。
「二人だけじゃない」
神城くんが首を回しながら、言い訳でもない感じで答えた。
「……お疲れ様でーす」
外のランチから戻ってきた他の女子社員達が、神城くんと佐藤さんを見てまた何やらヒソヒソと話していた。
嫌な感じ。
でも、不快感を内に秘めて仏頂面で黙食してる私の方が性格悪いのかもしれない。
本当はずっと引っ掛かってる。
神城くんが佐藤さんと本当にホテルに泊まったのか。
「あ、そうだ。頼まれてた例の件、少しだけ見えてきたぞ」
長野さんが声を落とすと、神城くんはようやく目を輝かせる。
″例の″? 一体何を調べているの?
「そうか。あっちで話そう」
二人が席を立つのを視線で追っていると、不意に佐藤さんと目が合ってしまった。
「鈴木さん、でしたよね?」
「あ、はい」
私は飲んでいたマイボトルの蓋を締めて愛想もなく返事をした。
そろそろ私も仕事に戻らなければ。
「じゃあ、お先に」と続けて席を外そうとしたのだが、
「貴女、大丈夫?」
佐藤さんが私を呼び止めた。心配してる言い方ではなかった。
「何がでしょうか?」
「専属秘書として彼を信じてる?」
寝起きの私に挨拶をするのは、ランだ。
リビング内をくるくると移動しながら、人の気配を探している。
「おはよう、ランちゃん」
「″ケイはまだ寝てるの?″」
「ううん、昨夜は帰ってきてないから」
広いベッドで一人朝を迎えるのは今日で三日目。
大きな欠伸をする私に向かって、
「″ウワキしてるんじゃないの?″」
と爆弾発言を残し、ツツーと所定位置に戻っていくランはやっぱりただのAIじゃないような気がしてきた。そもそも私が本命かどうかも分からないし。
いつもより早めに出勤して仮眠室の方へ向かう。
……差し出がましい?
来る途中に神城くんが好きな店のサンドイッチと珈琲を買ってきたのだが、
「……あれ。誰も使ってない」
そこは鍵がかかって人の気配が無かった。
そういえば、会社に泊まるとか連絡は入って無かった。自分は専属の秘書なのにそんな事をも教えて貰えないのだろうか。
「おはようございます」
秘書室に行くと、麦野さん達が何やらつまらなそうな顔で話していた。
「え、今朝も?」「うん、昨日も見たし間違いないよ」
何の事だろうと何気に耳を傾けていたのだが……。
「元秘書の佐藤さんとホテルから出てきてたよ」
聞いた途端に心臓が握り潰された様に痛くなる。
「やっぱり神城社長とあの人、付き合ってたんだね」
「会社が大変な時に自分は部下とホテル? ガッカリなんだけど」
そこからはもう、彼女達の声はぼんやりとしか聞こえなくなった。
神城くんと佐藤さんの事に気を取られたまま、関連会社へのメール対応と直のクレームの返信に追われる。
相次いだトラブルのせいでこれまで順風満帆だった業績が著しく下がっているのは各部門からの報告でも明らかだった。
「ちょっと見ない間に鈴木さんもやつれたんじゃないの?」
休憩室で会った長野さんに心配されたが、そんな彼もメディアへの対応に追われて疲弊しているのが分かる。
「私はメイク手抜きしてるだけです」
「女性は大変だよな。そういえば最近倉林さんも元気なかったよね」
意中の人を探して目をキョロキョロさせる。
「副社長専属ではなくなったから余計に忙しくなったのかもしれませんね」
私には教えてくれないが、恐らく彼女は神城くんの指示の求め、副社長の事を調べてるのだと思う。
「そっか、なかなか誘う暇もないな。本当隙のない高嶺の花なんだよ。いつ報われるんだ、俺の片思い」
こんな時でも恋愛モードの長野さんを前に笑ってしまう。
「あ、啓くんお疲れ」
そこへ珍しく神城くんが姿を現した。
「あぉ、お疲れ様」
彼の隣には当然のように佐藤さんが……。
近頃はまるで夫婦の様にいつも一緒にいる。こうなると、どっちが秘書なのかわからない。
「また二人で研究室に籠もってたのか」
私達の斜向かいに座って、彼女が買ってきたらしいお弁当を広げている。
「二人だけじゃない」
神城くんが首を回しながら、言い訳でもない感じで答えた。
「……お疲れ様でーす」
外のランチから戻ってきた他の女子社員達が、神城くんと佐藤さんを見てまた何やらヒソヒソと話していた。
嫌な感じ。
でも、不快感を内に秘めて仏頂面で黙食してる私の方が性格悪いのかもしれない。
本当はずっと引っ掛かってる。
神城くんが佐藤さんと本当にホテルに泊まったのか。
「あ、そうだ。頼まれてた例の件、少しだけ見えてきたぞ」
長野さんが声を落とすと、神城くんはようやく目を輝かせる。
″例の″? 一体何を調べているの?
「そうか。あっちで話そう」
二人が席を立つのを視線で追っていると、不意に佐藤さんと目が合ってしまった。
「鈴木さん、でしたよね?」
「あ、はい」
私は飲んでいたマイボトルの蓋を締めて愛想もなく返事をした。
そろそろ私も仕事に戻らなければ。
「じゃあ、お先に」と続けて席を外そうとしたのだが、
「貴女、大丈夫?」
佐藤さんが私を呼び止めた。心配してる言い方ではなかった。
「何がでしょうか?」
「専属秘書として彼を信じてる?」
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