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決意
女の顔
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✲ ✲ ✲
「出産おめでとう、お祝い遅くなってごめんね」
心美が他の友人と一緒に出産祝いに来てくれた。
「こっちこそ結婚式出られなくてゴメン」
去年の秋、私がニ回目の入院をした時に心美は式を挙げた。
親友の花嫁姿を見られないのは残念だったが、身重で出席して周りから詮索されることを思えば、それで良かったのかもしれない。
「いいよー、それどころじゃなかったもんね。ほんと無事に出産できて良かったよ。一時期音信不通だったし、心配してなつみの実家に聞いたら切迫流産と早産で三回も入院したって言うし!」
「三回も? 私は出産の時の一回きりだったよ」
もう一人の友人が自分の子供を抱っこして驚いてる。彼女の子供は三歳。
私の子供と比べたらやはりとても大きく見える。
「人それぞれだもんね」
心美がベビーベッドの胡桃を見て、にや~っとだらしない顔をする。生後三ヶ月。首が座って髪の毛も少し増えて愛らしさいっぱい。
「かぁわいい。絶対美人になるね、この子」
「健康体でいてくれたらそれでいいよ」
「健康オタクのママだと大変でしゅねー。一体何飲んでるの? 青汁?」
「母乳に決まってんでしょ」
寝ても笑っても天使だが、近頃夕方になるとぐずり始める。
「それ、魔の三ヶ月、″たそがれ泣き″って言って、もう少し経つと落ち着くよ」
先輩ママの言葉は有り難い。
実家住みとはいえ、母の育児経験は遠い昔だし、記憶があやふやなのであまり助言を求めない。
「眠いのかなぁ、授乳して寝かせちゃおう。ちょっとゴメンね」
友達二人に断ってオッパイをあげる。
首が座ってきたのでこの時間も少しラクになってきた。満腹になった胡桃をゲップさせベッドに寝かせると、「おかぁさんだねぇ」と心美が感心していた。
「まさか、なつみに先越されるとはね」
「ね、ほんとに父親には知らせないの? 子供ってお金かかるし助けはあったほうがいいと思うよ?」
親にも心美にも詳しく話してない父親のこと。やはり、会う人にことごとく訊かれるが、私は曖昧にしか答えない。
「うん。わかってる。でも、このままでいい。だから仕事もそろそろ始めるつもりだし」
生後三ヶ月の乳児を預けて働くなんて子供が可哀想って言う人もいるかもしれないけれど、私もずっと実家に頼るつもりはなかった。
冬美を突き放した手前、両親も、いつかは自立をした方がいいと思っているはずだから最近は求人情報を隈無く見ている。
「なつみは昔からへんなとこ頑固なんだから」
心美が呆れて、「ちょっとテレビ点けるね」とリモコンを操作する。新妻らしく夕方のローカル番組で夕飯のヒントを得るらしい。
本日はゴーヤを使った炒め物だった。ゴーヤかぁ……、もうそんな季節なんだ。今年は作れなかったな。
あれから、自分のためにも誰かの為にも料理をする事が殆どなくなった。
普段は考えないようにしてるし、育児で浸る暇もないのだけれど―――
この子の父親は神城くんだ。
品のある顔立ちは、日に日に彼に似て来ているように思う。
でも、だからって、会いに行こうとも思わない。頼らず一人で育てていくと決めた。
それなのに、
「″この番組は、『終末都市』などのヒットタイトルの開発を行う【スマート・グッド】の提供でお送りしています"」
テレビから流れてきたスポンサーの名前を聞いて、私の体は固くなる。
「あ、れ? この会社ってなつみが前勤めてたところじゃない?」
「へぇ、こんな大きい会社にいたの?」
「………うん、少しだけね」
中国企業、靠近との吸収合併すなわち乗っ取りを回避したスマート・グッドは、それについても話題を呼び、ゲーム関連だけでなく、Vtuberプロデュース、メタバース構築プラットフォームを次々にプロデュース。近々上場も噂されるほど、揺るがない企業へと発展していた。
なので、神城くんのメディアへの露出は以前にも増して多くなっているようだった。
会わなければ……姿を見なければ、声を聞かなければ気持ちに蓋をしていられるのに。
「この会社、二十二時からの報道番組でも取り上げられるみたいだね。社長イケメンだし、確か私らとタメなんだよねー?」
友人が、画面に少しだけ映った神城くんを見て指をさした。
「………」
頷くだけで口を噤んだ私を見て、心美が心配そうに見る。話さなくても、胡桃の父親が元上司の神城くんだって気が付いてるから。
「携帯番号変えてまで、周りに知られないように出産しなきゃいけない事情って相当なものだと思うけど」
「………」
「なつみのその顔見たら、嫌いになったり完全な決別があったわけじゃないって察しがつくわ」
「え? なに? どういうこと?」
わけがわからない友人は、私と心美と、テレビの画面を交互に見て首を傾げた。私はひたすら首を横に振り、作り笑いを浮かべて下を向いた。
たまにね。
やっぱり、好きだなって、もう一度会えたらいいなって思うことあるんだよ。
不完全燃焼の恋は、時に母親から女の顔にさせるらしい。それを久しぶりに会った友達に見られちゃうんだから情けないとしか言いようがない。
「出産おめでとう、お祝い遅くなってごめんね」
心美が他の友人と一緒に出産祝いに来てくれた。
「こっちこそ結婚式出られなくてゴメン」
去年の秋、私がニ回目の入院をした時に心美は式を挙げた。
親友の花嫁姿を見られないのは残念だったが、身重で出席して周りから詮索されることを思えば、それで良かったのかもしれない。
「いいよー、それどころじゃなかったもんね。ほんと無事に出産できて良かったよ。一時期音信不通だったし、心配してなつみの実家に聞いたら切迫流産と早産で三回も入院したって言うし!」
「三回も? 私は出産の時の一回きりだったよ」
もう一人の友人が自分の子供を抱っこして驚いてる。彼女の子供は三歳。
私の子供と比べたらやはりとても大きく見える。
「人それぞれだもんね」
心美がベビーベッドの胡桃を見て、にや~っとだらしない顔をする。生後三ヶ月。首が座って髪の毛も少し増えて愛らしさいっぱい。
「かぁわいい。絶対美人になるね、この子」
「健康体でいてくれたらそれでいいよ」
「健康オタクのママだと大変でしゅねー。一体何飲んでるの? 青汁?」
「母乳に決まってんでしょ」
寝ても笑っても天使だが、近頃夕方になるとぐずり始める。
「それ、魔の三ヶ月、″たそがれ泣き″って言って、もう少し経つと落ち着くよ」
先輩ママの言葉は有り難い。
実家住みとはいえ、母の育児経験は遠い昔だし、記憶があやふやなのであまり助言を求めない。
「眠いのかなぁ、授乳して寝かせちゃおう。ちょっとゴメンね」
友達二人に断ってオッパイをあげる。
首が座ってきたのでこの時間も少しラクになってきた。満腹になった胡桃をゲップさせベッドに寝かせると、「おかぁさんだねぇ」と心美が感心していた。
「まさか、なつみに先越されるとはね」
「ね、ほんとに父親には知らせないの? 子供ってお金かかるし助けはあったほうがいいと思うよ?」
親にも心美にも詳しく話してない父親のこと。やはり、会う人にことごとく訊かれるが、私は曖昧にしか答えない。
「うん。わかってる。でも、このままでいい。だから仕事もそろそろ始めるつもりだし」
生後三ヶ月の乳児を預けて働くなんて子供が可哀想って言う人もいるかもしれないけれど、私もずっと実家に頼るつもりはなかった。
冬美を突き放した手前、両親も、いつかは自立をした方がいいと思っているはずだから最近は求人情報を隈無く見ている。
「なつみは昔からへんなとこ頑固なんだから」
心美が呆れて、「ちょっとテレビ点けるね」とリモコンを操作する。新妻らしく夕方のローカル番組で夕飯のヒントを得るらしい。
本日はゴーヤを使った炒め物だった。ゴーヤかぁ……、もうそんな季節なんだ。今年は作れなかったな。
あれから、自分のためにも誰かの為にも料理をする事が殆どなくなった。
普段は考えないようにしてるし、育児で浸る暇もないのだけれど―――
この子の父親は神城くんだ。
品のある顔立ちは、日に日に彼に似て来ているように思う。
でも、だからって、会いに行こうとも思わない。頼らず一人で育てていくと決めた。
それなのに、
「″この番組は、『終末都市』などのヒットタイトルの開発を行う【スマート・グッド】の提供でお送りしています"」
テレビから流れてきたスポンサーの名前を聞いて、私の体は固くなる。
「あ、れ? この会社ってなつみが前勤めてたところじゃない?」
「へぇ、こんな大きい会社にいたの?」
「………うん、少しだけね」
中国企業、靠近との吸収合併すなわち乗っ取りを回避したスマート・グッドは、それについても話題を呼び、ゲーム関連だけでなく、Vtuberプロデュース、メタバース構築プラットフォームを次々にプロデュース。近々上場も噂されるほど、揺るがない企業へと発展していた。
なので、神城くんのメディアへの露出は以前にも増して多くなっているようだった。
会わなければ……姿を見なければ、声を聞かなければ気持ちに蓋をしていられるのに。
「この会社、二十二時からの報道番組でも取り上げられるみたいだね。社長イケメンだし、確か私らとタメなんだよねー?」
友人が、画面に少しだけ映った神城くんを見て指をさした。
「………」
頷くだけで口を噤んだ私を見て、心美が心配そうに見る。話さなくても、胡桃の父親が元上司の神城くんだって気が付いてるから。
「携帯番号変えてまで、周りに知られないように出産しなきゃいけない事情って相当なものだと思うけど」
「………」
「なつみのその顔見たら、嫌いになったり完全な決別があったわけじゃないって察しがつくわ」
「え? なに? どういうこと?」
わけがわからない友人は、私と心美と、テレビの画面を交互に見て首を傾げた。私はひたすら首を横に振り、作り笑いを浮かべて下を向いた。
たまにね。
やっぱり、好きだなって、もう一度会えたらいいなって思うことあるんだよ。
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