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2. No penny, No pardon.
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やがて全てを終えた後、先輩は睨みなつけながら言った。
「誰にも言うなよ? ビデオ、撮ってあるからな」
明らかな脅迫だった。確たる証拠はなかったのに、その言葉を鵜呑みにしてしまうほどパニックになっていた。
胸の部分を片手で押さえ、部室を飛び出した。行く宛もなく息を切らして階段を上がり、駆け込んだのは夕焼け色の教室。
教壇に座りうずくまる。膝や背中、心臓が痛い。怖かったことは事実なのに、不思議と涙は流れなかった。処女を喪失した今、「想像と違った」とさえ思い始めた。私は普通の人間じゃないんだ。この体は欲望を拒むようにできていないのだと、自覚が芽生えた。よく考えてみれば、あの両親からまともな子供が産まれる訳がない。その証拠に生理が来た。生理不順のくせに、こういう時にはしっかりくる。皮肉な感じがした。
転校するまでの間、あの先輩とは一回きり、何の音沙汰もなくなった。もしあの時、先輩のところへ行かなかったとしたら……。どのみち、私は体を売ってお金をもらうことが悪いことだと思わなくなった。なぜなら、運命が再び降りかかってきたから。
父の家に引っ越したのは、中学二年生に上がるタイミングだった。次の家は閑静な住宅街の一角にある一戸建て住宅。私を強引に引き取った理由について、この家を見てすぐに察しがついた。
「今日から俺の再婚相手と、その子どもたちとで生活してもらうから。留守にしている間子どもたちの面倒と、朝晩の飯もついでに作っといて」
台本のセリフを丸暗記したかのように、父は自然と口にした。新しい母親も「嗣乃ちゃんよね? これからよろしく」と平然と笑ってみせた。鳥肌が立った。高校進学は諦めて、一刻も早くここを出なければ。しかし、その気持を緩やかにしたのは異母姉妹たちだった。
二人の妹は小学生で、よく懐いてくれた。ご飯を作ればひと粒も残さず食べてくれるし、言いつけをしっかり守ってくれる。良い両親に恵まれなかったところは自分と似ている。親近感もあって本当の姉妹になったようだった。
しかしながら、ストレスは溜まっていく一方だった。受験勉強も重なり、つい魔が差してしまった。
近所のスーパーのタイムセールが始まる時間。レジは混み始め、客の多くの興味は値引きされたお惣菜コーナーにある。私はお菓子コーナの通路にいて、お菓子を選ぶフリをした。監視カメラの位置や店員の行動パターンは記憶してある。
今ならバレない。
しゃがみ込み、ラムネ菓子が入った細長い水色のプラスチック容器をこっそりジャージのポケットに入れた。左右に顔を動かすと怪しまれると思い、もう一本同じ菓子を今度はカゴに入れた。
大丈夫、大丈夫――。
何度も同じ言葉を言い聞かせ、今日の晩御飯の材料をカゴに入れていく。ラムネ菓子が埋まっていった。
空いている有人レジより、セルフレジの列に並んだ。セルフレジを選にてバーコードを読み取らせる。これが最後のチャンスだ。店員に気づかれないよう、ポケットに入っているラムネを取り出してスキャンすれば、問題なくスーパーを出られる。だけど、スキャンしなくても問題なく出られる可能性はある。
この泥沼のような毎日に、黙って溺れていくのは嫌だ。
「誰にも言うなよ? ビデオ、撮ってあるからな」
明らかな脅迫だった。確たる証拠はなかったのに、その言葉を鵜呑みにしてしまうほどパニックになっていた。
胸の部分を片手で押さえ、部室を飛び出した。行く宛もなく息を切らして階段を上がり、駆け込んだのは夕焼け色の教室。
教壇に座りうずくまる。膝や背中、心臓が痛い。怖かったことは事実なのに、不思議と涙は流れなかった。処女を喪失した今、「想像と違った」とさえ思い始めた。私は普通の人間じゃないんだ。この体は欲望を拒むようにできていないのだと、自覚が芽生えた。よく考えてみれば、あの両親からまともな子供が産まれる訳がない。その証拠に生理が来た。生理不順のくせに、こういう時にはしっかりくる。皮肉な感じがした。
転校するまでの間、あの先輩とは一回きり、何の音沙汰もなくなった。もしあの時、先輩のところへ行かなかったとしたら……。どのみち、私は体を売ってお金をもらうことが悪いことだと思わなくなった。なぜなら、運命が再び降りかかってきたから。
父の家に引っ越したのは、中学二年生に上がるタイミングだった。次の家は閑静な住宅街の一角にある一戸建て住宅。私を強引に引き取った理由について、この家を見てすぐに察しがついた。
「今日から俺の再婚相手と、その子どもたちとで生活してもらうから。留守にしている間子どもたちの面倒と、朝晩の飯もついでに作っといて」
台本のセリフを丸暗記したかのように、父は自然と口にした。新しい母親も「嗣乃ちゃんよね? これからよろしく」と平然と笑ってみせた。鳥肌が立った。高校進学は諦めて、一刻も早くここを出なければ。しかし、その気持を緩やかにしたのは異母姉妹たちだった。
二人の妹は小学生で、よく懐いてくれた。ご飯を作ればひと粒も残さず食べてくれるし、言いつけをしっかり守ってくれる。良い両親に恵まれなかったところは自分と似ている。親近感もあって本当の姉妹になったようだった。
しかしながら、ストレスは溜まっていく一方だった。受験勉強も重なり、つい魔が差してしまった。
近所のスーパーのタイムセールが始まる時間。レジは混み始め、客の多くの興味は値引きされたお惣菜コーナーにある。私はお菓子コーナの通路にいて、お菓子を選ぶフリをした。監視カメラの位置や店員の行動パターンは記憶してある。
今ならバレない。
しゃがみ込み、ラムネ菓子が入った細長い水色のプラスチック容器をこっそりジャージのポケットに入れた。左右に顔を動かすと怪しまれると思い、もう一本同じ菓子を今度はカゴに入れた。
大丈夫、大丈夫――。
何度も同じ言葉を言い聞かせ、今日の晩御飯の材料をカゴに入れていく。ラムネ菓子が埋まっていった。
空いている有人レジより、セルフレジの列に並んだ。セルフレジを選にてバーコードを読み取らせる。これが最後のチャンスだ。店員に気づかれないよう、ポケットに入っているラムネを取り出してスキャンすれば、問題なくスーパーを出られる。だけど、スキャンしなくても問題なく出られる可能性はある。
この泥沼のような毎日に、黙って溺れていくのは嫌だ。
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