Rabbit-foot

Suzuki_Aphro

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2. No penny, No pardon.

13

 私はきつねうどんを、伊吹は天ぷらうどんを頼んだ。鰹節の香ばしい匂いとやや濃い味付けのつゆを胃に流し込む。汁が飛び散らないようにゆっくりと麺をすすったり、スマートフォンをいじったり。お互い黙々と食べ進めていたが、先に切り出したのは伊吹からだった。

「嗣乃は何で演劇サークルに入ろうと思ったの?」

「友だちから誘われたから、かな」

「へぇー。もしかして、同じ高校だった子?」

「うん。伊吹は?」

「ミュージカルを観るのが好きだから」

「観るのが好きなの?」

「うん。俺が小学校の時、プロの劇団員たちが学校まで出張しに来てくれたんだ。その時観た劇が忘れられなくて。演技や歌はもちろん凄かったんだけど、役者さんが一人ひとり輝いていたというか。楽しそうに演じていたんだ。ミュージカルって聞くと、突然歌い出すイメージが強いと思うんだ。確かに、歌とは切っても切り離せない関係にあって、それでもミュージカルを構成するピースでしかないとも思っていて。つまり、歌唱や演技に注目が行きがちだけど、醍醐味はもっと深くにあるって言うのかな。とにかく、俺の夢は本場のミュージカルを観ることなんだ。大学生になった今、頑張ってバイトして、ようやく傑作と名高い演目を観ることが出来たんだ! それはもう、この感動を言葉にするのが難しいくらい感動してね。まぁ、チケット代だってバカにならないから、なるべく手軽に演劇を鑑賞したくてってところかな。……あ、ごめんね。一人でペラペラしゃべっちゃって」

 箸を持ったまま息継ぎする間もなく言った。

 伊吹がそこまでミュージカルに没頭していたとは意外だった。

「大丈夫。本当に好きなんだなってことが伝わってきたよ。もしよかったらなんだけど、この後ミュージカル行かない? チケット余っちゃって」

「ゲホッ」

 私が言い終わる前に伊吹は飲んでいた水を吹き出した。

「ご、ごめん。びっくりしちゃって」

 彼は慌ててテーブルに置いてある紙ナプキンを数枚とって、トレーの上を拭く。そして咳ばらいをして一呼吸ついた。

「えっと、一緒に行かないかって話だよね? いいの僕なんかで?」

「もちろん。一人だと寂しいし」

「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、どうしようかな……」

「何が?」

「いや、結構当たり外れあるから。俺、行く前に評価を読んで行く性格なんだよね」

「気持ちは分かる。けど今回は騙されたと思って行ってみようよ! 損はさせないから」

「うーん、そこまで言うなら行こうかな。ありがとう、否定しないでいてくれて。嗣乃はいい人だね」

「いい人だなんて……。そんなことないよ」

 私はぬるくなったつゆの中に大量の七味を振りかける。表面に敷き詰められた粉を見て伊吹が「辛党なの?」と訊いてきた。

「これは少し前に……。というか、お母さんが七味とかタバスコとか好きだったから、その影響」

「なるほどね。よかったら今度、ラーメン食べ行こうよ。結構辛いけど、めちゃくちゃ美味しいんだ」

「うん、今度連れてって」

 つゆを一口飲んだだけでむせそうになった。慌てて水を飲む。辛い料理は得意でない。少し前にマッチングした男性は、何にでも七味やチリソースをかけて食べるほど辛い物が好きだから、私も慣れるために食べているだけ。

 半分まで麺が減ったところで、伊吹は食べ終わったようだった。両手を合わせ、ご馳走様と小さく呟く。

「ふー、お腹一杯。あ、俺のことは気にせずゆっくり食べていいからね」

「うん。ありがとう」
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