Rabbit-foot

Suzuki_Aphro

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2. No penny, No pardon.

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 伊吹はスマートフォンを触りだした。

 彼はいい人だと思った。まだ表面的な会話しか交わしていないけれど、佐環のように友だちになれる、と。だからなのか、胸が高まったり、興味を惹かれるようなことはなかった。

「ごちそうさま。お腹いっぱいになっちゃった」

 蓮華をつゆの中へ入れる。底に溜まっていた七味の粉が舞ってすぐに沈んだ。

「よし、じゃあ行こっか。えっと最寄り駅は……」

 伊吹は立ち上がり、チケットにある劇場名をスマートフォンに入力しているようだった。

芋北川いもきたがわが一番近いかな」

 教えた方が早いと思い途中で口を挟む。

「へぇー! この劇場、芋北川にあるのか。知らなかった!」

「家の近く?」

「いや、バイト先の最寄り駅。ちょうどよかったー。制服持ってきて正解だった! 何だか今日ツイてるなぁ、怖いくらいに」

 上機嫌にリュックをパンと軽く叩く。

「そう言えば、嗣乃ってバイトしてるんだっけ?」

「いや、まだ何も……」

「そっか。まぁ、まだ大学入って一年目だしね。何のバイトするか迷ってる感じ?」

「うん、まぁ……」

「もしいいところがなかったら、紹介するよ! 今人手不足で大変なんだ。だけど、賄いが出るところは嬉しいかな」

「分かった、覚えとくね」

「うん。さて、それじゃ行こうか」

 伊吹はトレーを持ち上げ促した。

 伊吹が根掘り葉掘り訊いてくる人でなくて良かった。ミュージカルに誘った理由はただの気まぐれ。それに私の本性を知ったら、多分彼は私のことを軽蔑するだろうから、つかず離れず付き合っていくことを決めた。



 ミュージカルが終わって劇場から外に出ると、周りの商店街の眩しすぎる明かりが目に入った。昼間と比べ行き交う人の多さを見て、今日が金曜日であったことを思い出した。賑わっている店は大体居酒屋だ。透明なカーテンの仕切りの先には老若男女問わず酒を酌み交わしている。酒を飲んで厚くなったのか、上着を脱いでいる客もいた。昼よりさらに冷えてきているというのに。

「嗣乃、今日はありがとうね! とってもとっても楽しかった」

 数歩進んだところで、伊吹が立ち止まって言った。

「今注目されてる、新進気鋭の劇団のミュージカルを観られたなんてラッキーだよ」

「本当に、すごく良かったよね」

 伊吹も私も、心から満足したように笑う。これは本心でお世辞ではない。演者たちは私たちと同じくらいの年齢か、それより少し上。それなのに何もかもが違っていた。数えきれないくらいリハーサルを積み重ねてきたのだろうと、観ただけで分かる劇の一体感。もうエネルギーを残す必要なんてないと言わんばかりの、全力のパフォーマンス。本当に観られてよかった。

「うん! バイトが憂鬱だったけど、これで頑張れるよ」

「バイトってこれから?」

「そう、ここから反対側にある居酒屋で働いてるんだ」

「そうだったんだ。ごめんね、なんか無理に誘ったみたいで……」

「いやいや、全然! 嗣乃のおかげでいい日になったよ」

 伊吹は両手を体の前で振る。

「ありがとう。……じゃあ、行くね。アルバイト頑張って」

 スカートが夜風に翻った。ふくらはぎあたりが冷たくなってきている。そろそろ暖かいところへ入りたくて、私は我慢できずに言った。すると、「あ、あの!」と引き留め雑踏に呑み込まれそうな声量で訊いてきた。

「……あ、あの、また俺と会ってくれる?」
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