Rabbit-foot

Suzuki_Aphro

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2. No penny, No pardon.

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「もちろん」

「よかった! 今度は友だちを連れてくるよ。みんなでご飯にでも行こう」

「うん。それじゃ」

「じゃあね!」

 私は振り返ることなく最寄り駅へと歩き出す。ポケットから取り出したワイヤレスイヤホン付け、お気に入りのミュージカル音楽が入っているプレイリストを再生した。美しいソプラノの声が私と都会の喧騒を完全に隔離する。英語は速いテンポで流れてくるも、大体の意味は理解できる。それでも、ネイティブとして産まれてこれたならどれだけ良かったかとねだる。そして、ミュージカルに言葉なんて関係ないともたまに思う。

 ピコン。

 サビへ到達する寸前に通知音が鳴る。マッチングアプリのアイコンと共に「新着メッセージがあります」の通知バナー。開くと、今晩会う予定だった男性から催促のメッセージが届いていた。

 ――マリアちゃーん。体調悪いの? もしかして彼氏?! 心配だから、何もないなら返事して。大丈夫だけでもいいから。約束ドタキャンされても怒ってないよ!
 
 私はそれ無視して、待ち合わせの駅とは逆方向へ向かう車両のホームへ降りる。嫉妬深く、返信が遅れただけで何度もこうしてメッセージを送ってくる。他の男性よりいい報酬で会ってくれるから今まで我慢してきたのもの、そろそろ縁を切りたいと思っていた。相手も同じ考えなのだろう。このまま返信をしなかったら、もう彼と会うことはない。だけど。

「ま、いっか」

 言ったか言わないかの独白は、満員電車の中へ消えていった。



 次に伊吹と会う日は遠くなかった。サークルの演劇発表会で再会したことをきっかけに、みんなで食事へ行くことになった。場所は伊吹行きつけの中華料理店。
 
 そこで私は佐環を紹介し、彼は勝矢を紹介した。勝矢の第一印象はヒョロヒョロした体形で物静かな人。伊吹とは幼馴染のような関係で、大学まで同じになったらしい。

「私たち演劇サークルに入ってるんだけど、勝矢くんはどこか入ってる?」

 佐環が冷水を片手に持ったまま訊く。

「どこにも。学業とバイトで精一杯だよ」

「勝矢、こう見えてもベースが弾けるんだ。インディーズバンドのサポートメンバーとしてたまにステージ立って演奏してるけど、別人かって思うくらい」

 伊吹が横から入り込む。勝矢の表情は変わらない。恥ずかしいことでも、秘密にしておきたいことでもなさそうだ。

「へぇー! なんて名前のバンドなの?」

 佐環は興味深々といった顔をしている。

「『Anywhrer』。これから名を馳せる予定の、実力派バンドだよ」

「そんなにすごいの?」

「うん、すごいよ」

 声のトーンが一段階低くなる。その言葉に静かな自信がみなぎっていた。

「よければ来週ライブやるから、観に来なよ。今回僕は出ないけど、後悔しないと思うよ」

「うーん。そこまで言うなら行こうかな。ね、嗣乃」

「……ごめん、今回は遠慮させてもってもいい? 予定が詰まってて」

 私はスマートフォンを操作したまま返事をする。

「そっかぁ。それは残念。最近バイトで忙しいね」

「うん、まぁ」

 無暗に希望を追いかけて努力する人たちを見るのが昔から苦手だ。それに、予定があること自体は嘘ではない。佐環や伊吹にはパパ活していることを隠し、「家庭教師のバイトを始めた」ということにしてある。これから先、バイトをする必要はないで通すのが面倒だから。
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