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第3章 再び、辺境領へ
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......
ライオネルたちが王都の舞踏会でリエト辺境伯家とやり合っている時、ロランたちは犯行現場を取り押さえる準備をしていた。外は吹雪いており、すでに手の感覚がない。
「あいつ、戻ってくるの遅くねえか。もう侯爵さまと約束した時間になっちまうんだが」
「おい、モリス。デューラ卿のことを呼び捨てにするなよ」
「うるせえ。本人がいないところでなんて呼んだっていいだろ」
時計を見ながらぼやくモリスをロランはたしなめた。だが当の本人は気にしてもいない様子だ。
レオナルドと別れた後、ロランたちはリエト辺境伯家の人間と商人たちの取り引きが行われる現場に到着していた。ライオネルの調査とモリスたちの証言によって割り出された場所だ。
「はあ。だけどデューラ卿が来ない以上動けないのは事実だしな」
協力者と待ち合わせをし、後で合流するとのことだったが、彼らはまだ到着していない。
約束を破るとは思えないが、だんだんそわそわしてきた。
「お待たせしました」
「デューラ卿!」
「おせえよ」
寒さで頬を赤くしながらやってきたレオナルドの後ろには待ち合わせをしていたであろう協力者もいる。だがフードを深く被っているため、顔は見えなかった。
「申し訳ございません。何せ、協力者さんがここに来るのを渋るものですから。説得に時間がかかってしまったんです」
「なんだよそれ。ここまで来て問題を起こすとかやめろよ」
「それはご心配なく。きちんと納得してここに来ていただきました」
説得はかなり難航していたらしい。彼を手こずらせる協力者とは相当なものだ。
どことなく居心地が悪そうにしている協力者を見たロランは彼に近づいた。
「初めまして、ブルーナ侯爵家で使用人として働いています。ロラン・ブスケーです」
「......」
「ええと、侯爵さまのご兄弟だと聞きました。本日はよろしくお願いします」
「......」
ライオネルから協力者のことをよろしくと頼まれていたロランは挨拶をした。
だが、彼は何も話さなかった。握手をするために差し出した手を握り返してくれたので、無視をされたわけではないがロランは不思議に思った。
(もしかして話せない方なのかな?)
今まで一度も侯爵家でライオネルの弟である彼を見たことがないし、同僚たちからも具体的な話を聞いたことがないので、何か事情がある方なのではないかと思っていた。だから特に驚きはしなかった。
「すみませんロランさん、彼はシャイなんです。多めに見ていただけると助かります」
「誰にでも事情はありますから、気にしていませんよ」
協力者は隣にいたレオナルドをチラリと見た後、ロランの手を離した。
「おい、そろそろ時間だ。突入の準備をする」
王都で分かれる時、ライオネルはレオナルド一行に指示をしていた。
その内容はライオネルが指示をした時間に現場に入り証拠を押さえること。本人曰く、リエト辺境伯の悪行をまず貴族たちに伝えないとこちら側が悪いことをしていると思われてしまうからね、だそうだ。
つまり彼は、舞踏会で告発し終える時間をあらかじめ設定したのだ。
簡単に上手くいくものかと思ったが、上手く行かせるのが彼の仕事なのだと思い直した。
「わかった」
ロランの役目は初めだけだ。
(そこが突入の肝になるわけだけど)
「しくじるなよ」
「頑張ってください、ロランさん」
「はい」
ロランの役目は、何も知らない一般人を装って犯行現場に入ることだ。その後、隙を見てレオナルドとモリスたちが現場に突入し、証拠を押さえるという段取りである。
「行ってきます」
扉を開けて危険人物であると思われないよう振る舞う必要がある。そんな人間は緊張していては辺境伯家の人間に怪しまれてしまうかもしれない。
(こうなったら馬鹿になるしかないんだ)
落ち着けと心の中で何度も唱えながら、ロランは扉を開けた。
「ただいま~」
「誰だお前は!」
案の定、扉の先には何らかの取引を行っている男たちがいた。緊迫とした空気が流れる。
馬鹿になれ、馬鹿になるんだ。今、脳みそはアルコールに浸っているのだ。
「あれぇー、俺の家に知らない人たちがいる~」
「何言ってんだ、おっさん! うわ、酒臭」
「マジかよ。おいおい、すげえ酔っ払ってんなあ」
「誰かつまみだせよ」
部屋の中にいた人間たちは、何だ酔っ払いかと油断を見せた。
ロランの作戦は成功したようだ。このためにレオナルドたちを持っている間、大量の酒を飲んでいたのである。
酒に強いため、この程度では酔わない。しかし酔いどれおじさんを演じるには十分な酒臭さを生み出すまでは飲んだ。モリスたちにはドン引きそされた。
「んーここはどこだあ? まあいいか、寝よっと」
「おいおっさん、こんなところで寝るなよ」
「うわ、マジで寝やがった」
「外に捨てに行けよ」
「でも外は馬鹿寒いぞ」
「知ったことか。辺境伯さまの命令で取引をしているんだ。ミスでも起こったらどうする?」
「そうだけどよお」
この現場にはリエト辺境伯家の人間と辺境伯領を拠点とする商人がいると事前情報があった。
(間違いなかったみたいだ)
男のうちの1人に服を摘まれながら外へ引きずり出されていく。
「何すんだよお、俺の家だぞ」
「お前の家じゃねえっての。ほら帰れ」
「やめろお」
「うわ、行って。何すんだよ」
「お前たちこそ何してうんだ? 俺の家で!」
「だから、違う。俺たちはおっさんには想像できないくらい高貴な方と取引してるんだよ」
「こうきな方あ?」
「そうだ。とっとと帰れ」
ライオネルたちが王都の舞踏会でリエト辺境伯家とやり合っている時、ロランたちは犯行現場を取り押さえる準備をしていた。外は吹雪いており、すでに手の感覚がない。
「あいつ、戻ってくるの遅くねえか。もう侯爵さまと約束した時間になっちまうんだが」
「おい、モリス。デューラ卿のことを呼び捨てにするなよ」
「うるせえ。本人がいないところでなんて呼んだっていいだろ」
時計を見ながらぼやくモリスをロランはたしなめた。だが当の本人は気にしてもいない様子だ。
レオナルドと別れた後、ロランたちはリエト辺境伯家の人間と商人たちの取り引きが行われる現場に到着していた。ライオネルの調査とモリスたちの証言によって割り出された場所だ。
「はあ。だけどデューラ卿が来ない以上動けないのは事実だしな」
協力者と待ち合わせをし、後で合流するとのことだったが、彼らはまだ到着していない。
約束を破るとは思えないが、だんだんそわそわしてきた。
「お待たせしました」
「デューラ卿!」
「おせえよ」
寒さで頬を赤くしながらやってきたレオナルドの後ろには待ち合わせをしていたであろう協力者もいる。だがフードを深く被っているため、顔は見えなかった。
「申し訳ございません。何せ、協力者さんがここに来るのを渋るものですから。説得に時間がかかってしまったんです」
「なんだよそれ。ここまで来て問題を起こすとかやめろよ」
「それはご心配なく。きちんと納得してここに来ていただきました」
説得はかなり難航していたらしい。彼を手こずらせる協力者とは相当なものだ。
どことなく居心地が悪そうにしている協力者を見たロランは彼に近づいた。
「初めまして、ブルーナ侯爵家で使用人として働いています。ロラン・ブスケーです」
「......」
「ええと、侯爵さまのご兄弟だと聞きました。本日はよろしくお願いします」
「......」
ライオネルから協力者のことをよろしくと頼まれていたロランは挨拶をした。
だが、彼は何も話さなかった。握手をするために差し出した手を握り返してくれたので、無視をされたわけではないがロランは不思議に思った。
(もしかして話せない方なのかな?)
今まで一度も侯爵家でライオネルの弟である彼を見たことがないし、同僚たちからも具体的な話を聞いたことがないので、何か事情がある方なのではないかと思っていた。だから特に驚きはしなかった。
「すみませんロランさん、彼はシャイなんです。多めに見ていただけると助かります」
「誰にでも事情はありますから、気にしていませんよ」
協力者は隣にいたレオナルドをチラリと見た後、ロランの手を離した。
「おい、そろそろ時間だ。突入の準備をする」
王都で分かれる時、ライオネルはレオナルド一行に指示をしていた。
その内容はライオネルが指示をした時間に現場に入り証拠を押さえること。本人曰く、リエト辺境伯の悪行をまず貴族たちに伝えないとこちら側が悪いことをしていると思われてしまうからね、だそうだ。
つまり彼は、舞踏会で告発し終える時間をあらかじめ設定したのだ。
簡単に上手くいくものかと思ったが、上手く行かせるのが彼の仕事なのだと思い直した。
「わかった」
ロランの役目は初めだけだ。
(そこが突入の肝になるわけだけど)
「しくじるなよ」
「頑張ってください、ロランさん」
「はい」
ロランの役目は、何も知らない一般人を装って犯行現場に入ることだ。その後、隙を見てレオナルドとモリスたちが現場に突入し、証拠を押さえるという段取りである。
「行ってきます」
扉を開けて危険人物であると思われないよう振る舞う必要がある。そんな人間は緊張していては辺境伯家の人間に怪しまれてしまうかもしれない。
(こうなったら馬鹿になるしかないんだ)
落ち着けと心の中で何度も唱えながら、ロランは扉を開けた。
「ただいま~」
「誰だお前は!」
案の定、扉の先には何らかの取引を行っている男たちがいた。緊迫とした空気が流れる。
馬鹿になれ、馬鹿になるんだ。今、脳みそはアルコールに浸っているのだ。
「あれぇー、俺の家に知らない人たちがいる~」
「何言ってんだ、おっさん! うわ、酒臭」
「マジかよ。おいおい、すげえ酔っ払ってんなあ」
「誰かつまみだせよ」
部屋の中にいた人間たちは、何だ酔っ払いかと油断を見せた。
ロランの作戦は成功したようだ。このためにレオナルドたちを持っている間、大量の酒を飲んでいたのである。
酒に強いため、この程度では酔わない。しかし酔いどれおじさんを演じるには十分な酒臭さを生み出すまでは飲んだ。モリスたちにはドン引きそされた。
「んーここはどこだあ? まあいいか、寝よっと」
「おいおっさん、こんなところで寝るなよ」
「うわ、マジで寝やがった」
「外に捨てに行けよ」
「でも外は馬鹿寒いぞ」
「知ったことか。辺境伯さまの命令で取引をしているんだ。ミスでも起こったらどうする?」
「そうだけどよお」
この現場にはリエト辺境伯家の人間と辺境伯領を拠点とする商人がいると事前情報があった。
(間違いなかったみたいだ)
男のうちの1人に服を摘まれながら外へ引きずり出されていく。
「何すんだよお、俺の家だぞ」
「お前の家じゃねえっての。ほら帰れ」
「やめろお」
「うわ、行って。何すんだよ」
「お前たちこそ何してうんだ? 俺の家で!」
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「そうだ。とっとと帰れ」
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