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第3章 再び、辺境領へ
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「ええと、これはどういうことですか?」
ロランたちは雪が降りしきる中、取り残されてしまった。
協力者であり、ライオネルの弟でもあるという彼に尋ねた。
「……」
「何か言ってもらわないと困ります」
「……」
「俺に何か言いたいことがあるんですよね?」
「......掴んでしまってすみません。何でもないです」
「何でもないはずないですよね。言いたいことがあるなら言ってもらわないと」
「本当に何でもないんです」
彼は掴んでいたロランの袖を離した。よほど強く握っていたのだろう、しっかりと跡が残っていた。
「ごめんなさい。さようなら」
一方的に告げて雪が降りしきる中、歩いて行こうとする。
どうして行ってしまうのだろう。やっと会えたのに。
「待てよ!」
背を向けて去っていく彼に抱きついた。
「何ですか。私には仕事が残っています。離してください」
わかりやすすぎる嘘だ。本当に仕事が残っているのなら、レオナルドが一緒に連れていくはずだ。
「嫌だ。離さない」
「離して」
「本当に嫌なら、この腕を振り解いて行けよ」
「......」
彼は何も言わなかった。
それが答えだとロランは確信する。
「俺はずっと覚えてた。辺境領を出る時にした約束も、一緒に住んでいた時に俺のことを大切にしてくれたことも、全部だ」
「......」
「もし本当にこれを最後にしたいなら、それでもいい」
「!」
「俺の腕を振り解いてどこへでもいっちまえ!」
「......そんなこと、できるはずないじゃないですか」
喉の奥から搾り出すような声だった。
ロランはそのままの体制で聞いた。
「俺の名前はロランって言うんだけど君は何て言うの?」
「……」
「言いたくない?」
「そうじゃないです。でも」
「言いたくないなら、それでもいいよ」
「違います。言いたくないとかそう言うわけじゃなくて。でも俺はあなたに嫌われたくないから……」
弱々しく話す様子を見て胸が締め付けられた。彼は決定的なことを口にしていない。だが、彼の正体に気づいているロランには何を伝えたいのかはっきりと伝わっていた。
彼の声を聞き逃すはずがないのだ。
そして裾を掴んで離さない手に自分の手を重ねた。今はロランが勇気を出す時だ。
「ごめん、意地悪だったな。俺さ、元々は辺境領に住んでいたんだ。でも訳あって王都に行くことになった」
「……」
「王都に行く少し前に知り合った人がいて、その人はおじさんの俺によくしてくれた。そして、その人は俺のことを好きだって言ってくれたんだ。でも俺はひどく臆病だから、突き放してしまった」
「……」
「なあ、ユーティス。俺たちの約束はまだ有効かな」
「……!」
「俺たちの関係を終わりにしたくないっていたら、怒る?」
強い風が吹いてフードが外れた。透けてしまいそうなほど綺麗なブラウンに空の色を映し取ったような瞳が現れる。
けれど表情は苦しそうに歪んでいた。それはロランも同じだろう。
自分の気持ちを見ないふりをし続けて、たくさん遠回りをしてしまった。
「怒りませんよ。むしろ俺の方が、怒られるべきです」
「どうして?」
「俺は、あなたに隠し事をして、傷つけたから。他にも色々」
「リエト辺境伯令嬢のこととか?」
「……はい」
「何か事情があったんだろう? 侯爵さまから辺境伯家に潜入している協力者については教えてもらっていたから、察しはつくよ」
傷つかなかったと言えば嘘になる。だが、胸の痛みは彼を愛している証拠だから、痛くても苦しくても、よかったのだ。
「でも、俺は自分を許せません」
「じゃあ俺のそばにはいてくれないの?」
「それは、嫌だ」
「答えは決まっているな」
頑なに俯いているユーティスの懐にロランは飛び込んでいった。
背中に腕を回してぎゅうと抱きしめる。だが抱きしめ返されはしなかった。
(ああ、怖い)
気持ちを言葉や行動で示さなければ、相手には伝わらない。逆も然りだ。
ユーティスはロランのそばにいたいと言ってくれているが、それは本心なのか確信を持てない。
「抱きしめ返してくれないのか?」
「あなたは本当にずるいですね」
恐る恐る聞くとユーティスは力いっぱいロランを抱きしめた。
苦しいくらいの抱擁に胸がいっぱいになる。彼の存在を感じて泣きそうだ。
「好きだ、愛してるよ、ユーティス。自分の気持ちに気がつくのが遅くなった俺を許してくれる?」
「許すも何も......。俺もあなたを愛してます。この世界の誰よりも、何よりも」
「じゃあ、俺のことちゃんと名前で呼んで」
「あ......」
ロランのことをあなた、としか呼ばないのは無意識だったようだ。彼の中の罪悪感がそうさせたに違いない。
だが、相手を傷つけたと言う点においてはロランもユーティスも同じだ。
「ロラン」
「うん。ユーティス」
互いのことを想うが故の傷は、互いの愛で直せばいい。そしていつかその傷跡ごと愛することができる日まで、そばにいるのだ。
「俺はもう、ロランから離れられないみたいです」
「離れないでくれよ」
「本当にあなたは、嬉しいことばかり言う」
「ふふ」
しんしんと雪が降り積もる中、そっと口づけを交わす。
ロランの瞳には、涙を溜めながら幸せそうに微笑むユーティスの姿だけが映っていた。
ロランたちは雪が降りしきる中、取り残されてしまった。
協力者であり、ライオネルの弟でもあるという彼に尋ねた。
「……」
「何か言ってもらわないと困ります」
「……」
「俺に何か言いたいことがあるんですよね?」
「......掴んでしまってすみません。何でもないです」
「何でもないはずないですよね。言いたいことがあるなら言ってもらわないと」
「本当に何でもないんです」
彼は掴んでいたロランの袖を離した。よほど強く握っていたのだろう、しっかりと跡が残っていた。
「ごめんなさい。さようなら」
一方的に告げて雪が降りしきる中、歩いて行こうとする。
どうして行ってしまうのだろう。やっと会えたのに。
「待てよ!」
背を向けて去っていく彼に抱きついた。
「何ですか。私には仕事が残っています。離してください」
わかりやすすぎる嘘だ。本当に仕事が残っているのなら、レオナルドが一緒に連れていくはずだ。
「嫌だ。離さない」
「離して」
「本当に嫌なら、この腕を振り解いて行けよ」
「......」
彼は何も言わなかった。
それが答えだとロランは確信する。
「俺はずっと覚えてた。辺境領を出る時にした約束も、一緒に住んでいた時に俺のことを大切にしてくれたことも、全部だ」
「......」
「もし本当にこれを最後にしたいなら、それでもいい」
「!」
「俺の腕を振り解いてどこへでもいっちまえ!」
「......そんなこと、できるはずないじゃないですか」
喉の奥から搾り出すような声だった。
ロランはそのままの体制で聞いた。
「俺の名前はロランって言うんだけど君は何て言うの?」
「……」
「言いたくない?」
「そうじゃないです。でも」
「言いたくないなら、それでもいいよ」
「違います。言いたくないとかそう言うわけじゃなくて。でも俺はあなたに嫌われたくないから……」
弱々しく話す様子を見て胸が締め付けられた。彼は決定的なことを口にしていない。だが、彼の正体に気づいているロランには何を伝えたいのかはっきりと伝わっていた。
彼の声を聞き逃すはずがないのだ。
そして裾を掴んで離さない手に自分の手を重ねた。今はロランが勇気を出す時だ。
「ごめん、意地悪だったな。俺さ、元々は辺境領に住んでいたんだ。でも訳あって王都に行くことになった」
「……」
「王都に行く少し前に知り合った人がいて、その人はおじさんの俺によくしてくれた。そして、その人は俺のことを好きだって言ってくれたんだ。でも俺はひどく臆病だから、突き放してしまった」
「……」
「なあ、ユーティス。俺たちの約束はまだ有効かな」
「……!」
「俺たちの関係を終わりにしたくないっていたら、怒る?」
強い風が吹いてフードが外れた。透けてしまいそうなほど綺麗なブラウンに空の色を映し取ったような瞳が現れる。
けれど表情は苦しそうに歪んでいた。それはロランも同じだろう。
自分の気持ちを見ないふりをし続けて、たくさん遠回りをしてしまった。
「怒りませんよ。むしろ俺の方が、怒られるべきです」
「どうして?」
「俺は、あなたに隠し事をして、傷つけたから。他にも色々」
「リエト辺境伯令嬢のこととか?」
「……はい」
「何か事情があったんだろう? 侯爵さまから辺境伯家に潜入している協力者については教えてもらっていたから、察しはつくよ」
傷つかなかったと言えば嘘になる。だが、胸の痛みは彼を愛している証拠だから、痛くても苦しくても、よかったのだ。
「でも、俺は自分を許せません」
「じゃあ俺のそばにはいてくれないの?」
「それは、嫌だ」
「答えは決まっているな」
頑なに俯いているユーティスの懐にロランは飛び込んでいった。
背中に腕を回してぎゅうと抱きしめる。だが抱きしめ返されはしなかった。
(ああ、怖い)
気持ちを言葉や行動で示さなければ、相手には伝わらない。逆も然りだ。
ユーティスはロランのそばにいたいと言ってくれているが、それは本心なのか確信を持てない。
「抱きしめ返してくれないのか?」
「あなたは本当にずるいですね」
恐る恐る聞くとユーティスは力いっぱいロランを抱きしめた。
苦しいくらいの抱擁に胸がいっぱいになる。彼の存在を感じて泣きそうだ。
「好きだ、愛してるよ、ユーティス。自分の気持ちに気がつくのが遅くなった俺を許してくれる?」
「許すも何も......。俺もあなたを愛してます。この世界の誰よりも、何よりも」
「じゃあ、俺のことちゃんと名前で呼んで」
「あ......」
ロランのことをあなた、としか呼ばないのは無意識だったようだ。彼の中の罪悪感がそうさせたに違いない。
だが、相手を傷つけたと言う点においてはロランもユーティスも同じだ。
「ロラン」
「うん。ユーティス」
互いのことを想うが故の傷は、互いの愛で直せばいい。そしていつかその傷跡ごと愛することができる日まで、そばにいるのだ。
「俺はもう、ロランから離れられないみたいです」
「離れないでくれよ」
「本当にあなたは、嬉しいことばかり言う」
「ふふ」
しんしんと雪が降り積もる中、そっと口づけを交わす。
ロランの瞳には、涙を溜めながら幸せそうに微笑むユーティスの姿だけが映っていた。
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