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いっちゃんの言う" 好き "が、どういう意味の" 好き "かはわからなかった。
聞く勇気もなかった。
いっちゃんはふたりきりになると、毎回同じように言ってくる。
「実結、どんだけ私のこと好きなんだよ」
からかうような言い方は、心をくすぐられるような感覚になる。
「いいじゃん。だめなの?」
私がふてくされても、彼女はケラケラ笑う。
「いいよ、もっと好きになって」
ずるいよ……。
春休みに入る前の、サークルで最後に集まる日。
「ひとり旅をしようと思う」
いっちゃんは唐突に宣言した。
「青春18きっぷでさ、節約して……四国の瀬戸内海にある島めぐり!いろんなアートが楽しめるみたいなんだ。今はオフシーズンなんだけど、人混み嫌いだし ちょうどいいかなって」
その帰り道、私は本屋さんに寄った。
いっちゃんの行く場所が、どんな所か知りたくて。
いっちゃんはよく、ひとりで美術館に行くらしい。
私が「一緒に行きたい!」と言うと「私の大好きな現代美術館が改装工事中だから、終わったら連れてってあげるよ」と笑った。
「そこの美術館に行って、私はアートを好きになったんだ」
自慢げに言う。
「美術館なんて、行き慣れてないと堅苦しいものと思うでしょ?でも、現代アートはそんなことなくて、意味不明すぎておもしろいんだよ。解説を読むと、作者がなにを考えて生きてるのかがわかって、さらにおもしろい。作者の見ている世界を、分け与えてもらってる感じ」
好きなものの話になると、いっちゃんはすごく饒舌になる。
「でもさ、こういう話をして 同じようにアートが好きな人に『誰が好き?』とか『○○展の××っていう作品見た?』とか聞かれるのが、すごく嫌なんだ。私は、作者とか作品名に あんまり興味なくて、作品そのものの世界観が知りたいだけなんだよね」
いつにも増して真剣な眼差しをするいっちゃんが好き。
私は、いっちゃんの好きなものを、たくさん知りたい。
何がそんなにいっちゃんを夢中にさせるのか?知りたくなる。
「作者の人生における背景を知った上で作品を見るのも楽しいんだと思う。作品名からつかめるイメージもあると思う。でも私はね、あくまで 私は、自分の持ってる世界観のなかで 作品を見たいんだ。作品の世界観と自分の世界観を重ね合わせて、楽しみたいんだ。だから 先入観みたいなのはいらないなって思う」
ここまで語って、彼女はふと我に返る。
「ごめん、語りすぎた」
照れると、下唇を舐める癖が出る。
「いっちゃんは、単純に名前を覚えられないってのもあるんじゃない?」
「そうとも言う」
ふたりで笑いあう時間が、なによりも愛おしくなった。
私は、本屋さんで調べて知ったことを いっちゃんに教えた。
「調べてくれたの!?」
自分の好きなものに興味をもってもらえることが嬉しいらしく、彼女は大喜びしていた。
本で見た限りの感想を言うと、彼女は顎に手を当てて 考える。
「一緒に行く?」
予想外の提案に胸がときめいた。
いっちゃんは、一度決めたことは覆したくない性格だと思ってたから。
「いいの?」
「うん、実結なら 一緒に行ったら楽しそうだし」
そして、ふたり旅が始まった。
「実結」
長い電車の旅が始まって、興奮が落ち着いたころ。
「夜、襲っちゃうかもよ?」
いっちゃんは、静かな電車内で まわりの人に聞こえないように耳打ちした。
自分でも赤くなってるとわかるほど、顔が熱くなった。
いっちゃんが横でニヤニヤする。
なんだか悔しくなって「いいよ」と答えたら、いっちゃんが心底驚いた顔をするから、可笑しくなった。
聞く勇気もなかった。
いっちゃんはふたりきりになると、毎回同じように言ってくる。
「実結、どんだけ私のこと好きなんだよ」
からかうような言い方は、心をくすぐられるような感覚になる。
「いいじゃん。だめなの?」
私がふてくされても、彼女はケラケラ笑う。
「いいよ、もっと好きになって」
ずるいよ……。
春休みに入る前の、サークルで最後に集まる日。
「ひとり旅をしようと思う」
いっちゃんは唐突に宣言した。
「青春18きっぷでさ、節約して……四国の瀬戸内海にある島めぐり!いろんなアートが楽しめるみたいなんだ。今はオフシーズンなんだけど、人混み嫌いだし ちょうどいいかなって」
その帰り道、私は本屋さんに寄った。
いっちゃんの行く場所が、どんな所か知りたくて。
いっちゃんはよく、ひとりで美術館に行くらしい。
私が「一緒に行きたい!」と言うと「私の大好きな現代美術館が改装工事中だから、終わったら連れてってあげるよ」と笑った。
「そこの美術館に行って、私はアートを好きになったんだ」
自慢げに言う。
「美術館なんて、行き慣れてないと堅苦しいものと思うでしょ?でも、現代アートはそんなことなくて、意味不明すぎておもしろいんだよ。解説を読むと、作者がなにを考えて生きてるのかがわかって、さらにおもしろい。作者の見ている世界を、分け与えてもらってる感じ」
好きなものの話になると、いっちゃんはすごく饒舌になる。
「でもさ、こういう話をして 同じようにアートが好きな人に『誰が好き?』とか『○○展の××っていう作品見た?』とか聞かれるのが、すごく嫌なんだ。私は、作者とか作品名に あんまり興味なくて、作品そのものの世界観が知りたいだけなんだよね」
いつにも増して真剣な眼差しをするいっちゃんが好き。
私は、いっちゃんの好きなものを、たくさん知りたい。
何がそんなにいっちゃんを夢中にさせるのか?知りたくなる。
「作者の人生における背景を知った上で作品を見るのも楽しいんだと思う。作品名からつかめるイメージもあると思う。でも私はね、あくまで 私は、自分の持ってる世界観のなかで 作品を見たいんだ。作品の世界観と自分の世界観を重ね合わせて、楽しみたいんだ。だから 先入観みたいなのはいらないなって思う」
ここまで語って、彼女はふと我に返る。
「ごめん、語りすぎた」
照れると、下唇を舐める癖が出る。
「いっちゃんは、単純に名前を覚えられないってのもあるんじゃない?」
「そうとも言う」
ふたりで笑いあう時間が、なによりも愛おしくなった。
私は、本屋さんで調べて知ったことを いっちゃんに教えた。
「調べてくれたの!?」
自分の好きなものに興味をもってもらえることが嬉しいらしく、彼女は大喜びしていた。
本で見た限りの感想を言うと、彼女は顎に手を当てて 考える。
「一緒に行く?」
予想外の提案に胸がときめいた。
いっちゃんは、一度決めたことは覆したくない性格だと思ってたから。
「いいの?」
「うん、実結なら 一緒に行ったら楽しそうだし」
そして、ふたり旅が始まった。
「実結」
長い電車の旅が始まって、興奮が落ち着いたころ。
「夜、襲っちゃうかもよ?」
いっちゃんは、静かな電車内で まわりの人に聞こえないように耳打ちした。
自分でも赤くなってるとわかるほど、顔が熱くなった。
いっちゃんが横でニヤニヤする。
なんだか悔しくなって「いいよ」と答えたら、いっちゃんが心底驚いた顔をするから、可笑しくなった。
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