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「戻るなら今のうちだよ!?」
途中下車して 街中を散策してると、いっちゃんが慌てた様子で言ってくる。
「なに言ってるの?」
いつもは私がいっちゃんにからかわれてるのに、この時は逆だった。
いっちゃんが自爆したようなものだけど、珍しい展開を楽しんでる私がいる。
「おかしいなあ、おかしいなあ」とブツブツひとりごちながら、いっちゃんは私の後ろを歩く。
夜ご飯を食べ終えて、ホテルへ向かう。
「いっちゃん」
風が冷たくて、いっちゃんの腕にしがみつく。
「ほんとに私、襲われるの?」
私よりも少し背が高いから、彼女を見るとき、自然と上目遣いになる。
「襲ってほしい?」
心地よい低音が、耳をくすぐる。
「いいよ」
「『いいよ』ってなんだよ」
ふっと笑う彼女は、もう動揺しないみたいだった。
ドキドキはしていても、えっちをするのかしないのか 不安になるようなドキドキではなかった。
私はいつも、先が見えないことに不安を抱いていたんだと気づかされる。
「おいで」
手を洗ったあと、荷物を広げようとしていた。
振り向くと、いっちゃんがベッドに座って、両手を広げてる。
一歩踏み出せば、抱きしめられてしまうくらいの距離。
「でも、さ……まだ荷物が」
私がうつむくと、いっちゃんはため息をついた。
私のそばに来て、片手を差し出す。
その仕草が まるで王子様みたいで、顔が火照る。
軽々と私を立ち上がらせ、その勢いでベッドに倒れこんだ。
「いっちゃん、まだお風呂……ッ!」
言い終える前に、強引にキスされる。
心臓がドクンと鳴る。
じっと見つめられて、ゆっくりと 優しい 2回目のキス。
「どうした?」
こういう、察しの良さが いっちゃんがモテる所以なんだろうな。
「いっちゃん、私……ちょっと、怖い。前付き合ってた人としたとき、痛くて……」
「そうなんだ」
逆光で影が落ちるいっちゃんの表情は、どこか悲しげに見えた。
「あ、こんな話、だめだよね」
「ん?だめじゃないよ。言ってくれたのは、嬉しい」
「そ、う?」
「うん。でも、許せないな。その、前付き合ってた人」
なんて返せばいいかわからなくて、ただ彼女を見つめる。
「そんなに、実結に我慢させてさ。本当はもっと、幸せなことなはずなのに」
3回目の、優しい口づけ。
気づいたら、私の目からは涙が溢れていた。
「怖かったの……怖かった。痛くて、我慢したけど、それでも痛くて……」
誰にも言えなかった痛みが、ずっと見てみぬフリしてた痛みが、ジクジクと主張し始める。
彼女は、私が繰り返す「怖い」と「痛い」にひたすら頷いた。
強く抱きしめて、赤ん坊をあやすみたいに 背中をトントンと叩いてくれる。
「私とも、怖い?」
いっちゃんは、やわらかい笑顔を見せてくれる。
「ちょっと、だけ……。でも、でも、いっちゃんは、優しくしてくれる?」
「うん、そうできるようにがんばるよ」
大切にされたい。優しくされたい。愛されたい。
ただ、ずっと願っていたのは、それだけだったのかもしれない。
翔太のときも、千尋のときも。
「大丈夫だよ」
彼女は、私の耳元で囁いた。
*
「実結、起きて」
「ん……」
「実結、そろそろシャワー浴びよ」
「ん~」
寝起きの悪い私を、いつもいっちゃんは笑う。
何回呼んでも起きないらしく、ほっぺをつねったり くすぐったり キスしてみたりするんだそうな。
「実結が一番起きやすいのは、おっぱいを揉んであげたときだね」
私はよく、からかわれる。
でもこの時は、ずっと名前を呼び続けてくれていた。
「実結」
大好きな声が、ずっと耳元で私を呼んでいる。
少しずつ意識がハッキリして、急に寝る前の出来事を思い出すと、パッチリと目が覚めた。
途中下車して 街中を散策してると、いっちゃんが慌てた様子で言ってくる。
「なに言ってるの?」
いつもは私がいっちゃんにからかわれてるのに、この時は逆だった。
いっちゃんが自爆したようなものだけど、珍しい展開を楽しんでる私がいる。
「おかしいなあ、おかしいなあ」とブツブツひとりごちながら、いっちゃんは私の後ろを歩く。
夜ご飯を食べ終えて、ホテルへ向かう。
「いっちゃん」
風が冷たくて、いっちゃんの腕にしがみつく。
「ほんとに私、襲われるの?」
私よりも少し背が高いから、彼女を見るとき、自然と上目遣いになる。
「襲ってほしい?」
心地よい低音が、耳をくすぐる。
「いいよ」
「『いいよ』ってなんだよ」
ふっと笑う彼女は、もう動揺しないみたいだった。
ドキドキはしていても、えっちをするのかしないのか 不安になるようなドキドキではなかった。
私はいつも、先が見えないことに不安を抱いていたんだと気づかされる。
「おいで」
手を洗ったあと、荷物を広げようとしていた。
振り向くと、いっちゃんがベッドに座って、両手を広げてる。
一歩踏み出せば、抱きしめられてしまうくらいの距離。
「でも、さ……まだ荷物が」
私がうつむくと、いっちゃんはため息をついた。
私のそばに来て、片手を差し出す。
その仕草が まるで王子様みたいで、顔が火照る。
軽々と私を立ち上がらせ、その勢いでベッドに倒れこんだ。
「いっちゃん、まだお風呂……ッ!」
言い終える前に、強引にキスされる。
心臓がドクンと鳴る。
じっと見つめられて、ゆっくりと 優しい 2回目のキス。
「どうした?」
こういう、察しの良さが いっちゃんがモテる所以なんだろうな。
「いっちゃん、私……ちょっと、怖い。前付き合ってた人としたとき、痛くて……」
「そうなんだ」
逆光で影が落ちるいっちゃんの表情は、どこか悲しげに見えた。
「あ、こんな話、だめだよね」
「ん?だめじゃないよ。言ってくれたのは、嬉しい」
「そ、う?」
「うん。でも、許せないな。その、前付き合ってた人」
なんて返せばいいかわからなくて、ただ彼女を見つめる。
「そんなに、実結に我慢させてさ。本当はもっと、幸せなことなはずなのに」
3回目の、優しい口づけ。
気づいたら、私の目からは涙が溢れていた。
「怖かったの……怖かった。痛くて、我慢したけど、それでも痛くて……」
誰にも言えなかった痛みが、ずっと見てみぬフリしてた痛みが、ジクジクと主張し始める。
彼女は、私が繰り返す「怖い」と「痛い」にひたすら頷いた。
強く抱きしめて、赤ん坊をあやすみたいに 背中をトントンと叩いてくれる。
「私とも、怖い?」
いっちゃんは、やわらかい笑顔を見せてくれる。
「ちょっと、だけ……。でも、でも、いっちゃんは、優しくしてくれる?」
「うん、そうできるようにがんばるよ」
大切にされたい。優しくされたい。愛されたい。
ただ、ずっと願っていたのは、それだけだったのかもしれない。
翔太のときも、千尋のときも。
「大丈夫だよ」
彼女は、私の耳元で囁いた。
*
「実結、起きて」
「ん……」
「実結、そろそろシャワー浴びよ」
「ん~」
寝起きの悪い私を、いつもいっちゃんは笑う。
何回呼んでも起きないらしく、ほっぺをつねったり くすぐったり キスしてみたりするんだそうな。
「実結が一番起きやすいのは、おっぱいを揉んであげたときだね」
私はよく、からかわれる。
でもこの時は、ずっと名前を呼び続けてくれていた。
「実結」
大好きな声が、ずっと耳元で私を呼んでいる。
少しずつ意識がハッキリして、急に寝る前の出来事を思い出すと、パッチリと目が覚めた。
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