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1.恋愛初心者
24.彼女
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■■■
「そんなこと、どうでもいい」
クラスがざわめくなか、彼女は冷たい目を向けて、そう言い放った。
その一言でみんなの空気が一瞬にして変わった。
みんなが口々に「そ、そうだね」と言って、熱は一気に冷めていった。
みんなは怖がったけど、私の心は撃ち抜かれて、それから彼女のことが気になって気になって仕方なかった。
今日も千陽が鬱陶しいくらいにくっついてくる。
中学のとき、千陽はいじめられていた。
無駄に可愛い容姿と振る舞いで、学年中の男子の心を射止めたせいだ。
そこで「私のことを好きってことにすればいいんじゃない?」と言ってあげたら、千陽のいじめはパタリと止んだのだ。
中学のときから私は女子にモテていたし、隠れ蓑にするには私はちょうどよかった。
でもそれからというもの、千陽が抱きついてきたり、無駄に距離を近くしてくるから、付き合っているんじゃないかとすら噂されて、正直迷惑だった。
女子同士だからって、いじめられることはない。
今どき、同性愛を否定する人のほうがマイノリティだと思う。
でもやっぱり、みんなそういうことに興味津々で、男女間の噂よりも、同性間の噂のほうが早く広まった。
異性愛でも同性愛でも関係なく共通して行われるのは“からかい”だ。
私も何度も男子に妬まれてか、からかわれたことがある。
そのたびに惚れさせて対処してきた。
ちょっとギャップを見せて、少し攻めれば、大抵のガキは落ちる。
正直、めんどくさい。
でも問題を起こさず事を収めるには、1番手っ取り早かった。
変に反論したり無視したりすれば後々厄介になる。そんなのは一度経験すれば十分だろう。
だから。
だからこそ、他のクラスの男子が、男同士でキスしていたという噂が流れたとき。
そして仕方なく彼が同性愛者だとカミングアウトしたとき。
それで学年中で…当然うちのクラスでも、話題になって、みんなが盛り上がっていたとき。
彼女、空井 穂が「そんなこと、どうでもいい」と言い放ったのは、衝撃だった。
きっと彼女はずっとそうだったんだと思う。
でも4月でクラス替えがあって、彼女の性格を知っている人が少数派で、つい盛り上がったノリで誰かが彼女にも話題を振ったんだと思う。
思わず私は笑った。
そうだよね!どうでもいいよね!
他人の恋愛なんかどうでもいい。
異性愛だろうが同性愛だろうが、学校でキスしてようがなかろうが、どうでもいい!
その潔さに、私は落ちた。
空井節は掃除の時間にも炸裂した。
遊んでいたクラスメイトが叱られる。
誰かが“空井先生”と言っていて、つい笑ってしまう。
でもきっと、彼女はそんなんじゃない。
ずっと彼女を見ていた。
ずっとって言っても、私は寝てる時間のほうが長いからなんとも言えないけど。
でも、ずっと見ていた。
彼女は厳しく言った後に、毎回後悔の色を滲ませていた。
きっと正義感が強くて、正しいことを言わずにはいられなくて、でもすごく優しい。
大人が子供を指導するような感じではない。ただ、自分が正しいと思うことを実行しているんだと思う。
気づけば、彼女は1人きりで掃除をするようになっていた。
私はいつも寝ていて、彼女は一生懸命起こそうとしてくれる。
でも夜眠れない私は眠くて眠くて仕方ない。
今しか寝られる時間がないのだからそっとしておいてくれ…と思ってしまう。
恋は眠気に勝てないのだ。
それでも彼女は諦めない。
机をガタガタ音を立てながら運んでいたときは、何事かと少し苛立った。
強風で目が覚めたときには、教室中に葉っぱやらゴミやらが散らばっていて驚いた。
腕のなかで彼女を眺めていたら、どうやら私を起こそうとして、わざわざ窓を全開にしたことがわかった。
「これでも起きないの」と項垂れていたから。
強風に吹かれて長い綺麗な髪がボサボサになり、「なんでこんなことになるの!?」と、2度目の掃除をしていたから、私は笑いを堪えるのに必死だった。
本末転倒じゃん。
おかげで起きるタイミングがいつもより遅くなった。当然、帰るのも遅くなった。
「そんなこと、どうでもいい」
クラスがざわめくなか、彼女は冷たい目を向けて、そう言い放った。
その一言でみんなの空気が一瞬にして変わった。
みんなが口々に「そ、そうだね」と言って、熱は一気に冷めていった。
みんなは怖がったけど、私の心は撃ち抜かれて、それから彼女のことが気になって気になって仕方なかった。
今日も千陽が鬱陶しいくらいにくっついてくる。
中学のとき、千陽はいじめられていた。
無駄に可愛い容姿と振る舞いで、学年中の男子の心を射止めたせいだ。
そこで「私のことを好きってことにすればいいんじゃない?」と言ってあげたら、千陽のいじめはパタリと止んだのだ。
中学のときから私は女子にモテていたし、隠れ蓑にするには私はちょうどよかった。
でもそれからというもの、千陽が抱きついてきたり、無駄に距離を近くしてくるから、付き合っているんじゃないかとすら噂されて、正直迷惑だった。
女子同士だからって、いじめられることはない。
今どき、同性愛を否定する人のほうがマイノリティだと思う。
でもやっぱり、みんなそういうことに興味津々で、男女間の噂よりも、同性間の噂のほうが早く広まった。
異性愛でも同性愛でも関係なく共通して行われるのは“からかい”だ。
私も何度も男子に妬まれてか、からかわれたことがある。
そのたびに惚れさせて対処してきた。
ちょっとギャップを見せて、少し攻めれば、大抵のガキは落ちる。
正直、めんどくさい。
でも問題を起こさず事を収めるには、1番手っ取り早かった。
変に反論したり無視したりすれば後々厄介になる。そんなのは一度経験すれば十分だろう。
だから。
だからこそ、他のクラスの男子が、男同士でキスしていたという噂が流れたとき。
そして仕方なく彼が同性愛者だとカミングアウトしたとき。
それで学年中で…当然うちのクラスでも、話題になって、みんなが盛り上がっていたとき。
彼女、空井 穂が「そんなこと、どうでもいい」と言い放ったのは、衝撃だった。
きっと彼女はずっとそうだったんだと思う。
でも4月でクラス替えがあって、彼女の性格を知っている人が少数派で、つい盛り上がったノリで誰かが彼女にも話題を振ったんだと思う。
思わず私は笑った。
そうだよね!どうでもいいよね!
他人の恋愛なんかどうでもいい。
異性愛だろうが同性愛だろうが、学校でキスしてようがなかろうが、どうでもいい!
その潔さに、私は落ちた。
空井節は掃除の時間にも炸裂した。
遊んでいたクラスメイトが叱られる。
誰かが“空井先生”と言っていて、つい笑ってしまう。
でもきっと、彼女はそんなんじゃない。
ずっと彼女を見ていた。
ずっとって言っても、私は寝てる時間のほうが長いからなんとも言えないけど。
でも、ずっと見ていた。
彼女は厳しく言った後に、毎回後悔の色を滲ませていた。
きっと正義感が強くて、正しいことを言わずにはいられなくて、でもすごく優しい。
大人が子供を指導するような感じではない。ただ、自分が正しいと思うことを実行しているんだと思う。
気づけば、彼女は1人きりで掃除をするようになっていた。
私はいつも寝ていて、彼女は一生懸命起こそうとしてくれる。
でも夜眠れない私は眠くて眠くて仕方ない。
今しか寝られる時間がないのだからそっとしておいてくれ…と思ってしまう。
恋は眠気に勝てないのだ。
それでも彼女は諦めない。
机をガタガタ音を立てながら運んでいたときは、何事かと少し苛立った。
強風で目が覚めたときには、教室中に葉っぱやらゴミやらが散らばっていて驚いた。
腕のなかで彼女を眺めていたら、どうやら私を起こそうとして、わざわざ窓を全開にしたことがわかった。
「これでも起きないの」と項垂れていたから。
強風に吹かれて長い綺麗な髪がボサボサになり、「なんでこんなことになるの!?」と、2度目の掃除をしていたから、私は笑いを堪えるのに必死だった。
本末転倒じゃん。
おかげで起きるタイミングがいつもより遅くなった。当然、帰るのも遅くなった。
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