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1.恋愛初心者
33.靄
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「先輩」
彼女は日住君の後ろ姿を見ながら言う。
「私、日住君が好きなんです」
「え!?」
突然の告白に驚愕する。
「日住君とは中学も一緒で、あのときはほとんど話したこともなかったんですけど。高校生になって、日住君が生徒会に入るって言うから私も入ったし、日住君に好きになってもらえるように努力もしました」
「そうなんだ」
「私、普段は眼鏡をかけてるんです。本当はコンタクトにしたいんですけど、どうしても怖くて目に入れられなくて」
目つきの悪さはそのせいだったことを今知った。…よかった、睨まれてるわけじゃなかったんだ。
私は視力が良くて、眼鏡やコンタクトの大変さはあまりよくわからない。
「中学のときまではずっと眼鏡をかけていて、いつもオドオドしていて、みんなにいろんなことを押し付けられるのもしょっちゅうでした。ヘラヘラ笑って、本当は嫌なのに“いいよ”って言って」
私が見ている生徒会での彼女の姿は、先輩にも臆せずハッキリ意見を言ってテキパキと仕事をこなすところだ。
「今の姿からは全然想像つかないよ…金井さん、がんばったんだね」
金井さんがゆっくりこちらを向き、目が見開かれる。
「先輩」
「なに?」
「日住君に好きな人がいるって知っていますか?」
「ん?…ああ、聞いたよ」
彼女の目が細くなる。
一瞬、また睨まれてるのかと勘違いしてしまいそうになったけど、そうじゃないのだと思い直す。
「私、その人に近づけるようにがんばったんです」
「え、日住君の好きな人知ってるの?」
金井さんが視線を日住君に戻す。
日住君は、どこまでもマイペースな生徒会長に振り回されているようだった。
「見てればわかりますよ」
「…そっか。金井さん、同じクラスだもんね」
金井さんが「ハァ」とため息をつく。
“オドオドしてた”なんて全く想像ができないくらい、やっぱり圧がすごい。
「でも、ダメでした」
まっすぐ私の目を見て、彼女は言う。
「その人みたいには、なれませんでした」
「まあ、全く同じ人になるなんて、土台無理な話だしね」
「…そうですね」
彼女は俯いて、憂いをおびた目をする。
私はまた言葉がキツくなってしまったかもしれない…と、内省する。
「だから、先輩」
湿った生ぬるい風が吹いて、木を揺らす。
「私、先輩が…あの、両角先輩とやらに恋をしているなら、全力で応援することにしたんです」
“とやら”って…。内心苦笑する。
しかも“だから”は一体どこに繋がってるの?
日住君との恋が叶いそうにないから、私の恋を応援するってこと?…ちょっと理解が追いつかない。
彼女はお皿に乗っていたものを食べ終えて、芝生に置く。
四つん這いになるように、座りながら両手を地面につけて、私に体を向けた。
「それとも先輩は両角先輩には興味はなくて、一方的に好かれているだけ?もしくは、2人は単純に友達として仲が良いだけなのでしょうか?恋の悩みというのは…他の人とのことについて?」
質問攻めされて、私の頭はパンクしそうだ。
「私、なんでもいいですけど…先輩が日住君以外のことで悩んでいるなら、話くらいなら、聞いてもいいですよ」
彼女は思案するように目を伏せて「いや」と小さく呟く。
「むしろ私が聞きたいです、先輩の恋話」
「…なんか、私って本当に知らないことばかりだね」
「え?」
「金井さんって、私と同じで、そういうのに興味がないと思ってた。でも、ずっと日住君が好きだったんでしょ?全然わからなかった」
彼女は体勢を戻して、体育座りする。
彼女は黒のジャンパースカートに青ストライプの薄手のシャツを羽織っている。
スカートは足首丈まであるけど、体育座りする姿に少し不安になる。…見えたりしないよね?なんて。
私はデニムにミント色のTシャツだけ。とにかく動きやすさを優先した自分と比較すると、彼女が極力動きやすくも可愛らしさを出せる服装にしてきてるのがわかる。
「青春だなあ」なんて呟いたら、キッと睨まれた。
これは、絶対に睨んでる。
「それで、いい加減答えてくださいよ」
「ん?」
「とぼけないでください。私、体育祭のときからずっと同じ質問をしているんですけど」
うっ…と、つい顔を引きつらせる。
彼女は日住君の後ろ姿を見ながら言う。
「私、日住君が好きなんです」
「え!?」
突然の告白に驚愕する。
「日住君とは中学も一緒で、あのときはほとんど話したこともなかったんですけど。高校生になって、日住君が生徒会に入るって言うから私も入ったし、日住君に好きになってもらえるように努力もしました」
「そうなんだ」
「私、普段は眼鏡をかけてるんです。本当はコンタクトにしたいんですけど、どうしても怖くて目に入れられなくて」
目つきの悪さはそのせいだったことを今知った。…よかった、睨まれてるわけじゃなかったんだ。
私は視力が良くて、眼鏡やコンタクトの大変さはあまりよくわからない。
「中学のときまではずっと眼鏡をかけていて、いつもオドオドしていて、みんなにいろんなことを押し付けられるのもしょっちゅうでした。ヘラヘラ笑って、本当は嫌なのに“いいよ”って言って」
私が見ている生徒会での彼女の姿は、先輩にも臆せずハッキリ意見を言ってテキパキと仕事をこなすところだ。
「今の姿からは全然想像つかないよ…金井さん、がんばったんだね」
金井さんがゆっくりこちらを向き、目が見開かれる。
「先輩」
「なに?」
「日住君に好きな人がいるって知っていますか?」
「ん?…ああ、聞いたよ」
彼女の目が細くなる。
一瞬、また睨まれてるのかと勘違いしてしまいそうになったけど、そうじゃないのだと思い直す。
「私、その人に近づけるようにがんばったんです」
「え、日住君の好きな人知ってるの?」
金井さんが視線を日住君に戻す。
日住君は、どこまでもマイペースな生徒会長に振り回されているようだった。
「見てればわかりますよ」
「…そっか。金井さん、同じクラスだもんね」
金井さんが「ハァ」とため息をつく。
“オドオドしてた”なんて全く想像ができないくらい、やっぱり圧がすごい。
「でも、ダメでした」
まっすぐ私の目を見て、彼女は言う。
「その人みたいには、なれませんでした」
「まあ、全く同じ人になるなんて、土台無理な話だしね」
「…そうですね」
彼女は俯いて、憂いをおびた目をする。
私はまた言葉がキツくなってしまったかもしれない…と、内省する。
「だから、先輩」
湿った生ぬるい風が吹いて、木を揺らす。
「私、先輩が…あの、両角先輩とやらに恋をしているなら、全力で応援することにしたんです」
“とやら”って…。内心苦笑する。
しかも“だから”は一体どこに繋がってるの?
日住君との恋が叶いそうにないから、私の恋を応援するってこと?…ちょっと理解が追いつかない。
彼女はお皿に乗っていたものを食べ終えて、芝生に置く。
四つん這いになるように、座りながら両手を地面につけて、私に体を向けた。
「それとも先輩は両角先輩には興味はなくて、一方的に好かれているだけ?もしくは、2人は単純に友達として仲が良いだけなのでしょうか?恋の悩みというのは…他の人とのことについて?」
質問攻めされて、私の頭はパンクしそうだ。
「私、なんでもいいですけど…先輩が日住君以外のことで悩んでいるなら、話くらいなら、聞いてもいいですよ」
彼女は思案するように目を伏せて「いや」と小さく呟く。
「むしろ私が聞きたいです、先輩の恋話」
「…なんか、私って本当に知らないことばかりだね」
「え?」
「金井さんって、私と同じで、そういうのに興味がないと思ってた。でも、ずっと日住君が好きだったんでしょ?全然わからなかった」
彼女は体勢を戻して、体育座りする。
彼女は黒のジャンパースカートに青ストライプの薄手のシャツを羽織っている。
スカートは足首丈まであるけど、体育座りする姿に少し不安になる。…見えたりしないよね?なんて。
私はデニムにミント色のTシャツだけ。とにかく動きやすさを優先した自分と比較すると、彼女が極力動きやすくも可愛らしさを出せる服装にしてきてるのがわかる。
「青春だなあ」なんて呟いたら、キッと睨まれた。
これは、絶対に睨んでる。
「それで、いい加減答えてくださいよ」
「ん?」
「とぼけないでください。私、体育祭のときからずっと同じ質問をしているんですけど」
うっ…と、つい顔を引きつらせる。
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