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1.恋愛初心者
32.靄
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もう私が、当番の日以外に掃除をすることはない。
私が体育祭の準備で忙しくて、永那ちゃんがそう取り計らってくれたから。
だから私が永那ちゃんの寝顔を1人で眺める時間もなくなった。
永那ちゃんが起きている間はやっぱり私が割り込む隙がなくて、前に戻ったみたいな気分になる。
佐藤さんが言った言葉を思い出す。
“永那が誰とセックスしてもよかった。…なんでか、あたしを相手にしてくれない”
永那ちゃんがモテることはわかっていた。
初めてのキスがあんなに濃密なものになるとは思ってもみなかったけれど、力が抜けるほど、心地よかったのは確かだった。
だから、きっと経験豊富なんだろうなって、想像はしていた。
でも実際言葉にして聞くと、複雑な気持ちになる。
おはよう、好き、2人で話したい…その3つの言葉は欠かさず送られてくる。
私も、永那ちゃんが好き。…好きな、はず。
彼女の寝顔が好きで、彼女の笑顔も好きで、私がいたずらすると照れるところも好き。
まっすぐ「好き」と伝えてくれるところも、好き。
でも、佐藤さんの話を聞いて自信が揺らぐ。
私には決定的に“何か”あったわけじゃないから。
佐藤さんは、永那ちゃんに助けてもらったという、ある種絶対的な絆みたいなものがあるように思える。
でも、私は…ただなんとなく彼女を好きだと思っているような気がしている。
そんなのでいいのかな?って、不安になる。
この“好き”の気持ちを、揺らぎないものにしたい。
でも彼女と話せる時間はあまりに短くて、焦りが生まれる。
悶々と過ごしていたら、あっという間に土曜日がきた。
今日は体育祭の打ち上げ。
週が明けて月曜日になったら、期末テスト2週間前になる。1週間前には全ての部活動が休みになる。生徒会も例外ではない。
だから今日打ち上げをして、次の火曜日の生徒会で体育祭の反省点などを話し合って、夏休み前の活動は終了だ。
夏休みにも活動する予定だけど、去年と同じであれば2泊3日の合宿(もとい旅行)と2回ほどのボランティア活動だけで、他は何もない。
しかもこれはあくまで自由参加、自費参加なので、生徒会メンバー全員が参加するわけでもない。
今度の生徒会の集まりで、夏休みの予定についても話し合われるはず。
今日のバーベキューは、学校から20分ほど歩いたところにある公園で行う。
事前に予約しておけば設備も食事もその場で準備してもらえる、お手軽なバーベキュー。
生徒会の予算から出ているので、体育祭委員含めて、ほとんどの人が参加している。
生徒会長が取り仕切って、みんながワイワイと楽しそうに話している。
私は飲み物を持って、木陰に座った。
みんなが楽しむのを邪魔しないようにと、こうするのが癖になっている。
しばらくみんなの様子を眺めていると、日住君がお皿を手にして、こちらにやって来た。
「どうぞ」
紙皿にはお肉と焼きそばが乗っていた。
「ありがとう」
日住君が覗き込むように私を見る。
首を傾げると「先輩、ちょっと疲れてるんじゃないですか?」と聞かれた。
「そう…かな?わからないや」
「…珍しい」
日住君を見ると、口をポカーンと開けていた。
思わず笑ってしまう。
「あ、笑った」
彼は自分のお皿に乗っているお肉を食べる。
そうしたら、珍しく金井さんがそばに来た。
彼女もコップとお皿を手にしている。
「先輩、本当に大丈夫ですか?」
「え、なんで?」
「いや、先輩が疲れてるかわからないって答えるの、けっこう重症に思えて」
「恋の悩み…とかですか?」
金井さんが睨むようにこちらを見る。
しかも図星で、思わず肩をビクッとさせてしまう。
「やっぱり」
彼女がニヤリと笑う。
「日住君、私焼きおにぎりが食べたい」
「え?」
金井さんの唐突の要求に困惑する日住君。
「会長に言ってきてくれない?…焼きおにぎりは最後じゃなくて、今食べたいって。私じゃ、言っても耳に届かないみたいだから」
確かに金井さんの声は通るほうではないし、大きいか小さいかで言えば小さい。
生徒会長自身の声が大きいから、彼女の話が耳に入らない…というのは想像できる。
「わかった」
日住君が立ち上がって、盛り上がっている中心に向かう。
私が体育祭の準備で忙しくて、永那ちゃんがそう取り計らってくれたから。
だから私が永那ちゃんの寝顔を1人で眺める時間もなくなった。
永那ちゃんが起きている間はやっぱり私が割り込む隙がなくて、前に戻ったみたいな気分になる。
佐藤さんが言った言葉を思い出す。
“永那が誰とセックスしてもよかった。…なんでか、あたしを相手にしてくれない”
永那ちゃんがモテることはわかっていた。
初めてのキスがあんなに濃密なものになるとは思ってもみなかったけれど、力が抜けるほど、心地よかったのは確かだった。
だから、きっと経験豊富なんだろうなって、想像はしていた。
でも実際言葉にして聞くと、複雑な気持ちになる。
おはよう、好き、2人で話したい…その3つの言葉は欠かさず送られてくる。
私も、永那ちゃんが好き。…好きな、はず。
彼女の寝顔が好きで、彼女の笑顔も好きで、私がいたずらすると照れるところも好き。
まっすぐ「好き」と伝えてくれるところも、好き。
でも、佐藤さんの話を聞いて自信が揺らぐ。
私には決定的に“何か”あったわけじゃないから。
佐藤さんは、永那ちゃんに助けてもらったという、ある種絶対的な絆みたいなものがあるように思える。
でも、私は…ただなんとなく彼女を好きだと思っているような気がしている。
そんなのでいいのかな?って、不安になる。
この“好き”の気持ちを、揺らぎないものにしたい。
でも彼女と話せる時間はあまりに短くて、焦りが生まれる。
悶々と過ごしていたら、あっという間に土曜日がきた。
今日は体育祭の打ち上げ。
週が明けて月曜日になったら、期末テスト2週間前になる。1週間前には全ての部活動が休みになる。生徒会も例外ではない。
だから今日打ち上げをして、次の火曜日の生徒会で体育祭の反省点などを話し合って、夏休み前の活動は終了だ。
夏休みにも活動する予定だけど、去年と同じであれば2泊3日の合宿(もとい旅行)と2回ほどのボランティア活動だけで、他は何もない。
しかもこれはあくまで自由参加、自費参加なので、生徒会メンバー全員が参加するわけでもない。
今度の生徒会の集まりで、夏休みの予定についても話し合われるはず。
今日のバーベキューは、学校から20分ほど歩いたところにある公園で行う。
事前に予約しておけば設備も食事もその場で準備してもらえる、お手軽なバーベキュー。
生徒会の予算から出ているので、体育祭委員含めて、ほとんどの人が参加している。
生徒会長が取り仕切って、みんながワイワイと楽しそうに話している。
私は飲み物を持って、木陰に座った。
みんなが楽しむのを邪魔しないようにと、こうするのが癖になっている。
しばらくみんなの様子を眺めていると、日住君がお皿を手にして、こちらにやって来た。
「どうぞ」
紙皿にはお肉と焼きそばが乗っていた。
「ありがとう」
日住君が覗き込むように私を見る。
首を傾げると「先輩、ちょっと疲れてるんじゃないですか?」と聞かれた。
「そう…かな?わからないや」
「…珍しい」
日住君を見ると、口をポカーンと開けていた。
思わず笑ってしまう。
「あ、笑った」
彼は自分のお皿に乗っているお肉を食べる。
そうしたら、珍しく金井さんがそばに来た。
彼女もコップとお皿を手にしている。
「先輩、本当に大丈夫ですか?」
「え、なんで?」
「いや、先輩が疲れてるかわからないって答えるの、けっこう重症に思えて」
「恋の悩み…とかですか?」
金井さんが睨むようにこちらを見る。
しかも図星で、思わず肩をビクッとさせてしまう。
「やっぱり」
彼女がニヤリと笑う。
「日住君、私焼きおにぎりが食べたい」
「え?」
金井さんの唐突の要求に困惑する日住君。
「会長に言ってきてくれない?…焼きおにぎりは最後じゃなくて、今食べたいって。私じゃ、言っても耳に届かないみたいだから」
確かに金井さんの声は通るほうではないし、大きいか小さいかで言えば小さい。
生徒会長自身の声が大きいから、彼女の話が耳に入らない…というのは想像できる。
「わかった」
日住君が立ち上がって、盛り上がっている中心に向かう。
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