いたずらはため息と共に

常森 楽

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2.変化

57.初めて

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クローゼットからブラとショーツを取り出す。
さっきまで着ていたやつは洗濯機に入れた。
「穂の下着姿、めっちゃエロい」
「見ないでよ」
永那ちゃんが鼻の下を伸ばしているから、私はそそくさとワンピースを着た。
永那ちゃんは頬を膨らませた後、すぐに気を取り直して服を着た。
「永那ちゃんはブラトップなんだね」
「そうだよー、楽だからね」
…永那ちゃんらしい。
着替えた後、永那ちゃんがドライヤーをかけてくれた。
髪が乾き終える頃には1時近くになっていた。

私達は2人でキッチンに向かった。
(なんとか歩けるようになったけど、長時間立つのはけっこう辛いなあ)
そんなことを思いながら、冷蔵庫から野菜とソーセージ、卵を取り出す。
オムライスは鶏肉が定番かもしれないけど、我が家ではソーセージだ。
ご飯は12時に炊けるようにセットしていた。
いつもは洗い物が面倒でフライパン1つで済ませるのだけれど、今日は疲れているから2つ使うことにした。
永那ちゃんに卵を担当してもらう。
「オムライスなんて作ったことない」と怖がっていたけど、やり方を教えてあげると「なんだ、簡単じゃん」と鼻の穴を膨らませていた。
最初はふわとろの卵にしてあげるつもりだったけど、ぺたんこの簡単なものに変更した。
私が野菜を切り終えて炒め始めた頃に、永那ちゃんの役目は終了した。

「座ってていいよ」と声をかけたけど、永那ちゃんはずっと私のそばにいた。
お皿によそって、リビングのローテーブルまで持っていく。
ダイニングテーブルで食べても良かったのだけど、永那ちゃんが床に座りたいと言った。
ケチャップをかけて、2人並んで食べた。
「うっまー!」
子供みたいに唇にケチャップをつけているから、指で拭ってあげる。
彼女が少し頬をピンク色にして、嬉しそうに笑う。
「いいなあ」
「なにが?」
「穂と一緒に住めたら、毎日こんな美味しいご飯が食べられるんだね」
トクンと、胸が鳴った。
「…そんな…大袈裟だよ」
照れて俯くと、彼女の肩がピタリと私にくっつく。
「私、今すごい幸せだなあ」
「そう?」
「うん!…穂は?」
「幸せだよ」
そう言って、笑い合う。

「そういえば、穂」
「ん?」
「今度の木曜で付き合って1ヶ月なんだよ?知ってた?」
私は思い出すように宙を見る。
「えー、覚えてないのー?」
「ああ、いや、体育祭の1週間前だよね。あれで生徒会に遅れたんだから覚えてますよ。後輩に叱られたんだからね?」
金井さんだ。
「私のせい?」
「そりゃあ…そうじゃない?」
「酷い!!!」
永那ちゃんは机に突っ伏して、顔を腕で隠してしまう。
「え…あ…ごめんね?…ごめんってば」
彼女の肩にそっと触れると腕のすき間からニヤニヤしてる永那ちゃんの顔が見える。
私はジトーっと彼女を睨む。
彼女はプッと笑って、顔を上げた。
そっと私の顎に手を添えて、唇が重なる。
すぐに離れて、永那ちゃんはご飯を食べる。

「木曜日さ、2人でどっか行かない?」
「え?学校終わりに?」
「うん。だってテスト期間中は学校早く終わるでしょ?」
「でも金曜もテストだよ?」
「そんなのどうでもいいよー」
「どうでもよくない」
「穂は真面目だなー」
「金曜の学校終わりじゃだめ?」
永那ちゃんの両眉が上がり、唇を尖らせる。
「付き合って初めての記念日なのに」
…そう言われると、どうすればいいかわからなくなる。
帰りに少しカフェに寄るくらいならいいのかな?
でもせっかくの記念日なら、デートっぽいことがしたいような気もする。
「あ!…ねえ、穂?」
上目遣いに見られる。
この瞳で見られるのが、どうも弱い。
「なに?」
恐る恐る聞き返す。
「あのさ、テスト期間中、穂の家に寄ってから帰るってのは、だめかなあ?」
そう言われて、なぜか子宮が疼く。思わず「ハァ」とため息をつく。
私の反応を見て勘違いした彼女の顔が暗くなる。
「やっぱ迷惑だよね」
へへへと笑うけど、悲しさが混じっているのはすぐわかる。

「お母さんと誉に聞いてみるけど」
顔が、花が咲いたみたいにキラキラする。
「もし良いって言われても、約束してくれなきゃだめ」
「なに?」
「まず、絶対エッチなことはだめ!」
彼女の唇に人差し指をつける。
「キスも?」
「…舌を入れるのはだめ」
彼女がニコッと笑って頷く。
「あと、勉強をちゃんとやる」
大きく頷いて、彼女のサラサラした髪が上下に揺れる。
「…お母さんと誉がだめって言ったら無理だからね」
彼女の目が大きくなる。
「それだけ?」
「ん?」
「約束」
「んー…じゃあ、私の言うことを聞くこと」
「わかった!楽しみになってきたー!」
永那ちゃんがカッカッカッとご飯をかき込む。
「よく噛んで」
私が笑うと「はーい」と、口をモゴモゴさせながら言う。
「期待しすぎないでね」
「はーい」
それでも彼女の瞳はキラキラ輝いていた。
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