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2.変化
74.王子様
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ローテーブルに3人で並ぶ。
やっぱり少し狭い。
永那ちゃんが真ん中に座って、私が玄関側、佐藤さんが窓側に座る。
気まずい中お昼を食べて、勉強を始めた。
勉強を開始して30分で永那ちゃんは船を漕ぎ始め、1時間で完全に突っ伏して寝てしまった。
スゥスゥと寝息を立てている。
永那ちゃんが倒れたことによって、佐藤さんの横顔がよく見えるようになった。
彼女もチラリと私を見る。
目が合って、私は苦笑した。
彼女はそれも無視して、机に視線を戻した。
「あたしと永那、毎回テスト期間中は2人で過ごしてたんだよね」
「そう、なんだ」
「今回は空井さんの家に行くって言うからビックリしちゃった」
私は「アハハ」と苦笑する。
寝ている永那ちゃんを少し睨む。
(なんで誘ってくれたときにそれを教えてくれないの!?)
「永那、勉強しないで毎日寝るから、勉強会なんて意味ないと思うんだけど」
佐藤さんの言い方に物凄く棘を感じる。
すごく敵対心を持たれているんだなあ…。
まあ、私も人のことは言えないけれど。
「…いつもは、どこで過ごしてたの?」
佐藤さんが私をチラリと見る。
何かを探るような視線。
負けじと目をそらさずにいると、彼女がそらした。
「学校が多かったかな。…居残る人が多いときは、公園」
永那ちゃんの家はともかく、佐藤さんの家に2人で行くこともなかったことが新鮮だ。
「公園でも、え…両角さん、寝てるの?」
佐藤さんがシャープペンを机に置く。
私の部屋のほうを眺めながら、話し始める。
「うん。ずっと寝てる。…なんでそんなに眠いのか聞いたことがあったけど、“夜眠れないから”としか答えてくれなかった」
「そうなんだ。…公園で寝たら風邪引いちゃいそう」
私が笑うと、佐藤さんが私を見た。
「べつに、隠さなくていいよ」
「え?」
落ち着いたその表情からは、私は何も読み取れない。
「“永那ちゃん”って呼んでるんでしょ?」
私はゴクリと唾を飲んで、視線を永那ちゃんに向けた。
「永那があなたのこと名前で呼んでいて、あなたに名字で呼ばせるわけないし」
佐藤さんがため息をつく。
「そっか。…わかった」
私のその一言で、しばらくの沈黙がおりた。
永那ちゃんの寝息と、紙を捲る音、遠くで聞こえるセミの鳴き声だけが部屋に響いた。
4時になって、誉が帰ってきた。
「たっだいまー!」
テテテと走ってくる音を立てながら「姉ちゃーん」と呼ぶ。
「ああ、ごめん。弟帰ってきた」
佐藤さんに言うと、彼女は頷いた。
私は立ち上がって、廊下のドアの前に立つ。
「誉、今日友達と勉強するって言ったでしょ?」
「知ってるよー、靴いっぱいあったもん」
誉はテーブルのほうを覗き見た。
「こんにちは」
佐藤さんが可愛らしい笑顔を作る。
誉の頬が少しピンク色になって、私は苦笑する。
「こ、こんにちは」
誉が背伸びして、私の耳元に口を近づける。
「姉ちゃん、誰あの人!めっちゃ美人!!」
私は「ハァ」とため息をついて、誉の頭を撫でた。
「佐藤さん、弟の誉です」
誉はニコニコしながら、佐藤さんのそばに行く。
「あれ?」
永那ちゃんを見て、立ち止まる。
「この人…」
ギクッとして、私は「ほら、誉。手洗っておいで」と慌てて言った。
誉は元気よく返事して、廊下の洗面台に向かう。
私も誉の後を追う。
「誉、部屋に入っててよ」
「えー?なんで?」
「集中できないから」
「いつも一緒に勉強してるじゃん」
誉が不貞腐れる。
「お姉ちゃん、誉が友達と遊んでるとき、一緒に遊ばないでしょ?…同じこと。あと30分くらいで帰ると思うし」
「わかったよ」
誉が大きくため息をついて、項垂れる。
…そんなに佐藤さんが気に入ったのか。美人って怖いなあ。
私は誉と一緒にリビングに戻って、誉を部屋に追いやる。
「部屋に行っちゃうんだ」
佐藤さんがどことなく不敵な笑みを浮かべている気がする。
私は曖昧に笑って誤魔化す。
「…永那ちゃんは4時半頃に帰るって言ってたけど、佐藤さんはいつもどんなふうに起こしてるの?」
佐藤さんは目を細めて、永那ちゃんを見る。
「あたしは起こさない」
「え?」
「起こしたこと、一度もないよ。“起こさないで”って言われてるから」
…となると、永那ちゃんは自力で起きて帰ってるってこと?
起きそうにない永那ちゃんを見て考える。
「逆に、空井さんは永那のこと、どう起こしてるの?」
「え!?…っと、普通に名前を呼んで」
恐らく彼女は、永那ちゃんが私の家に遊びに来たことがあると知っている。
誉の反応からも明らかになっちゃっただろうし、“起こしたことはない”とは言えない。
やっぱり少し狭い。
永那ちゃんが真ん中に座って、私が玄関側、佐藤さんが窓側に座る。
気まずい中お昼を食べて、勉強を始めた。
勉強を開始して30分で永那ちゃんは船を漕ぎ始め、1時間で完全に突っ伏して寝てしまった。
スゥスゥと寝息を立てている。
永那ちゃんが倒れたことによって、佐藤さんの横顔がよく見えるようになった。
彼女もチラリと私を見る。
目が合って、私は苦笑した。
彼女はそれも無視して、机に視線を戻した。
「あたしと永那、毎回テスト期間中は2人で過ごしてたんだよね」
「そう、なんだ」
「今回は空井さんの家に行くって言うからビックリしちゃった」
私は「アハハ」と苦笑する。
寝ている永那ちゃんを少し睨む。
(なんで誘ってくれたときにそれを教えてくれないの!?)
「永那、勉強しないで毎日寝るから、勉強会なんて意味ないと思うんだけど」
佐藤さんの言い方に物凄く棘を感じる。
すごく敵対心を持たれているんだなあ…。
まあ、私も人のことは言えないけれど。
「…いつもは、どこで過ごしてたの?」
佐藤さんが私をチラリと見る。
何かを探るような視線。
負けじと目をそらさずにいると、彼女がそらした。
「学校が多かったかな。…居残る人が多いときは、公園」
永那ちゃんの家はともかく、佐藤さんの家に2人で行くこともなかったことが新鮮だ。
「公園でも、え…両角さん、寝てるの?」
佐藤さんがシャープペンを机に置く。
私の部屋のほうを眺めながら、話し始める。
「うん。ずっと寝てる。…なんでそんなに眠いのか聞いたことがあったけど、“夜眠れないから”としか答えてくれなかった」
「そうなんだ。…公園で寝たら風邪引いちゃいそう」
私が笑うと、佐藤さんが私を見た。
「べつに、隠さなくていいよ」
「え?」
落ち着いたその表情からは、私は何も読み取れない。
「“永那ちゃん”って呼んでるんでしょ?」
私はゴクリと唾を飲んで、視線を永那ちゃんに向けた。
「永那があなたのこと名前で呼んでいて、あなたに名字で呼ばせるわけないし」
佐藤さんがため息をつく。
「そっか。…わかった」
私のその一言で、しばらくの沈黙がおりた。
永那ちゃんの寝息と、紙を捲る音、遠くで聞こえるセミの鳴き声だけが部屋に響いた。
4時になって、誉が帰ってきた。
「たっだいまー!」
テテテと走ってくる音を立てながら「姉ちゃーん」と呼ぶ。
「ああ、ごめん。弟帰ってきた」
佐藤さんに言うと、彼女は頷いた。
私は立ち上がって、廊下のドアの前に立つ。
「誉、今日友達と勉強するって言ったでしょ?」
「知ってるよー、靴いっぱいあったもん」
誉はテーブルのほうを覗き見た。
「こんにちは」
佐藤さんが可愛らしい笑顔を作る。
誉の頬が少しピンク色になって、私は苦笑する。
「こ、こんにちは」
誉が背伸びして、私の耳元に口を近づける。
「姉ちゃん、誰あの人!めっちゃ美人!!」
私は「ハァ」とため息をついて、誉の頭を撫でた。
「佐藤さん、弟の誉です」
誉はニコニコしながら、佐藤さんのそばに行く。
「あれ?」
永那ちゃんを見て、立ち止まる。
「この人…」
ギクッとして、私は「ほら、誉。手洗っておいで」と慌てて言った。
誉は元気よく返事して、廊下の洗面台に向かう。
私も誉の後を追う。
「誉、部屋に入っててよ」
「えー?なんで?」
「集中できないから」
「いつも一緒に勉強してるじゃん」
誉が不貞腐れる。
「お姉ちゃん、誉が友達と遊んでるとき、一緒に遊ばないでしょ?…同じこと。あと30分くらいで帰ると思うし」
「わかったよ」
誉が大きくため息をついて、項垂れる。
…そんなに佐藤さんが気に入ったのか。美人って怖いなあ。
私は誉と一緒にリビングに戻って、誉を部屋に追いやる。
「部屋に行っちゃうんだ」
佐藤さんがどことなく不敵な笑みを浮かべている気がする。
私は曖昧に笑って誤魔化す。
「…永那ちゃんは4時半頃に帰るって言ってたけど、佐藤さんはいつもどんなふうに起こしてるの?」
佐藤さんは目を細めて、永那ちゃんを見る。
「あたしは起こさない」
「え?」
「起こしたこと、一度もないよ。“起こさないで”って言われてるから」
…となると、永那ちゃんは自力で起きて帰ってるってこと?
起きそうにない永那ちゃんを見て考える。
「逆に、空井さんは永那のこと、どう起こしてるの?」
「え!?…っと、普通に名前を呼んで」
恐らく彼女は、永那ちゃんが私の家に遊びに来たことがあると知っている。
誉の反応からも明らかになっちゃっただろうし、“起こしたことはない”とは言えない。
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