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3.成長
124.噂
金井さんがジッと私を見る。
私は逃げるように、視線をそらした。
「あー、売店だ」
我ながら、わざとらしい。
…ちょっと待って。
私の脳みそが、そろそろ限界を迎えようとしている。
日住君の“綺麗です”発言。
(なんか、変だなあ)って思ったよ?
今日は珍しく苛ついていて、それも(どうしたんだろう?)って、思ったよ?
その前にも、清掃活動の日、一緒にお祭りに行こうと誘われたり…。
今まで一度も、プライベートで遊ぼうなんて言われたこともなかった。
もっと遡れば、体育祭の日…日住君に手を握られた。
永那ちゃんが“後輩君に喧嘩売られてるのかと思った”と言っていた。
金井さんは、日住君の好きな人みたいになれるように努力したと言っていた。
日住君の好きな人みたいになれないから、私の恋を応援すると。
それで…?
“やっぱり、私は先輩みたいになれませんね”
…私みたいに?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
待って、待って。
だって、日住君とは中学のときからの仲で、あの頃から、私達はただ生徒会の日に一緒に帰るだけの仲だった。
プライベートで一緒に遊んだこともなかったし、誘われたこともなかったし、もちろん日住君から“好き”と言われたこともない。
それがどうして急に?
カフェで初めて恋愛相談したとき、彼は“好きな人がいる”と言った。
あのときから?
…それとも、もっと前?
なんで急に?
「先輩、このお饅頭おいしそうですよ」
そう声をかけられて、現実に引き戻される。
「え、ああ、本当だ」
私はお饅頭の箱を撫でる。
ただ撫でるだけで、頭は真っ白で、何も考えられない。
「私、早く日住君には当たって砕けてほしいんですよね」
私が金井さんを見ると、彼女は薄っすら笑みを浮かべていた。
「そうしたら、私が慰めてあげられるじゃないですか?…諦めたフリして強がって、いつまでも諦めきれないままでいられても困るというか」
私は彼女の意図をようやく理解する。
いつだったか“幸せになってください”と言われたけれど、あれは、日住君に私を諦めさせるため?
…こ、怖い。
「ようやくチャンスが巡ってきたんです、私にも」
昔読んだ童話に出てきたメデューサ。
それと目が合うと、石にされてしまう。
あくまでフィクションで、ファンタジーで、存在しない者。
でも、今私は石にされたような気分だ。
固まって、動けない。
「先輩が、日住君以外の人に恋をしてよかった」
棚を挟んで向こう側にいるのに、視線だけはずっとそらせない。
「いつまでもいつまでも、ビビってなんのアプローチもせず、ただ好きな人を見ているだけ。…そんな状態じゃ、私に勝ち目なんて少しもないじゃないですか?」
小さな売店の中を、金井さんはゆっくり見て回る。
彼女がフフッと笑う。
「日住君って優しいし、かっこいいし、たいていの女子は惚れると思うんですよ。私もたかだかその女のうちの1人。…でもみんなとは違う。みんなは猪突猛進に彼に告白するけど、私は彼と本当に恋仲になりたいからこそ、ジッとチャンスが来るのを待ち続けた」
一周して、彼女は私の元に戻ってくる。
「先輩が恋をして、その人と両思いになって、幸せそうにして、今更焦ってアプローチして、何になるんでしょうね?…しかも相手は女性。どこからどう見ても、圧倒的な敗北じゃないですか?」
金井さんの笑顔が、怖い。
でも、心に芽生えた違和感を、私は見逃せない。
「私はべつに、女性だから好きになったわけじゃない」
金井さんの笑顔がスッと消えて、真顔になる。
「はい。だから、先輩はそういう人なのに…1番チャンスがあったのに、彼はそれを活かさなかった。そっちのほうが、惨めです」
彼女の容赦ない言葉に、なぜかズキリと胸が痛んだ。
「“先輩の恋愛対象が女性”というのが彼を好きにならない理由なら、わりと簡単に諦めもつくでしょう。でも彼が諦められないのは、そうじゃないとわかっているから。…自分も必死にアプローチすれば、先輩は自分を見てくれるかもしれない。そんな淡い期待が残っているから。自分には誰よりもチャンスがあったのに、それを活かせなかったと後悔しているから、いつまで経っても諦めがつかない」
彼女の顔が近づいて、私は一歩後ずさる。
「だから先輩、早く彼の抱いている淡い期待を、粉々にしてくれません?…じゃないと私、彼に告白できないんです」
私は逃げるように、視線をそらした。
「あー、売店だ」
我ながら、わざとらしい。
…ちょっと待って。
私の脳みそが、そろそろ限界を迎えようとしている。
日住君の“綺麗です”発言。
(なんか、変だなあ)って思ったよ?
今日は珍しく苛ついていて、それも(どうしたんだろう?)って、思ったよ?
その前にも、清掃活動の日、一緒にお祭りに行こうと誘われたり…。
今まで一度も、プライベートで遊ぼうなんて言われたこともなかった。
もっと遡れば、体育祭の日…日住君に手を握られた。
永那ちゃんが“後輩君に喧嘩売られてるのかと思った”と言っていた。
金井さんは、日住君の好きな人みたいになれるように努力したと言っていた。
日住君の好きな人みたいになれないから、私の恋を応援すると。
それで…?
“やっぱり、私は先輩みたいになれませんね”
…私みたいに?
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待って、待って。
だって、日住君とは中学のときからの仲で、あの頃から、私達はただ生徒会の日に一緒に帰るだけの仲だった。
プライベートで一緒に遊んだこともなかったし、誘われたこともなかったし、もちろん日住君から“好き”と言われたこともない。
それがどうして急に?
カフェで初めて恋愛相談したとき、彼は“好きな人がいる”と言った。
あのときから?
…それとも、もっと前?
なんで急に?
「先輩、このお饅頭おいしそうですよ」
そう声をかけられて、現実に引き戻される。
「え、ああ、本当だ」
私はお饅頭の箱を撫でる。
ただ撫でるだけで、頭は真っ白で、何も考えられない。
「私、早く日住君には当たって砕けてほしいんですよね」
私が金井さんを見ると、彼女は薄っすら笑みを浮かべていた。
「そうしたら、私が慰めてあげられるじゃないですか?…諦めたフリして強がって、いつまでも諦めきれないままでいられても困るというか」
私は彼女の意図をようやく理解する。
いつだったか“幸せになってください”と言われたけれど、あれは、日住君に私を諦めさせるため?
…こ、怖い。
「ようやくチャンスが巡ってきたんです、私にも」
昔読んだ童話に出てきたメデューサ。
それと目が合うと、石にされてしまう。
あくまでフィクションで、ファンタジーで、存在しない者。
でも、今私は石にされたような気分だ。
固まって、動けない。
「先輩が、日住君以外の人に恋をしてよかった」
棚を挟んで向こう側にいるのに、視線だけはずっとそらせない。
「いつまでもいつまでも、ビビってなんのアプローチもせず、ただ好きな人を見ているだけ。…そんな状態じゃ、私に勝ち目なんて少しもないじゃないですか?」
小さな売店の中を、金井さんはゆっくり見て回る。
彼女がフフッと笑う。
「日住君って優しいし、かっこいいし、たいていの女子は惚れると思うんですよ。私もたかだかその女のうちの1人。…でもみんなとは違う。みんなは猪突猛進に彼に告白するけど、私は彼と本当に恋仲になりたいからこそ、ジッとチャンスが来るのを待ち続けた」
一周して、彼女は私の元に戻ってくる。
「先輩が恋をして、その人と両思いになって、幸せそうにして、今更焦ってアプローチして、何になるんでしょうね?…しかも相手は女性。どこからどう見ても、圧倒的な敗北じゃないですか?」
金井さんの笑顔が、怖い。
でも、心に芽生えた違和感を、私は見逃せない。
「私はべつに、女性だから好きになったわけじゃない」
金井さんの笑顔がスッと消えて、真顔になる。
「はい。だから、先輩はそういう人なのに…1番チャンスがあったのに、彼はそれを活かさなかった。そっちのほうが、惨めです」
彼女の容赦ない言葉に、なぜかズキリと胸が痛んだ。
「“先輩の恋愛対象が女性”というのが彼を好きにならない理由なら、わりと簡単に諦めもつくでしょう。でも彼が諦められないのは、そうじゃないとわかっているから。…自分も必死にアプローチすれば、先輩は自分を見てくれるかもしれない。そんな淡い期待が残っているから。自分には誰よりもチャンスがあったのに、それを活かせなかったと後悔しているから、いつまで経っても諦めがつかない」
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