いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
146 / 595
3.成長

145.海とか祭りとか

しおりを挟む
永那の門限があるから、あたしたちは早々に帰る。
さすがに永那も、帰りは更衣室を借りていた。
軽くシャワーを浴びて、服を着る。
あたし達が出る頃には、弟は準備を終えていて、立って待っていた。
「誉、お待たせ」
優里が弟に抱きついている。
「そんな待ってないよ」
重そうにしながら、受け止めようとしている。
「行くかー!」
永那が空井さんの手を掴む。
空井さんもそれを受け入れて、恋人繋ぎをする。
やっぱりまだ、あたしは受け入れられない。
胸がチクリと痛んで、俯く。
それでも、みんなの後ろを歩く。

きっと、永那から離れる選択肢だってある。
きっと、まだ諦めないで永那を奪う選択肢だってある。
もしかしたら2人が別れて、永那が“やっぱり千陽がいい”って言ってくれるときがくるかもしれない。
最後のはわからないけど、少なくともあたしは、最初の2つを選択する気は、ない。
永那は変わらずあたしの王子様だし、でも、彼女にとってあたしはただの友達。
誰よりも永那を見てきたから、奪えるわけがないと、わかってる。
こんなあたしを、空井さんは好きだという。
あたしだったら、あたしを好きになんてなれない。
付き合ってもないのに永那の周りをずっとチョロチョロして、恋人みたいにして…。
浮かれてはなかったと思うけど、あたしは自分でも気付かないうちに彼女面してたのかな。
永那に守ってもらって、守ってもらい続けて、それに甘えて…そんなあたしを、永那が好きになるはずがなかった。
…永那が空井さんを好きだと言うのならなおさら、あたしを好きになるはずがない。
ただ、現実を知る。
まだ受け止められたわけじゃない。
ただ、知っただけ。

帰り際、弟に連絡先を聞かれた。
仕方ないから教えると、永那が嬉しそうにしていた。

日曜日、行くのをやめようと思っていたレズビアンのイベントに参加した。
とある映画好きのオフ会も兼ねていて、わりとこじんまりしていた。
雰囲気も今までで1番落ち着いていて、カフェでの集まりだった。
声をかけてくれた人がよく話す人で、あたしは自分から話すのが苦手だから、居心地が良かった。
連絡先を交換して、また会おうという話にもなった。
…しばらく、永那を好きなままでいるとは思うけど…いつか、誰か、他の人を好きになれたら…とも思う。

月曜日、永那と待ち合わせて空井さんの家に向かう。
初めて見る眼鏡姿に、思わずしゃがみこんだ。
空井さんの家で寝るから、コンタクトじゃなくて眼鏡にしていると…。
羨ましい、彼女は永那のこんな姿を見ていたなんて。
「ねえ」
「ん?」
「あたし、空井さんとのことを邪魔するつもりはないけど…あたしがいるところで、セックスとかしないで。さすがに、耐えられない」
永那の耳が赤くなる。
「わ、わかってるよ」
「前にしてたじゃん」
「いや…まあ、あれは、イライラしてたから。もう、しないから」
「あっそ」
最初に空井さんの家に行った日、すごく緊張したなあ。
でも、もういつの間にか慣れて、慣れたのを通り越して居心地の良さを感じている。
初めて行ったときは永那が騙されてるんじゃないかとか思って、いろいろ疑って空井さんを見ていた。
強引に空井さんのベッドに寝転がって、永那を誘って、でも、突き飛ばされて…。
“傷つくのも承知で”とか思っておきながら、結局傷ついて耐えられなくなって、優里を頼った。

去年、永那があたしの部屋に来たとき、あたしはかなり勇気を出して永那を誘った。
露出の多い服を着て、胸元を強調させて、ベッドに寝転がる。
足をバタバタさせてみたりして、ショーツがチラ見えするような格好をしたり。
永那はチラッと見たけど、すぐに目をそらして、座りながら目を閉じてしまった。
「ベッドで寝たら?」って言ってみたけど「いい」と断られた。
それなら…と、彼女の横に座って肩に頭を預けてみた。
無反応だから、腕に抱きついて、胸を押し付けた。
それでもスゥスゥ寝息を立てて寝るから、悲しくなった。
動画を見ながら永那が起きるのを待つ。
永那が起きたら、ベッドに座って足を少し開いて「永那、あたしはシてもいいけど?」って言ってみた。
でも永那は「なにを?…もう帰るよ?」と平然と言った。
自分で言って恥ずかしくて、あの後何度も思い出して、転げまわった。

家につくと、弟がドアを開けた。
永那が当たり前のように家に入って、空井さんと楽しそうに話す。
「永那ちゃん、佐藤さんがいるからってはしゃいで起きてちゃだめだよ?ちゃんと寝てよ?」
「はーい」
…本当にちゃんと寝てるんだ。
てっきり毎日セックスしてるのかと思ったけど。
少しホッとする。
…でも、永那が寝たらあたし、どうすればいいの?
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...