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4.踏み込む
186.文化祭準備
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両肩から手が伸びてくる。
びっくりして振り向くと、千陽がいた。
後ろから抱きしめられて、彼女の胸のあたたかさが背中に押し付けられる。
「穂」
耳元で囁かれる。
「もし永那が他の女にいったら、あたしと一緒にいようね?」
そんな言い方をされても、本当に困る。
「あたし、永那のことは奪えないって諦めてるけど、穂は奪えるかも…って思ってる」
私も奪えません。
「大事な彼女を放って、他の女の黄色い声に鼻の下伸ばすなんて、信じられない」
彼女の顔が異常に近い。
私は少しも動いてはいけない気がして、目を閉じて、全神経を集中する。
「穂、好き」
奥歯を噛みしめる。
「おい」
ぬくもりが背中から消える。
「なにやってんだよ」
永那ちゃんが千陽の腕を掴んでいる。
「痛い」
「うっさい。離れろ」
2人が睨み合う。
「え、永那と千陽喧嘩?」「どした?」「永那ホントかっこいい」「痴話喧嘩?」
クラスの女子が周りに集まってくる。
「2人ともなにやってんのー」
優里ちゃんが割って入る。
「ほら、すぐ喧嘩しない!」
永那ちゃんがイライラしながらも、千陽の腕を掴む手を離した。
「穂?こいつの妄言に耳を貸してはいけないよ?」
永那ちゃんに両耳を塞がれる。
目の前に永那ちゃんの顔があって、見つめられて、鼓動がトクトクと速まっていく。
「千陽、マジでなにしたの?」「空井さんと仲良かったっけ?」
周りの人たちの笑い声が聞こえるけど、それは曇って聞こえてくる。
ただジッと永那ちゃんと見つめ合っていると、2人だけの時間みたいにも思えた。
顔の前で、パチンと手が叩かれる。
「こらこら、イチャイチャしない!」
優里ちゃんが言う。
そう言われて、急に恥ずかしくなって、顔が熱くなる。
「え、どゆこと?」と1人が言って、優里ちゃんが「あ、しまった…」という顔をする。
期末テスト期間中と夏休みのノリで言ったんだろうな。
永那ちゃんが立ち上がって「今、穂と付き合ってるからさ」と言い放った。
クラスがシンと静まり返る。
「マジで!?」
ドッとクラス中が湧く。
穴があったら入りたい。
「え、永那って千陽と付き合ってたんじゃないの?」「なんで空井さん?」「空井さんって恋愛するんだ…」「なんで付き合うことになったの?」「いつから?」
いろんな声が飛び交って、消えたくなる。
私は両手で顔を覆って、目をギュッと閉じた。
「これでみんな知ったからね?…千陽、変なことすんなよ?」
千陽は何も返事をしない。
ぷいとそっぽを向いてるところが想像できる。
チャイムが鳴っても、みんながコソコソ何か話しているのがわかって、授業に集中できなかった。
今までは恋愛話に興味がなくて、話題になっていても何も思わなかったけど、いざ当事者になると、“早くみんな忘れて”と心から願った。
休み時間、永那ちゃんが寝ているから、みんな私のところに来た。
話したこともない人からたくさん話しかけられて、逃げるようにトイレに行った。
1年生のトイレにひきこもらせてもらう。
…もう嫌だ。
っていうか、なんで永那ちゃん寝てるの!?
あんな暴露してすぐ寝るなんて、ひどいよ…。
…だんだんイライラしてきた。
“自ら宣伝するように言うのはやめよう”って言ったのに、なんであんな大声で、全員に…。
千陽のことはわかるけど、だからって、あんなふうに言って放置って…!
腕時計を見て、私はトイレから出る。
教室に戻ると、みんなの視線が突き刺さる。
席に座ると、前の席の子が振り向いた。
「空井、さ…ん…。ごめんなさい…」
彼女は何も話さずに、すぐに前を向いた。
不思議と脳みそは冷え切っていて、授業の内容もスラスラと入ってきた。
休み時間は本を読む。
優里ちゃんがそばに来て謝っていたけど「優里ちゃんは何も悪くないよ?」と言ったら、また謝って席に戻っていった。
授業が終わっても、永那ちゃんは起きなかった。
私はそのまま家に帰る。
千陽からの視線を感じたけれど、今、話したい気分にはなれなかった。
彼女からも何も話しかけてこなかったのは、彼女が私の気持ちを察してくれたからなのかは、わからない。
次の日、何度か誰かに話しかけられたけれど、その誰もが、結局何も話さないまま去っていく。
好都合にも思えた。
誰とも話したい気分にならない。
…それでも、生徒会はある。
一応、生徒会長候補になることを発表する日なのだから“しっかりしなくては”という気持ちに持っていく。
生徒会室の前で深呼吸して、ドアを開ける。
「おつかれさまです、空井先輩」
金井さんが言う。
「おつかれさま」
いつもの席に座る。
生徒会長は既に座っていて、彼を見ると腕組みしながら頷かれた。
全員が揃ったところで、生徒会長から次期生徒会長候補として、私の名前が呼ばれた。
「他に立候補する方がいるかもしれませんが、今回の文化祭では仮の生徒会長として、精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
そう挨拶して、拍手される。
次に副生徒会長の挨拶に移行した。
その後、文化祭についての話し合いが行われ、生徒会は6時過ぎに終わった。
「空井先輩」
日住君に声をかけられた。
少し顔を近づけられて「聞きましたよ…大丈夫ですか?」と聞かれる。
「なにが?」
「…両角先輩と空井先輩がお付き合いしてるって。すごい話題になってますね」
びっくりして振り向くと、千陽がいた。
後ろから抱きしめられて、彼女の胸のあたたかさが背中に押し付けられる。
「穂」
耳元で囁かれる。
「もし永那が他の女にいったら、あたしと一緒にいようね?」
そんな言い方をされても、本当に困る。
「あたし、永那のことは奪えないって諦めてるけど、穂は奪えるかも…って思ってる」
私も奪えません。
「大事な彼女を放って、他の女の黄色い声に鼻の下伸ばすなんて、信じられない」
彼女の顔が異常に近い。
私は少しも動いてはいけない気がして、目を閉じて、全神経を集中する。
「穂、好き」
奥歯を噛みしめる。
「おい」
ぬくもりが背中から消える。
「なにやってんだよ」
永那ちゃんが千陽の腕を掴んでいる。
「痛い」
「うっさい。離れろ」
2人が睨み合う。
「え、永那と千陽喧嘩?」「どした?」「永那ホントかっこいい」「痴話喧嘩?」
クラスの女子が周りに集まってくる。
「2人ともなにやってんのー」
優里ちゃんが割って入る。
「ほら、すぐ喧嘩しない!」
永那ちゃんがイライラしながらも、千陽の腕を掴む手を離した。
「穂?こいつの妄言に耳を貸してはいけないよ?」
永那ちゃんに両耳を塞がれる。
目の前に永那ちゃんの顔があって、見つめられて、鼓動がトクトクと速まっていく。
「千陽、マジでなにしたの?」「空井さんと仲良かったっけ?」
周りの人たちの笑い声が聞こえるけど、それは曇って聞こえてくる。
ただジッと永那ちゃんと見つめ合っていると、2人だけの時間みたいにも思えた。
顔の前で、パチンと手が叩かれる。
「こらこら、イチャイチャしない!」
優里ちゃんが言う。
そう言われて、急に恥ずかしくなって、顔が熱くなる。
「え、どゆこと?」と1人が言って、優里ちゃんが「あ、しまった…」という顔をする。
期末テスト期間中と夏休みのノリで言ったんだろうな。
永那ちゃんが立ち上がって「今、穂と付き合ってるからさ」と言い放った。
クラスがシンと静まり返る。
「マジで!?」
ドッとクラス中が湧く。
穴があったら入りたい。
「え、永那って千陽と付き合ってたんじゃないの?」「なんで空井さん?」「空井さんって恋愛するんだ…」「なんで付き合うことになったの?」「いつから?」
いろんな声が飛び交って、消えたくなる。
私は両手で顔を覆って、目をギュッと閉じた。
「これでみんな知ったからね?…千陽、変なことすんなよ?」
千陽は何も返事をしない。
ぷいとそっぽを向いてるところが想像できる。
チャイムが鳴っても、みんながコソコソ何か話しているのがわかって、授業に集中できなかった。
今までは恋愛話に興味がなくて、話題になっていても何も思わなかったけど、いざ当事者になると、“早くみんな忘れて”と心から願った。
休み時間、永那ちゃんが寝ているから、みんな私のところに来た。
話したこともない人からたくさん話しかけられて、逃げるようにトイレに行った。
1年生のトイレにひきこもらせてもらう。
…もう嫌だ。
っていうか、なんで永那ちゃん寝てるの!?
あんな暴露してすぐ寝るなんて、ひどいよ…。
…だんだんイライラしてきた。
“自ら宣伝するように言うのはやめよう”って言ったのに、なんであんな大声で、全員に…。
千陽のことはわかるけど、だからって、あんなふうに言って放置って…!
腕時計を見て、私はトイレから出る。
教室に戻ると、みんなの視線が突き刺さる。
席に座ると、前の席の子が振り向いた。
「空井、さ…ん…。ごめんなさい…」
彼女は何も話さずに、すぐに前を向いた。
不思議と脳みそは冷え切っていて、授業の内容もスラスラと入ってきた。
休み時間は本を読む。
優里ちゃんがそばに来て謝っていたけど「優里ちゃんは何も悪くないよ?」と言ったら、また謝って席に戻っていった。
授業が終わっても、永那ちゃんは起きなかった。
私はそのまま家に帰る。
千陽からの視線を感じたけれど、今、話したい気分にはなれなかった。
彼女からも何も話しかけてこなかったのは、彼女が私の気持ちを察してくれたからなのかは、わからない。
次の日、何度か誰かに話しかけられたけれど、その誰もが、結局何も話さないまま去っていく。
好都合にも思えた。
誰とも話したい気分にならない。
…それでも、生徒会はある。
一応、生徒会長候補になることを発表する日なのだから“しっかりしなくては”という気持ちに持っていく。
生徒会室の前で深呼吸して、ドアを開ける。
「おつかれさまです、空井先輩」
金井さんが言う。
「おつかれさま」
いつもの席に座る。
生徒会長は既に座っていて、彼を見ると腕組みしながら頷かれた。
全員が揃ったところで、生徒会長から次期生徒会長候補として、私の名前が呼ばれた。
「他に立候補する方がいるかもしれませんが、今回の文化祭では仮の生徒会長として、精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
そう挨拶して、拍手される。
次に副生徒会長の挨拶に移行した。
その後、文化祭についての話し合いが行われ、生徒会は6時過ぎに終わった。
「空井先輩」
日住君に声をかけられた。
少し顔を近づけられて「聞きましたよ…大丈夫ですか?」と聞かれる。
「なにが?」
「…両角先輩と空井先輩がお付き合いしてるって。すごい話題になってますね」
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