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4.踏み込む
187.文化祭準備
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眉頭にシワが寄って、ギリリと奥歯が鳴る。
人の噂がこんなにも早くに広まるとは。
大きくため息をつく。
「べつに、大丈夫だよ」
「でも」
「どうでもいいから、そんなこと。鬱陶しいだけで」
日住君の目が大きくなる。
「そうですか。さすが先輩です」
彼は苦笑する。
帰り支度をすると、日住君もついてくる。
「空井先輩」
呼び止められて、振り向く。
金井さんは日住君をチラリと見て、私に視線を戻す。
「少しお話、いいですか?」
すぐ、恋話だとわかって、私は首を横に振る。
歩き出そうとして「先輩!」と大きな声を出されて、思わず立ち止まる。
「先輩の話じゃないので、安心してください」
そう言われて、ハッとする。
自分の視野が狭くなっていた。
また鎧を作ろうとしていた。
フゥッと息を吐いて「わかった」と答えた。
3人でカフェに行った。
最初に日住君に恋愛相談をしたときの、カフェ。
「先輩、私達、恋人になりました」
金井さんと日住君が顔を見合わせてから、私を見て、微笑む。
「夏祭りの後、私から、告白しました」
「…そっか。…そっか!よかったね!」
「はい、ありがとうございます」
「まさか、金井が空井先輩に相談してるなんて知りませんでしたよ…」
日住君が照れたように笑う。
3人で話す時間に、癒やされた。
夏祭りが終わってから、学校が始まるまでの1週間、毎日会っていたという。
いろんなところに2人で行って楽しかった話をしてくれた。
2人と別れて、ため息をついた。
永那ちゃんは、部活もしていないのに後輩に広まるほどの人気者。
みんなが千陽と付き合っているのではないかと勘ぐっていたから、今まで何の問題も起きていなかった。
そのバランスが、崩れた。
まして相手が私で、良くも悪くも“生徒会長(副生徒会長)”という立場で、名前の知られている人間で、学校中の話題になるのは、考えてみれば当たり前に思えた。
その対策を、何も考えていなかった。
まさか永那ちゃんが自ら暴露するとは思ってもみなかったけど…それでも、遅かれ早かれバレていたかもしれない。
それを考えれば、何も対策を考えていなかった自分にも落ち度があるように思えた。
「穂」
マンションの前につくと、千陽が立っていた。
「穂…ごめんね」
千陽があまりに傷ついた顔をしているから、慌てる。
「ち、千陽…どうしたの?」
「あたしが、穂に抱きついたから…あんなことになって」
本当に、自分のことしか見えていなかった。
永那ちゃんはずっと寝ているし、起きても、みんなの質問を適当にはぐらかしていた。
その態度にイライラしていた。
千陽が、こんなに傷ついた顔をしていたなんて、全然見えていなかった。
「千陽は、悪くないよ」
「でも、穂が傷ついてる」
頬を包まれる。
そっと口付けされて、涙が零れた。
…傷ついてる?
イライラはしてた。
でも、傷ついていたかどうかは、わからない。
「穂」
大きな瞳に見つめられる。
「穂、あたし、2人の関係を壊したいなんて、思ってない。ただ、ちょっと困らせたかっただけで、かまってほしかっただけで…」
彼女の瞳からも、涙が零れ落ちていく。
「あたしのせいで、穂が傷つくなら、もう…これで、最後にする」
胸がズキズキ痛みだす。
…そうじゃ、ない。
「違う」
彼女の唇に、唇を重ねる。
彼女を壁に押しやって、舌をねじ込む。
唾液を混ぜ合って、彼女の胸を乱暴に揉む。
彼女が私の背中をギュッと掴んだ。
…震えている、気がした。
唇を離すと、彼女の瞳から涙が溢れ出ていた。
「ごめん」
「…いいよ」
怖い思いを…させた。
「あたし、穂のだもん」
彼女を抱きしめる。
「本当に…私を奪おうとは、してないよね?」
彼女が耳元でフフッと笑った。
「奪えるの?」
千陽を見ると、悲しげな笑みを浮かべていた。
「…奪えない」
手を繋ぐ。
指を絡めて、壁に寄りかかる。
「永那ちゃんと“自ら宣伝するようにバラすのはやめよう”って約束してたの」
「ふーん」
「なのに、なんで言っちゃったのかな…あんな、みんなのいるところで」
「よっぽど、あたしに穂を奪われるのが嫌だったんだろうね」
「私は、永那ちゃんのなのに」
首筋の痕をさする。
千陽の視線を感じて、手をどけて、俯く。
「穂は永那の、あたしは穂の、結果的に穂もあたしも永那の…なのにね」
千陽が上目遣いに私を見る。
「でも…あたしも、妬いてる」
「え?」
「そんなに綺麗に、割り切れない」
彼女をジッと見る。答えを知りたくて。
「あたしは永那も穂も好き。本当に。永那が穂とセックスしてるのも、穂が永那とセックスしてるのも、どっちにも妬く。…意味、わかんなくない?」
千陽が笑う。
「2人とも、あたしのになればいいのにって、思ってる。2人に、妬いてる」
その気持ちは、私には、わからない。
私にとって永那ちゃんが恋人で、千陽は、妹みたいな存在だから。
千陽は私の気持ちを見透かすような瞳で、私を見る。
人の噂がこんなにも早くに広まるとは。
大きくため息をつく。
「べつに、大丈夫だよ」
「でも」
「どうでもいいから、そんなこと。鬱陶しいだけで」
日住君の目が大きくなる。
「そうですか。さすが先輩です」
彼は苦笑する。
帰り支度をすると、日住君もついてくる。
「空井先輩」
呼び止められて、振り向く。
金井さんは日住君をチラリと見て、私に視線を戻す。
「少しお話、いいですか?」
すぐ、恋話だとわかって、私は首を横に振る。
歩き出そうとして「先輩!」と大きな声を出されて、思わず立ち止まる。
「先輩の話じゃないので、安心してください」
そう言われて、ハッとする。
自分の視野が狭くなっていた。
また鎧を作ろうとしていた。
フゥッと息を吐いて「わかった」と答えた。
3人でカフェに行った。
最初に日住君に恋愛相談をしたときの、カフェ。
「先輩、私達、恋人になりました」
金井さんと日住君が顔を見合わせてから、私を見て、微笑む。
「夏祭りの後、私から、告白しました」
「…そっか。…そっか!よかったね!」
「はい、ありがとうございます」
「まさか、金井が空井先輩に相談してるなんて知りませんでしたよ…」
日住君が照れたように笑う。
3人で話す時間に、癒やされた。
夏祭りが終わってから、学校が始まるまでの1週間、毎日会っていたという。
いろんなところに2人で行って楽しかった話をしてくれた。
2人と別れて、ため息をついた。
永那ちゃんは、部活もしていないのに後輩に広まるほどの人気者。
みんなが千陽と付き合っているのではないかと勘ぐっていたから、今まで何の問題も起きていなかった。
そのバランスが、崩れた。
まして相手が私で、良くも悪くも“生徒会長(副生徒会長)”という立場で、名前の知られている人間で、学校中の話題になるのは、考えてみれば当たり前に思えた。
その対策を、何も考えていなかった。
まさか永那ちゃんが自ら暴露するとは思ってもみなかったけど…それでも、遅かれ早かれバレていたかもしれない。
それを考えれば、何も対策を考えていなかった自分にも落ち度があるように思えた。
「穂」
マンションの前につくと、千陽が立っていた。
「穂…ごめんね」
千陽があまりに傷ついた顔をしているから、慌てる。
「ち、千陽…どうしたの?」
「あたしが、穂に抱きついたから…あんなことになって」
本当に、自分のことしか見えていなかった。
永那ちゃんはずっと寝ているし、起きても、みんなの質問を適当にはぐらかしていた。
その態度にイライラしていた。
千陽が、こんなに傷ついた顔をしていたなんて、全然見えていなかった。
「千陽は、悪くないよ」
「でも、穂が傷ついてる」
頬を包まれる。
そっと口付けされて、涙が零れた。
…傷ついてる?
イライラはしてた。
でも、傷ついていたかどうかは、わからない。
「穂」
大きな瞳に見つめられる。
「穂、あたし、2人の関係を壊したいなんて、思ってない。ただ、ちょっと困らせたかっただけで、かまってほしかっただけで…」
彼女の瞳からも、涙が零れ落ちていく。
「あたしのせいで、穂が傷つくなら、もう…これで、最後にする」
胸がズキズキ痛みだす。
…そうじゃ、ない。
「違う」
彼女の唇に、唇を重ねる。
彼女を壁に押しやって、舌をねじ込む。
唾液を混ぜ合って、彼女の胸を乱暴に揉む。
彼女が私の背中をギュッと掴んだ。
…震えている、気がした。
唇を離すと、彼女の瞳から涙が溢れ出ていた。
「ごめん」
「…いいよ」
怖い思いを…させた。
「あたし、穂のだもん」
彼女を抱きしめる。
「本当に…私を奪おうとは、してないよね?」
彼女が耳元でフフッと笑った。
「奪えるの?」
千陽を見ると、悲しげな笑みを浮かべていた。
「…奪えない」
手を繋ぐ。
指を絡めて、壁に寄りかかる。
「永那ちゃんと“自ら宣伝するようにバラすのはやめよう”って約束してたの」
「ふーん」
「なのに、なんで言っちゃったのかな…あんな、みんなのいるところで」
「よっぽど、あたしに穂を奪われるのが嫌だったんだろうね」
「私は、永那ちゃんのなのに」
首筋の痕をさする。
千陽の視線を感じて、手をどけて、俯く。
「穂は永那の、あたしは穂の、結果的に穂もあたしも永那の…なのにね」
千陽が上目遣いに私を見る。
「でも…あたしも、妬いてる」
「え?」
「そんなに綺麗に、割り切れない」
彼女をジッと見る。答えを知りたくて。
「あたしは永那も穂も好き。本当に。永那が穂とセックスしてるのも、穂が永那とセックスしてるのも、どっちにも妬く。…意味、わかんなくない?」
千陽が笑う。
「2人とも、あたしのになればいいのにって、思ってる。2人に、妬いてる」
その気持ちは、私には、わからない。
私にとって永那ちゃんが恋人で、千陽は、妹みたいな存在だから。
千陽は私の気持ちを見透かすような瞳で、私を見る。
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