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188.文化祭準備
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「永那、全然割り切れてないんでしょ」
ドクンと胸が鳴る。
「自分で“いい”って言って、全然、割り切れてない。不安で不安で仕方ないんじゃない?いつか、穂が、あたしに盗られるんじゃないかって」
千陽の、手を握る力が強くなる。
「だってそうでしょ?今の日本では結婚できるわけでもないし。…そういう、他人から認められた約束を交わせるわけじゃない。だから余計、心の繋がりという不安定なものに、頼らざるを得ない。たとえ結婚できたとしても、不倫とか…いつまでもそういう問題って、つきまとうでしょ?人間と人間が関わり続ける限り。本当に誰かが誰かの物になれるわけでもないんだから」
…それは、その通りだ。
永那ちゃんが千陽を大事にしたい気持ち、私を独占したい気持ち…グチャグチャになって、わけわかんなくなって…自制が、効かなくなる。
…夏休みは、あれでいいと思った。
でもいざ学校が始まってみれば、触れ合える時間も減って、時間の…奪い合いになる。
ただでさえ永那ちゃんは、お祭りも、お泊まりも、文化祭委員も我慢していた状態だった。
焦るのも、無理はない。
他人から認められてしまえば…他人から認知されさえすれば、私が千陽に奪われる可能性が、低くなる。
自分の恥ずかしさばかりに目がいって、誰の気持ちも、考えられていなかった。
「千陽の寂しさは、いつか埋まるのかな」
「…さあ。そんなの、あたしが知りたい」
「私、千陽が寂しいって思わなくなるまで、そばにいたい」
千陽がフッと笑う。
「でも、永那ちゃんも悲しませたくない。…どうすればいいか、わからない」
「穂も、永那も…あたしに甘すぎだよ」
私は首を傾げる。
千陽は左腕を右手で擦った。
「なんで、そんなに優しくしてくれるのか、あたしにはわからない。2人はお互いに好き同士なんだから、あたしなんて切り捨てればいいのに」
そう言われて“たしかに”と思ってしまう自分もいる。
…それを他人に言われたなら、納得してしまうだろう。
永那ちゃんに対してイライラもするかもしれない。
なんで私がいるのに、他の人も大切にするんだ!って。
でも、今、この言葉を放っているのが、千陽自身であるということ。
…どうしようもなく彼女が優しくて、繊細で、孤独だという事実が、切り捨てたくなんかないという気持ちにさせる。
「私、もう少し、考えてみる」
千陽は不安そうに首を傾げた。
「永那ちゃんも、千陽も、大事にする方法」
「…なにそれ」
「ん?」
「…そんなの、両立できるわけないじゃん。どうしたってあたしは、穂と一緒にいたら、キスしたくなっちゃうもん」
心臓が跳ねる。
「そ、それも…含めて、だよ。ちゃんと、考えるから」
「あたしとそういうことしてる限り、永那の不安は消えないと思うけど?」
「…うん。そうかもしれない。…それでも、もう少し、考えてみる」
千陽は呆れたように、でも少し安心したように、笑った。
「千陽、けっこう夜遅いけど、大丈夫?」
「…泊めてくれるの?」
自分で言っておきながら、ギクッとする。
「駅まで、送るくらいなら…するよ…」
「…べつに、いい」
千陽はそのまま歩きだして、帰った。
私は彼女の背中が見えなくなってから、エレベーターに乗った。
『永那ちゃん、話したい』
珍しく、すぐに既読がついた。
『私も』
おはようのメッセージは、会っても会わなくても送り合い続けている。
でも、本当にそれだけ。
学校が始まれば、私達にはろくに2人になれる時間がない。
『明日、早くに学校つくようにするね』
『わかった』
たったそれだけの会話でも、私は嬉しい。
永那ちゃんは、どう思ってるんだろう?
…夏休みでたくさん彼女を知れたと思っていた。
私達の仲は深まって、私は彼女に安心感を抱いていた。
でも、一方的にそう思っていたのかな。
浮気。
…浮気なんてされたら、誰だって不安になるよね。
でも、永那ちゃんはそれすら許してくれた。
私と、千陽のために…って。
2人を大事にする…。
どうすればいいかなんて、わからない。
でも話さなきゃ、きっと、もっとわからない。
だから、話さなきゃ。
もっと、もっと、永那ちゃんと。
学校は7時から開いている。
私は早起きして、7時ちょうどに学校についた。
朝の部活のためか、チラホラ生徒がいる。
教室につくと、まだ誰もいなかった。
席に座って、外を眺める。
校庭で、野球部とサッカー部が練習をしていた。
少しして、ドアが開く。
永那ちゃんと千陽だった。
…2人とも、いつもこんなに早くに学校に来てるのかな?
「おはよう」
「おはよ」
2人が返してくれる。
…やっぱり、2人はお似合いだなあ。なんて、考える。
「あたし、どっか行ってくる」
千陽は鞄を机にかけて、教室から出て行った。
永那ちゃんが目の前の椅子に座る。
朝日に照らされる永那ちゃんの肌が透き通っていて、綺麗で、見蕩れる。
そっと彼女の頬に触れる。
「髪型、似合ってるね」
「ありがと」
触れるだけの口付けを交わす。
ドクンと胸が鳴る。
「自分で“いい”って言って、全然、割り切れてない。不安で不安で仕方ないんじゃない?いつか、穂が、あたしに盗られるんじゃないかって」
千陽の、手を握る力が強くなる。
「だってそうでしょ?今の日本では結婚できるわけでもないし。…そういう、他人から認められた約束を交わせるわけじゃない。だから余計、心の繋がりという不安定なものに、頼らざるを得ない。たとえ結婚できたとしても、不倫とか…いつまでもそういう問題って、つきまとうでしょ?人間と人間が関わり続ける限り。本当に誰かが誰かの物になれるわけでもないんだから」
…それは、その通りだ。
永那ちゃんが千陽を大事にしたい気持ち、私を独占したい気持ち…グチャグチャになって、わけわかんなくなって…自制が、効かなくなる。
…夏休みは、あれでいいと思った。
でもいざ学校が始まってみれば、触れ合える時間も減って、時間の…奪い合いになる。
ただでさえ永那ちゃんは、お祭りも、お泊まりも、文化祭委員も我慢していた状態だった。
焦るのも、無理はない。
他人から認められてしまえば…他人から認知されさえすれば、私が千陽に奪われる可能性が、低くなる。
自分の恥ずかしさばかりに目がいって、誰の気持ちも、考えられていなかった。
「千陽の寂しさは、いつか埋まるのかな」
「…さあ。そんなの、あたしが知りたい」
「私、千陽が寂しいって思わなくなるまで、そばにいたい」
千陽がフッと笑う。
「でも、永那ちゃんも悲しませたくない。…どうすればいいか、わからない」
「穂も、永那も…あたしに甘すぎだよ」
私は首を傾げる。
千陽は左腕を右手で擦った。
「なんで、そんなに優しくしてくれるのか、あたしにはわからない。2人はお互いに好き同士なんだから、あたしなんて切り捨てればいいのに」
そう言われて“たしかに”と思ってしまう自分もいる。
…それを他人に言われたなら、納得してしまうだろう。
永那ちゃんに対してイライラもするかもしれない。
なんで私がいるのに、他の人も大切にするんだ!って。
でも、今、この言葉を放っているのが、千陽自身であるということ。
…どうしようもなく彼女が優しくて、繊細で、孤独だという事実が、切り捨てたくなんかないという気持ちにさせる。
「私、もう少し、考えてみる」
千陽は不安そうに首を傾げた。
「永那ちゃんも、千陽も、大事にする方法」
「…なにそれ」
「ん?」
「…そんなの、両立できるわけないじゃん。どうしたってあたしは、穂と一緒にいたら、キスしたくなっちゃうもん」
心臓が跳ねる。
「そ、それも…含めて、だよ。ちゃんと、考えるから」
「あたしとそういうことしてる限り、永那の不安は消えないと思うけど?」
「…うん。そうかもしれない。…それでも、もう少し、考えてみる」
千陽は呆れたように、でも少し安心したように、笑った。
「千陽、けっこう夜遅いけど、大丈夫?」
「…泊めてくれるの?」
自分で言っておきながら、ギクッとする。
「駅まで、送るくらいなら…するよ…」
「…べつに、いい」
千陽はそのまま歩きだして、帰った。
私は彼女の背中が見えなくなってから、エレベーターに乗った。
『永那ちゃん、話したい』
珍しく、すぐに既読がついた。
『私も』
おはようのメッセージは、会っても会わなくても送り合い続けている。
でも、本当にそれだけ。
学校が始まれば、私達にはろくに2人になれる時間がない。
『明日、早くに学校つくようにするね』
『わかった』
たったそれだけの会話でも、私は嬉しい。
永那ちゃんは、どう思ってるんだろう?
…夏休みでたくさん彼女を知れたと思っていた。
私達の仲は深まって、私は彼女に安心感を抱いていた。
でも、一方的にそう思っていたのかな。
浮気。
…浮気なんてされたら、誰だって不安になるよね。
でも、永那ちゃんはそれすら許してくれた。
私と、千陽のために…って。
2人を大事にする…。
どうすればいいかなんて、わからない。
でも話さなきゃ、きっと、もっとわからない。
だから、話さなきゃ。
もっと、もっと、永那ちゃんと。
学校は7時から開いている。
私は早起きして、7時ちょうどに学校についた。
朝の部活のためか、チラホラ生徒がいる。
教室につくと、まだ誰もいなかった。
席に座って、外を眺める。
校庭で、野球部とサッカー部が練習をしていた。
少しして、ドアが開く。
永那ちゃんと千陽だった。
…2人とも、いつもこんなに早くに学校に来てるのかな?
「おはよう」
「おはよ」
2人が返してくれる。
…やっぱり、2人はお似合いだなあ。なんて、考える。
「あたし、どっか行ってくる」
千陽は鞄を机にかけて、教室から出て行った。
永那ちゃんが目の前の椅子に座る。
朝日に照らされる永那ちゃんの肌が透き通っていて、綺麗で、見蕩れる。
そっと彼女の頬に触れる。
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「ありがと」
触れるだけの口付けを交わす。
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