いたずらはため息と共に

常森 楽

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4.踏み込む

201.文化祭

「…なんだっけな。ワッフルは、チョコバナナと、イチゴと、抹茶?他にもあった気がする。…タピオカは、ミルクティとカルピスと…なんだっけ…抹茶もあったかな…忘れた。全部あげる」
とにかく高いやつを大量に買わされた。
痛い出費。
夏休みのバイト代全部消えるかと思ったわ。
…ほぼ消えたも同然だけど。
「こ、これ全部ですか?」
「ん?…いらなかったら1つでいいよ」
「えっと…じゃあ、他のメンバーにもわたしておきます」
「うん、助かるよ」
金井さんはカルピスのタピオカを袋から取って、「いただきます」と小さく呟く。
チューッとストローを吸う音が部屋に響く。
「休憩?」
「…はい。両角先輩もですか?」
「私は参加してないんだよ。穂に会いたかったから来ただけ」
「そう、ですか…」
眠くて、机に突っ伏す。
穂、まだかな…。

「金井さんは、好きな人いる?」
「…はい」
「へえ。付き合ってるの?」
「はい」
「忙しそうだけど、妬かれない?」
「…相手のほうが、忙しいので」
「そっか。寂しい?」
「そうですね…でも、ずっと好きだったので、付き合えただけで…嬉しいです」
「おお、そうなんだ。それ、めっちゃ嬉しいね」
頬杖をついて彼女を見ると、頬を赤らめながら、頷いた。
「…あの」
「ん?」
「両角先輩は、空井先輩のどんなところが好きなんですか?」
「いろいろあるけど…いつも一生懸命で、ちゃんと気持ちを伝えてくれようとするところ、かな。なにより、世界一可愛い」
彼女の目が大きく開かれる。

頬をポリポリ掻いて「…すごいですね」と言われる。
「なにが?」
「そんな、まっすぐ…恋人のことを“可愛い”って言えるなんて、すごいです」
「そうかな」
「私も…言われたいですもん」
「言われないの?」
「…はい」
「金井さん、可愛いのにね」
「そ…、そんなこと…そんなこと、言ってたら、空井先輩が悲しみますよ」
「なんで?」
「なんでって…恋人が他の人のことを“可愛い”なんて言ってたら、普通に傷つきます」
「そっか。じゃあ、次から気をつける。教えてくれて、ありがと」
金井さんが小さく息を吐く。
「空井先輩、遅いですね」
「そうだねえ」
「…さっき、1年生の作ったオブジェが倒れたと言っていたので、忙しいのかもしれません」
「そっかあ」

ガラガラと扉が開く。
汗を流して、息を切らす穂。
「永那ちゃん…ごめんね…」
「穂、おつかれさま」
もう、あと10分で2時だった。

「生徒会メンバーのみなさん、金井です。空井先輩、今から1時間の休憩入ります。生徒会室には来ないように。…どうぞ」
「「了解です…どうぞ」」
トランシーバーから、数人の声が聞こえる。
「両角先輩から差し入れいただきました。今から各所届けに行きます…どうぞ」
「「ありがとうございます!」」
“わーい”と後ろで声が聞こえる。
「か、金井さん!?」
穂が慌てる。
金井さんがペコリと頭を下げて、さっきあげた袋とタピオカを手に持って出ていった。
「いい子だね」
そう言うと、穂は“んー…”と考え込む。
「い、1時間も…あけられない…」
「そっか」
「…で、でも…いいの、かな」
私は首を傾げる。
穂は何かを決意したように頷いて、私の隣に座った。

「永那ちゃん、待たせちゃってごめんね」
「全然。私も遅れたし」
「そうなの?」
「うん、一応メッセージも送ったけど…」
「ご、ごめん…見れてない…」
「いいよ、わかってた」
彼女の頭を撫でてから、ハンカチで汗を拭いてあげる。
穂が、机に置いてある袋を眺める。
「食べる?」
「あ、いや、永那ちゃんのでしょ?」
「穂のために買ったんだよ」
穂は何度か瞬きして「そっか…ありがとう…」と、袋を受け取った。
「ブレザー、脱いだら?」
彼女がブレザーを着ていたことが嬉しかった。
なぜ私がブレザーを着せたのか、きっと理解していないんだろうけど、私の言葉を今日も守ってくれたことが嬉しかった。

「永那ちゃんのブレザー…クリーニングして返すね?」
「なんで?」
「だって…けっこう動いて汗かいたし」
そう言って、彼女はブレザーを脱ぐ。
「いいよ、穂の匂いがついて嬉しいから」
「え、だ、だめだよ」
「だめじゃない」
むぅ…と唇を尖らせながら、穂はたこ焼きを頬張る。
「ちょっとたこ焼き冷めちゃったかな」
「食べやすいよ、ありがとう」
「穂」
「ん?…ん!?」
彼女の唇を塞いで、舌を入れる。
噛み砕かれたたこ焼きを舌で奪う。
それを飲み込んで、唇を離す。
「え、永那ちゃん…なにしてるの」
「“あーん”だよ」
彼女の顔が真っ赤に染まる。
彼女が私に背を向けて、たこ焼きを食べ始める。
その後ろ姿が可愛いから、抱きしめる。

「穂、ネックレスつけてくれてる」
「うん…迷ったけど…文化祭くらい、いいかなって」
彼女の汗の匂いが鼻を通る。
この匂いが、好き。
ペロリと首筋を舐めると、「もー!」と怒られる。
「キス、しよ?」
後ろから彼女の顔を覗き込むと、耳まで赤くなって、目をそらされた。
「だめ?」
「少しだけ、だよ?」
彼女の言葉が終わるのと同時に、唇を重ねる。
私は立ち上がって、座っている彼女を覆うように椅子の背もたれに手をついた。
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