いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
202 / 595
4.踏み込む

201.文化祭

しおりを挟む
「…なんだっけな。ワッフルは、チョコバナナと、イチゴと、抹茶?他にもあった気がする。…タピオカは、ミルクティとカルピスと…なんだっけ…抹茶もあったかな…忘れた。全部あげる」
とにかく高いやつを大量に買わされた。
痛い出費。
夏休みのバイト代全部消えるかと思ったわ。
…ほぼ消えたも同然だけど。
「こ、これ全部ですか?」
「ん?…いらなかったら1つでいいよ」
「えっと…じゃあ、他のメンバーにもわたしておきます」
「うん、助かるよ」
金井さんはカルピスのタピオカを袋から取って、「いただきます」と小さく呟く。
チューッとストローを吸う音が部屋に響く。
「休憩?」
「…はい。両角先輩もですか?」
「私は参加してないんだよ。穂に会いたかったから来ただけ」
「そう、ですか…」
眠くて、机に突っ伏す。
穂、まだかな…。

「金井さんは、好きな人いる?」
「…はい」
「へえ。付き合ってるの?」
「はい」
「忙しそうだけど、妬かれない?」
「…相手のほうが、忙しいので」
「そっか。寂しい?」
「そうですね…でも、ずっと好きだったので、付き合えただけで…嬉しいです」
「おお、そうなんだ。それ、めっちゃ嬉しいね」
頬杖をついて彼女を見ると、頬を赤らめながら、頷いた。
「…あの」
「ん?」
「両角先輩は、空井先輩のどんなところが好きなんですか?」
「いろいろあるけど…いつも一生懸命で、ちゃんと気持ちを伝えてくれようとするところ、かな。なにより、世界一可愛い」
彼女の目が大きく開かれる。

頬をポリポリ掻いて「…すごいですね」と言われる。
「なにが?」
「そんな、まっすぐ…恋人のことを“可愛い”って言えるなんて、すごいです」
「そうかな」
「私も…言われたいですもん」
「言われないの?」
「…はい」
「金井さん、可愛いのにね」
「そ…、そんなこと…そんなこと、言ってたら、空井先輩が悲しみますよ」
「なんで?」
「なんでって…恋人が他の人のことを“可愛い”なんて言ってたら、普通に傷つきます」
「そっか。じゃあ、次から気をつける。教えてくれて、ありがと」
金井さんが小さく息を吐く。
「空井先輩、遅いですね」
「そうだねえ」
「…さっき、1年生の作ったオブジェが倒れたと言っていたので、忙しいのかもしれません」
「そっかあ」

ガラガラと扉が開く。
汗を流して、息を切らす穂。
「永那ちゃん…ごめんね…」
「穂、おつかれさま」
もう、あと10分で2時だった。

「生徒会メンバーのみなさん、金井です。空井先輩、今から1時間の休憩入ります。生徒会室には来ないように。…どうぞ」
「「了解です…どうぞ」」
トランシーバーから、数人の声が聞こえる。
「両角先輩から差し入れいただきました。今から各所届けに行きます…どうぞ」
「「ありがとうございます!」」
“わーい”と後ろで声が聞こえる。
「か、金井さん!?」
穂が慌てる。
金井さんがペコリと頭を下げて、さっきあげた袋とタピオカを手に持って出ていった。
「いい子だね」
そう言うと、穂は“んー…”と考え込む。
「い、1時間も…あけられない…」
「そっか」
「…で、でも…いいの、かな」
私は首を傾げる。
穂は何かを決意したように頷いて、私の隣に座った。

「永那ちゃん、待たせちゃってごめんね」
「全然。私も遅れたし」
「そうなの?」
「うん、一応メッセージも送ったけど…」
「ご、ごめん…見れてない…」
「いいよ、わかってた」
彼女の頭を撫でてから、ハンカチで汗を拭いてあげる。
穂が、机に置いてある袋を眺める。
「食べる?」
「あ、いや、永那ちゃんのでしょ?」
「穂のために買ったんだよ」
穂は何度か瞬きして「そっか…ありがとう…」と、袋を受け取った。
「ブレザー、脱いだら?」
彼女がブレザーを着ていたことが嬉しかった。
なぜ私がブレザーを着せたのか、きっと理解していないんだろうけど、私の言葉を今日も守ってくれたことが嬉しかった。

「永那ちゃんのブレザー…クリーニングして返すね?」
「なんで?」
「だって…けっこう動いて汗かいたし」
そう言って、彼女はブレザーを脱ぐ。
「いいよ、穂の匂いがついて嬉しいから」
「え、だ、だめだよ」
「だめじゃない」
むぅ…と唇を尖らせながら、穂はたこ焼きを頬張る。
「ちょっとたこ焼き冷めちゃったかな」
「食べやすいよ、ありがとう」
「穂」
「ん?…ん!?」
彼女の唇を塞いで、舌を入れる。
噛み砕かれたたこ焼きを舌で奪う。
それを飲み込んで、唇を離す。
「え、永那ちゃん…なにしてるの」
「“あーん”だよ」
彼女の顔が真っ赤に染まる。
彼女が私に背を向けて、たこ焼きを食べ始める。
その後ろ姿が可愛いから、抱きしめる。

「穂、ネックレスつけてくれてる」
「うん…迷ったけど…文化祭くらい、いいかなって」
彼女の汗の匂いが鼻を通る。
この匂いが、好き。
ペロリと首筋を舐めると、「もー!」と怒られる。
「キス、しよ?」
後ろから彼女の顔を覗き込むと、耳まで赤くなって、目をそらされた。
「だめ?」
「少しだけ、だよ?」
彼女の言葉が終わるのと同時に、唇を重ねる。
私は立ち上がって、座っている彼女を覆うように椅子の背もたれに手をついた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...