いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
263 / 595
5.時間

262.修学旅行

しおりを挟む
「譲ったのは、ほら…穂にくっつきたかったから」
「そうなんだ」
「うん」
彼女が照れて俯いてるから、フフッと笑ってしまう。
「なんだよ」
「ううん、なんでもない」
顔を上げて、永那ちゃんは唇を尖らせる。
私はほんの少し背伸びして、その唇に、私のを重ねた。
「す、穂…」
「帰ろ?」
もうすぐ4時だった。

駅に向かう途中のエスカレーター。
「永那ちゃん」
「ん?」
「どうしていつも、私を先にするの?」
手を繋いでいると、いつも私が先にエスカレーターに乗るように誘導される。
付き合う前から、ずっとそう。
彼女が私を抱きしめながら見上げる。
「後ろの奴に穂のパンツ・・・見えちゃったら嫌でしょ?」
「そ、そんなこと…考えてたんだ…」
制服のスカートは長いし、私服も短いスカートを穿くことはないから、見られるなんてことはないと思うけど…。
「世の中には、スマホのカメラを起動させた状態で鞄に入れて、鞄を床に置いて盗撮する奴もいるんだって。そうすると、スカートが長くても、あんまり意味ないらしいよ?」
「そうなんだ。知らなかった…気をつけるね」
永那ちゃんが頷く。
…永那ちゃんも制服はスカートだけど。
それを言うのは野暮だよね。

電車に乗ると、永那ちゃんの寝息がすぐに聞こえてきた。
船を漕いでいるから、彼女の頭をそっと私の肩に乗せる。
フゥッと小さく息を吐く。
来週は月曜日から金曜日まで、毎日永那ちゃんの家に行って、お母さんに修学旅行の話をする。
そうしたら修学旅行がきて、修学旅行が終わったら、いつもの日常がやってくる。
永那ちゃんと、次、いつエッチできるんだろう?
永那ちゃんも、きっとシたいと思ってくれているよね。
…さっき、言ってたし。
11月は祝日があるけど…その日を待ってたら、最後に永那ちゃんとシてから、1ヶ月以上経ってしまうことになる。
千陽と…毎週シて…永那ちゃんと全然できないなんて、それこそ千陽が言うように、千陽のほうが恋人っぽくなってしまう。
それは、だめだと思う。

永那ちゃんの家の最寄り駅についても、私は永那ちゃんを起こさなかった。
私の家の最寄り駅について、彼女を起こす。
「あれ?」
寝ぼけ眼を擦りながら、永那ちゃんとホームに下りる。
「もっと一緒にいたいってこと?」
永那ちゃんは見下ろすように笑う。
「まだ、一緒に、いてくれる?」
彼女の目が大きく見開いて、伏し目がちに、口元を綻ばせた。
「いいよ?どこ行く?穂の家?」
上目遣いに私を見る永那ちゃんが濃艶で、胸がギュッと掴まれた感覚に陥る。
「もう一回、行ってみたい」
彼女の左眉が上がる。
「ネット、カフェ…」
フフッと笑って「いいよ」と低い声で言われる。
鷲掴みにされたまま離れない心を落ち着かせるように、私は深く息を吐いた。

前に来たときは唐突で、全然じっくり見れなかった。
今日も、時間に余裕があるわけじゃないから、じっくり見られるわけではないけれど、前よりは落ち着いて見ることができた。
「永那ちゃん、こういうところ、よく来るの?」
「いや、この前が2回目」
「そうなんだ」
「個室はあいてないことが多いって聞くけど、今日もあいててラッキーだね」
永那ちゃんが笑うから、私は頷く。
ドリンクバーで飲み物を選んで、おしぼりを持って部屋に入る。

…おしぼり。
ああ…この前…えっちだったな…。
“空井さんを犯すのは楽しいなあ”なんて…だめだよ、絶対だめ。
なのになんで私、それを言う永那ちゃんをかっこいいって思ったんだろう…。
その後の“嘘だよ。好きだよ、穂”なんて、今思い出してもドキドキして、顔が熱くなる。

ストローをチューッと吸う。
薄味のグレープソーダが、喉を通っていく。
本当なら、もう、永那ちゃん帰らなきゃいけない時間だよね…。
少し、罪悪感。
「穂」
コップをテーブルに置いて、永那ちゃんを見る。
「今日、楽しかったね」
「…うん!」
「映画でも見る?」
「え!?」
永那ちゃんが首を傾げる。
「え、映画って、2時間くらいあるよね?…時間、だめなんじゃない?」
彼女が左端の口角を上げて、目を細める。
「“まだ一緒にいてくれる?”って言ったのは穂だよ?」
「そ、そんな…長く一緒にいられるなんて、思っていなくて…。というか、お母さんパニック起こしちゃったら大変だし、長くは…だめだよ。うん」
「この程度でパニック起こすなら、修学旅行は無理でしょ?」
ジッと見つめ合う。
「でも…」
フゥッと永那ちゃんが息を吐く。
「来週から毎日穂が来るって言ったら、お母さん楽しみにしてた。ベランダで育てるお花も、すごく楽しみにしてる。月曜日の買い物も。…お母さんに楽しみがあるんだから、私だって穂と楽しんでもよくない?」
そう言われてしまえば、私には、断れない。
そもそも、私が誘ってしまったんだし。
私が頷くと、永那ちゃんは満足そうに笑った。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...