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5.時間
262.修学旅行
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「譲ったのは、ほら…穂にくっつきたかったから」
「そうなんだ」
「うん」
彼女が照れて俯いてるから、フフッと笑ってしまう。
「なんだよ」
「ううん、なんでもない」
顔を上げて、永那ちゃんは唇を尖らせる。
私はほんの少し背伸びして、その唇に、私のを重ねた。
「す、穂…」
「帰ろ?」
もうすぐ4時だった。
駅に向かう途中のエスカレーター。
「永那ちゃん」
「ん?」
「どうしていつも、私を先にするの?」
手を繋いでいると、いつも私が先にエスカレーターに乗るように誘導される。
付き合う前から、ずっとそう。
彼女が私を抱きしめながら見上げる。
「後ろの奴に穂のパンツ見えちゃったら嫌でしょ?」
「そ、そんなこと…考えてたんだ…」
制服のスカートは長いし、私服も短いスカートを穿くことはないから、見られるなんてことはないと思うけど…。
「世の中には、スマホのカメラを起動させた状態で鞄に入れて、鞄を床に置いて盗撮する奴もいるんだって。そうすると、スカートが長くても、あんまり意味ないらしいよ?」
「そうなんだ。知らなかった…気をつけるね」
永那ちゃんが頷く。
…永那ちゃんも制服はスカートだけど。
それを言うのは野暮だよね。
電車に乗ると、永那ちゃんの寝息がすぐに聞こえてきた。
船を漕いでいるから、彼女の頭をそっと私の肩に乗せる。
フゥッと小さく息を吐く。
来週は月曜日から金曜日まで、毎日永那ちゃんの家に行って、お母さんに修学旅行の話をする。
そうしたら修学旅行がきて、修学旅行が終わったら、いつもの日常がやってくる。
永那ちゃんと、次、いつエッチできるんだろう?
永那ちゃんも、きっとシたいと思ってくれているよね。
…さっき、言ってたし。
11月は祝日があるけど…その日を待ってたら、最後に永那ちゃんとシてから、1ヶ月以上経ってしまうことになる。
千陽と…毎週シて…永那ちゃんと全然できないなんて、それこそ千陽が言うように、千陽のほうが恋人っぽくなってしまう。
それは、だめだと思う。
永那ちゃんの家の最寄り駅についても、私は永那ちゃんを起こさなかった。
私の家の最寄り駅について、彼女を起こす。
「あれ?」
寝ぼけ眼を擦りながら、永那ちゃんとホームに下りる。
「もっと一緒にいたいってこと?」
永那ちゃんは見下ろすように笑う。
「まだ、一緒に、いてくれる?」
彼女の目が大きく見開いて、伏し目がちに、口元を綻ばせた。
「いいよ?どこ行く?穂の家?」
上目遣いに私を見る永那ちゃんが濃艶で、胸がギュッと掴まれた感覚に陥る。
「もう一回、行ってみたい」
彼女の左眉が上がる。
「ネット、カフェ…」
フフッと笑って「いいよ」と低い声で言われる。
鷲掴みにされたまま離れない心を落ち着かせるように、私は深く息を吐いた。
前に来たときは唐突で、全然じっくり見れなかった。
今日も、時間に余裕があるわけじゃないから、じっくり見られるわけではないけれど、前よりは落ち着いて見ることができた。
「永那ちゃん、こういうところ、よく来るの?」
「いや、この前が2回目」
「そうなんだ」
「個室はあいてないことが多いって聞くけど、今日もあいててラッキーだね」
永那ちゃんが笑うから、私は頷く。
ドリンクバーで飲み物を選んで、おしぼりを持って部屋に入る。
…おしぼり。
ああ…この前…えっちだったな…。
“空井さんを犯すのは楽しいなあ”なんて…だめだよ、絶対だめ。
なのになんで私、それを言う永那ちゃんをかっこいいって思ったんだろう…。
その後の“嘘だよ。好きだよ、穂”なんて、今思い出してもドキドキして、顔が熱くなる。
ストローをチューッと吸う。
薄味のグレープソーダが、喉を通っていく。
本当なら、もう、永那ちゃん帰らなきゃいけない時間だよね…。
少し、罪悪感。
「穂」
コップをテーブルに置いて、永那ちゃんを見る。
「今日、楽しかったね」
「…うん!」
「映画でも見る?」
「え!?」
永那ちゃんが首を傾げる。
「え、映画って、2時間くらいあるよね?…時間、だめなんじゃない?」
彼女が左端の口角を上げて、目を細める。
「“まだ一緒にいてくれる?”って言ったのは穂だよ?」
「そ、そんな…長く一緒にいられるなんて、思っていなくて…。というか、お母さんパニック起こしちゃったら大変だし、長くは…だめだよ。うん」
「この程度でパニック起こすなら、修学旅行は無理でしょ?」
ジッと見つめ合う。
「でも…」
フゥッと永那ちゃんが息を吐く。
「来週から毎日穂が来るって言ったら、お母さん楽しみにしてた。ベランダで育てるお花も、すごく楽しみにしてる。月曜日の買い物も。…お母さんに楽しみがあるんだから、私だって穂と楽しんでもよくない?」
そう言われてしまえば、私には、断れない。
そもそも、私が誘ってしまったんだし。
私が頷くと、永那ちゃんは満足そうに笑った。
「そうなんだ」
「うん」
彼女が照れて俯いてるから、フフッと笑ってしまう。
「なんだよ」
「ううん、なんでもない」
顔を上げて、永那ちゃんは唇を尖らせる。
私はほんの少し背伸びして、その唇に、私のを重ねた。
「す、穂…」
「帰ろ?」
もうすぐ4時だった。
駅に向かう途中のエスカレーター。
「永那ちゃん」
「ん?」
「どうしていつも、私を先にするの?」
手を繋いでいると、いつも私が先にエスカレーターに乗るように誘導される。
付き合う前から、ずっとそう。
彼女が私を抱きしめながら見上げる。
「後ろの奴に穂のパンツ見えちゃったら嫌でしょ?」
「そ、そんなこと…考えてたんだ…」
制服のスカートは長いし、私服も短いスカートを穿くことはないから、見られるなんてことはないと思うけど…。
「世の中には、スマホのカメラを起動させた状態で鞄に入れて、鞄を床に置いて盗撮する奴もいるんだって。そうすると、スカートが長くても、あんまり意味ないらしいよ?」
「そうなんだ。知らなかった…気をつけるね」
永那ちゃんが頷く。
…永那ちゃんも制服はスカートだけど。
それを言うのは野暮だよね。
電車に乗ると、永那ちゃんの寝息がすぐに聞こえてきた。
船を漕いでいるから、彼女の頭をそっと私の肩に乗せる。
フゥッと小さく息を吐く。
来週は月曜日から金曜日まで、毎日永那ちゃんの家に行って、お母さんに修学旅行の話をする。
そうしたら修学旅行がきて、修学旅行が終わったら、いつもの日常がやってくる。
永那ちゃんと、次、いつエッチできるんだろう?
永那ちゃんも、きっとシたいと思ってくれているよね。
…さっき、言ってたし。
11月は祝日があるけど…その日を待ってたら、最後に永那ちゃんとシてから、1ヶ月以上経ってしまうことになる。
千陽と…毎週シて…永那ちゃんと全然できないなんて、それこそ千陽が言うように、千陽のほうが恋人っぽくなってしまう。
それは、だめだと思う。
永那ちゃんの家の最寄り駅についても、私は永那ちゃんを起こさなかった。
私の家の最寄り駅について、彼女を起こす。
「あれ?」
寝ぼけ眼を擦りながら、永那ちゃんとホームに下りる。
「もっと一緒にいたいってこと?」
永那ちゃんは見下ろすように笑う。
「まだ、一緒に、いてくれる?」
彼女の目が大きく見開いて、伏し目がちに、口元を綻ばせた。
「いいよ?どこ行く?穂の家?」
上目遣いに私を見る永那ちゃんが濃艶で、胸がギュッと掴まれた感覚に陥る。
「もう一回、行ってみたい」
彼女の左眉が上がる。
「ネット、カフェ…」
フフッと笑って「いいよ」と低い声で言われる。
鷲掴みにされたまま離れない心を落ち着かせるように、私は深く息を吐いた。
前に来たときは唐突で、全然じっくり見れなかった。
今日も、時間に余裕があるわけじゃないから、じっくり見られるわけではないけれど、前よりは落ち着いて見ることができた。
「永那ちゃん、こういうところ、よく来るの?」
「いや、この前が2回目」
「そうなんだ」
「個室はあいてないことが多いって聞くけど、今日もあいててラッキーだね」
永那ちゃんが笑うから、私は頷く。
ドリンクバーで飲み物を選んで、おしぼりを持って部屋に入る。
…おしぼり。
ああ…この前…えっちだったな…。
“空井さんを犯すのは楽しいなあ”なんて…だめだよ、絶対だめ。
なのになんで私、それを言う永那ちゃんをかっこいいって思ったんだろう…。
その後の“嘘だよ。好きだよ、穂”なんて、今思い出してもドキドキして、顔が熱くなる。
ストローをチューッと吸う。
薄味のグレープソーダが、喉を通っていく。
本当なら、もう、永那ちゃん帰らなきゃいけない時間だよね…。
少し、罪悪感。
「穂」
コップをテーブルに置いて、永那ちゃんを見る。
「今日、楽しかったね」
「…うん!」
「映画でも見る?」
「え!?」
永那ちゃんが首を傾げる。
「え、映画って、2時間くらいあるよね?…時間、だめなんじゃない?」
彼女が左端の口角を上げて、目を細める。
「“まだ一緒にいてくれる?”って言ったのは穂だよ?」
「そ、そんな…長く一緒にいられるなんて、思っていなくて…。というか、お母さんパニック起こしちゃったら大変だし、長くは…だめだよ。うん」
「この程度でパニック起こすなら、修学旅行は無理でしょ?」
ジッと見つめ合う。
「でも…」
フゥッと永那ちゃんが息を吐く。
「来週から毎日穂が来るって言ったら、お母さん楽しみにしてた。ベランダで育てるお花も、すごく楽しみにしてる。月曜日の買い物も。…お母さんに楽しみがあるんだから、私だって穂と楽しんでもよくない?」
そう言われてしまえば、私には、断れない。
そもそも、私が誘ってしまったんだし。
私が頷くと、永那ちゃんは満足そうに笑った。
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