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5.時間
286.一緒
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「穂、バッグ持つよ」
「え?大丈夫だよ」
「重そうだし…」
「平気」
「そっか」
永那ちゃんがポリポリ頬を掻く。
改札を通って、ホームで電車を待つ。
…これから1週間、毎日登下校するんだ。
ニヤける口元を、唇を噛んで誤魔化す。
「バッグ、どんくらい重いの?」
「ん?」
手を差し出されるから、ボストンバッグを渡す。
「おおっ、けっこう重いね。何入ってるの?」
「んー…服とか歯ブラシセットとか…あ、教科書もあるし、読みかけの文庫本も入ってるかな」
「そら重いわな。…そっか、授業1週間分だもんね」
「うん。体操着も入ってる」
話していたら電車が来て、2人で乗り込む。
けっこう人が乗っていて、2人で手すりを持った。
「スーパー、寄って帰るよね?」
永那ちゃんが伺うように聞く。
「そうだね。夜、何食べたい?」
「んー…やっぱ生姜焼きかな」
「わかった。他にも、何日分かまとめて買っちゃおっか」
「うん」
そこで、ふと気づく。
「あ、永那ちゃん…バッグ」
バッグを返してもらおうと手を出すと、フフッと彼女が笑う。
「ほら、混んでるから」
そう言われて、私は俯く。
…なにそれ。
あまりにさり気なくて、全然気づかなかった。
「永那ちゃんのバカ」
本当は、私のバカ。
「え!?なんで?」
「ずるいよ…」
「なにが?」
永那ちゃんが笑う。
胸がキュッと締めつけられる。
「私のこと、騙した」
「え?」
永那ちゃんの目がまん丸くなる。
「バッグ…持ってくれてる…」
「…ああ、たまたまだよ」
「じゃあ、電車おりたら返して?」
「やだ」
…ほら、やっぱり。かっこいい…。
2人でスーパーに寄って、野菜を選ぶ。
永那ちゃんは右肩にスクールバッグとボストンバッグの2つをかけて、左手を私の腰に回す。
この、手を腰に回されるの…エッチな感じがして、すごく恥ずかしい。
外国人はよくやっているところを見るけれど…ホント、永那ちゃんって外国人みたいだよね?
外出したとき、お母さんがよくフラフラしていたから、支えるためにやっていたんだろうけど…。
私にやる必要は、ないと思うんだよね…。
嬉しいけど…。
モゾモゾしながら買い物を終えて、買い物袋は意地でも私が持った。
「もう騙されないよ!」
胸を張ると、永那ちゃんがケラケラ笑った。
家に入って、冷蔵庫に食材をしまう。
「鍵、外したんだね」
「うん、不便だからね」
前来たときは、いろんなところに鍵がついていた。
棚の扉に貼ってある、私が買ってきたお菓子の包装紙。
座卓に置いてある花瓶。
みんなが楽しそうに写ってる写真。
ベランダのお花。
どれも綺麗に残ってる。
「ご飯、作っちゃうね」
「うん」
いつも通り、手洗いうがいをして、部屋着に着替える。
永那ちゃんがさわってこようとするから「だめ」と手を叩いた。
「ケチ」
永那ちゃんは唇を尖らせて、洗面台に行った。
私がキッチンに立つ頃には永那ちゃんも着替えて、眼鏡姿になっていた。
「そういえば、修学旅行のときは眼鏡つけてなかったね」
「まあ、寝るとき以外コンタクト外さないからね。いらないと思って」
永那ちゃん、コンタクトつけたまま寝ていたような気がする…。
「目に悪いんじゃない?」
「大丈夫大丈夫」
私が野菜を切り始めると、後ろから抱きしめられた。
「永那ちゃん、危ないよ」
「これくらい、大丈夫でしょ」
私の首筋に顔をうずめる。
それだけで、私の下腹部がキュゥッと締めつけられるから、自分の体が嫌になる。
「いっただっきまーす!」
「いただきます」
「…うまいっ!うまっ!」
カッカッカッと勢い良くご飯を口に入れるから「永那ちゃん、ゆっくり!」と思わず彼女の手に触れる。
フフッと彼女が笑って、唇をペロリと舐める。
「毎日か…これから、毎日…穂のご飯…嬉しい」
「毎日食べられるんだから、ちゃんと噛んで食べて?」
「はーい」
お皿を洗おうとすると「いいよ」と永那ちゃんがシンクに立つ。
「ありがとう」
こういうところも、好き。
座って、2人でお茶を飲む。
「穂」
「なに?」
「ほら、昨日…詳しく話すって言ったじゃん?」
「うん」
「お母さん、やっぱ私がいなくてパニック起こしたみたいで。でも、私が修学旅行行ってることもちゃんとわかってたらしくて。気持ちが、たぶん、ぐちゃぐちゃになっちゃって、オーバードーズしたんだと思うって言われた。薬大量に飲むと、フラフラするからさ?外に出て、階段下りようとして、コケたみたい」
「そっか」
「んで、誰かが救急車呼んでくれて、病院行って、お姉ちゃんに連絡がいって、じいちゃんにも連絡がいって…2人が対応してくれた」
「うん」
「電話で、お姉ちゃんに“なんで修学旅行なんか行ったんだ”って怒鳴られて、“お前のせいでお母さんが死んだらどうすんだ”って言われて」
彼女がフゥッと息を吐く。
そっと手を握ると、口角を上げてくれる。
「“お姉ちゃんが帰ってくれば良かっただろ”って言ったら“私はお前と違って働いてる”って言われてさ。“逃げてるわけじゃない。お前達のために働いてるんだ”って…私の苦労なんて、何も知らないくせに」
永那ちゃんは項垂れて、手をギュッと握った。
「え?大丈夫だよ」
「重そうだし…」
「平気」
「そっか」
永那ちゃんがポリポリ頬を掻く。
改札を通って、ホームで電車を待つ。
…これから1週間、毎日登下校するんだ。
ニヤける口元を、唇を噛んで誤魔化す。
「バッグ、どんくらい重いの?」
「ん?」
手を差し出されるから、ボストンバッグを渡す。
「おおっ、けっこう重いね。何入ってるの?」
「んー…服とか歯ブラシセットとか…あ、教科書もあるし、読みかけの文庫本も入ってるかな」
「そら重いわな。…そっか、授業1週間分だもんね」
「うん。体操着も入ってる」
話していたら電車が来て、2人で乗り込む。
けっこう人が乗っていて、2人で手すりを持った。
「スーパー、寄って帰るよね?」
永那ちゃんが伺うように聞く。
「そうだね。夜、何食べたい?」
「んー…やっぱ生姜焼きかな」
「わかった。他にも、何日分かまとめて買っちゃおっか」
「うん」
そこで、ふと気づく。
「あ、永那ちゃん…バッグ」
バッグを返してもらおうと手を出すと、フフッと彼女が笑う。
「ほら、混んでるから」
そう言われて、私は俯く。
…なにそれ。
あまりにさり気なくて、全然気づかなかった。
「永那ちゃんのバカ」
本当は、私のバカ。
「え!?なんで?」
「ずるいよ…」
「なにが?」
永那ちゃんが笑う。
胸がキュッと締めつけられる。
「私のこと、騙した」
「え?」
永那ちゃんの目がまん丸くなる。
「バッグ…持ってくれてる…」
「…ああ、たまたまだよ」
「じゃあ、電車おりたら返して?」
「やだ」
…ほら、やっぱり。かっこいい…。
2人でスーパーに寄って、野菜を選ぶ。
永那ちゃんは右肩にスクールバッグとボストンバッグの2つをかけて、左手を私の腰に回す。
この、手を腰に回されるの…エッチな感じがして、すごく恥ずかしい。
外国人はよくやっているところを見るけれど…ホント、永那ちゃんって外国人みたいだよね?
外出したとき、お母さんがよくフラフラしていたから、支えるためにやっていたんだろうけど…。
私にやる必要は、ないと思うんだよね…。
嬉しいけど…。
モゾモゾしながら買い物を終えて、買い物袋は意地でも私が持った。
「もう騙されないよ!」
胸を張ると、永那ちゃんがケラケラ笑った。
家に入って、冷蔵庫に食材をしまう。
「鍵、外したんだね」
「うん、不便だからね」
前来たときは、いろんなところに鍵がついていた。
棚の扉に貼ってある、私が買ってきたお菓子の包装紙。
座卓に置いてある花瓶。
みんなが楽しそうに写ってる写真。
ベランダのお花。
どれも綺麗に残ってる。
「ご飯、作っちゃうね」
「うん」
いつも通り、手洗いうがいをして、部屋着に着替える。
永那ちゃんがさわってこようとするから「だめ」と手を叩いた。
「ケチ」
永那ちゃんは唇を尖らせて、洗面台に行った。
私がキッチンに立つ頃には永那ちゃんも着替えて、眼鏡姿になっていた。
「そういえば、修学旅行のときは眼鏡つけてなかったね」
「まあ、寝るとき以外コンタクト外さないからね。いらないと思って」
永那ちゃん、コンタクトつけたまま寝ていたような気がする…。
「目に悪いんじゃない?」
「大丈夫大丈夫」
私が野菜を切り始めると、後ろから抱きしめられた。
「永那ちゃん、危ないよ」
「これくらい、大丈夫でしょ」
私の首筋に顔をうずめる。
それだけで、私の下腹部がキュゥッと締めつけられるから、自分の体が嫌になる。
「いっただっきまーす!」
「いただきます」
「…うまいっ!うまっ!」
カッカッカッと勢い良くご飯を口に入れるから「永那ちゃん、ゆっくり!」と思わず彼女の手に触れる。
フフッと彼女が笑って、唇をペロリと舐める。
「毎日か…これから、毎日…穂のご飯…嬉しい」
「毎日食べられるんだから、ちゃんと噛んで食べて?」
「はーい」
お皿を洗おうとすると「いいよ」と永那ちゃんがシンクに立つ。
「ありがとう」
こういうところも、好き。
座って、2人でお茶を飲む。
「穂」
「なに?」
「ほら、昨日…詳しく話すって言ったじゃん?」
「うん」
「お母さん、やっぱ私がいなくてパニック起こしたみたいで。でも、私が修学旅行行ってることもちゃんとわかってたらしくて。気持ちが、たぶん、ぐちゃぐちゃになっちゃって、オーバードーズしたんだと思うって言われた。薬大量に飲むと、フラフラするからさ?外に出て、階段下りようとして、コケたみたい」
「そっか」
「んで、誰かが救急車呼んでくれて、病院行って、お姉ちゃんに連絡がいって、じいちゃんにも連絡がいって…2人が対応してくれた」
「うん」
「電話で、お姉ちゃんに“なんで修学旅行なんか行ったんだ”って怒鳴られて、“お前のせいでお母さんが死んだらどうすんだ”って言われて」
彼女がフゥッと息を吐く。
そっと手を握ると、口角を上げてくれる。
「“お姉ちゃんが帰ってくれば良かっただろ”って言ったら“私はお前と違って働いてる”って言われてさ。“逃げてるわけじゃない。お前達のために働いてるんだ”って…私の苦労なんて、何も知らないくせに」
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