いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
303 / 595
5.時間

302.好きのその先

しおりを挟む
「これで2人とも、私のもの?」
永那が言う。
“私は永那ちゃんの。千陽は私の。結果的に、私も千陽も、永那ちゃんの”
永那は、穂のこの言葉の意味が全然わからなかったらしく、最後まで納得していなかった。
あたしだって、すぐに理解できたわけじゃないけど、“穂がそれでいいなら、まあいっか”なんて思って、わりと自分が適当だったことに気づいた。
“孤独にならずに済む”って、ホッとした。

文化祭が終わって、あたしの家で過ごしたとき、永那は“悪くない”と思えたと言っていた。
“悪くない”って、たぶん、まだ積極的じゃなくて…まだ、永那のなかで納得できない部分があったんだと思う。
それは、きっと…あたしと永那の関係が、まだ、まだ、全然深まっていなかったから。
修学旅行の一件で、永那のお母さんの一件で、永那があたしを信じてくれるようになったってことなのかな?
“お前、変わったよな”という言葉が、嬉しかった。
穂と出会って、永那もあたしも変わった。

穂と出会っていなかったら、あたし、本当に永那に捨てられてたかも。
穂に永那を奪われて孤独になることに怯えていたけど、今は、逆だったんだとわかる。
穂がいなきゃ、あたしと永那の関係は、続いていなかった。

「千陽は、私達から離れていかない?」
唐突に永那に聞かれて、眉間にシワが寄る。
穂があたしの“限定品”という言葉を“離れる”と勘違いしたことに呆れる。
…あたしの言い方も悪かったかもしれないけど…離れる気なんて、さらさらないんだけど。
ていうか、可愛いと思って言った言葉だったのに、そんなふうに捉えられていたなんて、全然知らなかった。
あたしが離れていかないとわかって、穂が子供みたいに泣いた。
それが、たまらなく、嬉しかった。
胸が熱くなって、目頭も熱くなる。
こんなにも、彼女から、求められている。
生きてて良かった。
純粋に、そう思った。
べつに、明確に死にたいなんて思ったことがあるわけじゃないけど、それでも、やっぱり、消えない虚しさみたいなのはずっとあった。
あのまま虚しさを放置していたら、あたしはいつか本当に明確に死にたいと思っていたかもしれない。

穂が泣き止んで、少し休んでから、彼女が勉強を再開した。
あたしは永那の分のノートを作る。
「てか永那、夜寝られるなら、自分でノート書けば?」
あたしが言うと、永那は「やだー」とテレビを見た。
「授業も聞かないで、夜も寝てたら、成績落ちるからね」
「ハァ」と永那がため息をつく。
「私さ、高校卒業したら働こうと思ってたんだけど…最近、大学受けたいなって思い始めたんだよね」
「そうなんだ!」
穂が顔を上げる。
「穂と同じとこ行きたい」
永那が視線を穂に遣る。
その目が優しい。
不思議と、羨ましいと思わない。
「楽しそう…」
穂は顎をシャープペンでトントン叩く。

「私、夢とかやりたいこととかも特にないし…穂が受けるとこ、受ける」
永那がテレビを消した。
「え?…も、もう少しよく考えたほうがいいんじゃない?大事なことなんだし」
「んー…穂はどういう系に進みたいの?」
永那は頬杖をついて、穂を見た。
「私は、国立の法学部を受けたいと思ってる」
初めて知る。
…さすが、穂。
「もちろん滑り止めで私立も受けるけど…あんまりお金、かけたくないから」
「私もお金ないから…国立だとありがたい…」
「千陽は、決めてる?」
穂があたしを見る。
「あたしは…まだ…」
「そっか」
2人と同じところ…。
法学部はないけど、同じ大学…が、いいのかな。
わからない。

…わからない?
わからないってなに。
前のあたしなら、絶対に意地でも永那と同じところにしたがったはず。
…いや。
“前のあたしなら”なんて、存在しない。
だって、穂と永那が出会わなければ、永那は高校卒業して働く予定だったんだし。
永那が働くってなったら、さすがに前のあたしでも別の道を行く。
そうなったら、本当に、あたし達は自然消滅みたいに関係が希薄になっていたと思う。
あたし達の関係は、中学・高校だけの、過去の友達になっていたのかも。

少しして、穂がご飯を作ってくれた。
3人で食べて、2人が家まで送ってくれる。
2人が手を繋いで歩く背中を見送って、あたしは家に入った。

お風呂に入って、ベッドに寝転ぶと、永那とのキスを思い出した。
胸を揉まれた感覚も。
玩具とは全然違う。
違うことは、穂に触れられてわかってはいたけど、穂と永那でも全然違うから驚いた。
目を閉じて、自分で自分の胸に触れてみる。
永那の手の感触を思い出して。
「ハァ」
息が漏れる。
右手をゆっくり下ろしていく。
ショーツに手を入れて、蕾に触れた。
もう少し下に移動すると、もう割れ目が濡れていた。
指の滑りを良くして、なかに指を挿れる。
あたしは、自分で指を挿れてイッたことは一度もない。
これが…この指が…永那のだったら、あたし、イけるのかな。
ふいに穂にキスされる感覚が蘇って、唾を飲んだ。
穂にキスされて、永那に胸を揉まれたら最高だな…なんて、変態みたいなことを考える。
まだ…恥部には、誰にもさわられたことがない。
だから、想像もできない。
「ハァ」
今度はため息だった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...