いたずらはため息と共に

常森 楽

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6.さんにん

354.クリスマス

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「穂、可愛い」
後頭部に何かが当たると同時に、チュッと音が響いた。
「私、穂のこと、飽きたりしないよ?」
「…うんっ」
彼女の指で中をクイックイッと押されて、足が震え始める。
「メイクは…すごく新鮮だった。そうやって、努力しようとしてくれるのも、好き」
…あと、1ヶ月。
こんな幸せな日々も、あと、1ヶ月。
永那ちゃんのお母さんが戻ってきたら、どんな日々を過ごすことになるんだろう?
また、永那ちゃんと触れ合える時間が短くなって、寂しさを感じたり、感じさせてしまったり、するのかな?
…嫌だな。
なんて、考える暇も与えられず、永那ちゃんが指を動かす。
「だめ…っ」
フフッと彼女が笑った。
「ぁっ…永、那ちゃん…!」
スルッと指が出て行って、深く息を吐く。
唇を尖らせて、彼女を睨む。
中途半端なさわり方に抗議するように。
でも彼女は何も気にしていないかのように、むしろ…楽しむように、両眉を上げて笑った。

洗い終えて、2人で湯船に浸かる。
「私もね、穂に飽きられないかな?って、ちょっと不安だったんだ」
「そうなの?」
「うん。こんなに毎日ずっと一緒にいたらさ…なんて言うか…」
彼女に後ろから抱きしめられて、顔が横に並んだ。
私が横を向くと、唇が触れ合う。
「飽きないよ。私、永那ちゃんのこと、たくさん知れて嬉しい」
「私もだよ!…穂と一緒にいると、安心するし」
安心…。
良かった。
そういう存在に、なりたかったから。
「穂に出会ってなかったら、私は…きっと、死んだように生きてたんだろうな」
「…死んだように?」
「そう。心を殺して、何もかも諦めて、適当に笑って、いろんなこと…誤魔化して。自分の気持ちを見て見ぬフリして…いつか、本当に、死んでたかも」
彼女が、憂いを帯びた目をして笑う。
「本当に誰かを大切にしたいとも思えていなかっただろうし、そもそも大切に出来てないことも気づけなかったと思う。修学旅行のときに、思ったんだ」
私を抱く彼女の手に、手を重ねる。
「私は、穂に出会えてラッキーだったな。本当に」
「私も、永那ちゃんに出会えてラッキーだったよ?」
お互いに見つめて、それから、笑い合った。

お風呂から出ると、お母さんはテーブルに顔を突っ伏して、寝る寸前だった。
「お母さん」
肩を揺らすと、お母さんは目をこすりながら起き上がる。
誉はテレビを見ていた。
「プレゼント、開けちゃおっか。お母さん、寝ちゃいそうだし」
そう言うと、誉と永那ちゃんが小躍りする。
お母さんはなんとか起きている…みたいな状態で、誉が自分の名前の書かれたプレゼントをクリスマスツリーの下から取るのを、ウトウトしながら見ていた。
永那ちゃんがプレゼントをジッと見つめて、喜びを噛みしめるように唇をすぼめた。
私も自分の分を取る。
中学生のときから毎年同じだから、察しはついている。
紙袋を開けて、中身を取り出す。
さわり心地で、もうわかる。
モコモコの、ニットだった。
今までは、出かける用事もなかったから、ただ服が溜まっていくばかりで申し訳ない気持ちにもなった。
でも、今は素直に嬉しい。

永那ちゃんにも服だった。
チェック柄のジャケット。
私がパンツをプレゼントしたときと同じように、着て、大事そうに生地を撫でていた。
誉には、ずっと欲しがっていたゲームソフト。
お母さんは私達の様子を眺めながら、楽しそうに笑っていた。
「お母さん、ありがとう」
私が言うと永那ちゃんと誉が続いて言う。
「いいよいいよー、みんなが喜んでくれて私も嬉しい」
お母さんはフラフラしながら、満足気な表情のままお風呂に入った。
「永那ちゃん、似合ってるね」
「ありがと。穂も着てみたら?」
そう言われて、服の上からニットを着る。
「可愛い」
抱きしめられる。

お母さんがお風呂から出て、それぞれ部屋に入った。
永那ちゃんとひとつのベッドで寝るのにも慣れて、目覚めた瞬間から好きな人の寝顔を見られるのが幸せ。
ベッドに座ると、永那ちゃんが鞄から何かを出して、隣に座った。
「穂」
「ん?」
「これ、クリスマスプレゼント」
「え!?いつの間に?」
「内緒~」
「アイマスクもあるのに、いいの?」
「まさか私のプレゼントが穂にわたると思ってなかったから」
「そっか…そうだよね」
2人で笑う。
「そんな、大した物じゃないんだけど」
包装紙を取ると、ステンドグラスのような栞と文庫本だった。
「穂、買うって言って、買えてなかったでしょ?この本」
「覚えてたの?」
嬉しくて、表紙を指で撫でる。
私は立ち上がって、クローゼットから袋を出す。
「私からも」
「わー!」
モコモコの靴下。永那ちゃんは寒がりだから。
彼女はさっそく靴下を履いて、ベッドに寝転ぶ。
「あったかい。ありがと」
優しく笑みを浮かべられて、弧を描く彼女の唇に唇を重ねた。
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