いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
529 / 595
8.閑話

44.永那 中2 夏《野々村風美編》

起き上がると、ペットボトルを渡された。
「ありがとう」
永那が笑みを浮かべながら頷く。
ゴクゴク飲んで、一息つくと、持っていたペットボトルを取られた。
永那はそのまま飲み始めて、また顔が熱くなる。
キス、何回もしてるのに…間接キスで恥ずかしがるなんて、私、子供みたい…。
友達とだって、普通に回し飲みとかしてるのに…どうして好きな人ってなるとこんなにドキドキするんだろう?
「受験勉強、大変ですか?」
「んー…そうだね。ちょっと大変になってきたかも」
「そうですか…。じゃあ、あんまり会わないほうがいいですね」
「え!?あ、いや…」
永那が首を傾げる。
「え、永那とは…会いたい。…ほら!気分転換も、必要でしょ?」
目をパチパチと瞬かせ、ジッと永那が見つめてくる。
「い、今だって…たぶん、勉強、ちょっと根詰め過ぎたというか…だから、たぶん、その、倒れちゃったんだと、思うし…。たまには、息抜きしないと」
「ふーん…」
ちょっと、嘘っぽかった…?
変な汗をかきはじめて、ハンカチをギュッと握る。
「なら、良かった!私も風美先輩に会いたいし」
“会いたい”の一言で、今すぐ踊りだしたくなるくらいに嬉しい。

「え、永那…?」
「はい」
「期末試験、どうだった?」
この話を早く切り上げたくて、違和感のない程度に、適当に話題転換する。
「普通でしたよ?」
「ふ、普通?普通って、どのくらい?」
「んー?どのくらいって言われても…」
「数学、何点だった?」
私の苦手科目そのいち。
「92です」
「え!?嘘!?」
永那は首を傾げて、「本当です」と嫌味なく笑った。
「じゃあ、社会は?」
永那は特別理系が得意なのかもしれない…!
「んー…98だったかな?」
ゴクリと唾を飲む。
なに、その成績…。
「英語は…?」
「90?」
ダメだ…頭が痛くなっきた…。
「え…風美先輩、成績悪かったんですか?」
「…いつも悪いですよ」
「そうなんですか?頭良さそうなのに」
「よく言われる…。でも、平均以下だよ…」
「ありゃまー」
「“ありゃまー”じゃないよ!」
ポコポコ永那の肩を叩くと、彼女がケラケラ笑った。
「もう、永那に勉強教えてもらったほうがいいのかも…」
「いいですよ?」
彼女がニヤリと笑って、予想外の返事に期待が膨らんだ。
「あ、でもさすがに受験勉強は教えられないか」
「ハハハ」と彼女が笑う。
「そもそも、あんまり基礎が出来てないから…」
「基礎?基礎を教えればいいんですか?」
「教えてくれるの…?」
「まあ…上手く教えられるかわからないですけど」

鞄から数学の参考書を出す。
永那が手を出してきたから乗せると、彼女は足を組んでパラパラとページを捲り始めた。
「ふーん。こんな感じなんだ」
一通り見終えると「どこがわからないんですか?」と聞いてくる。
「あ…あの…“どこが”っていうのが、そもそも、わからなくて」
「え!?」
「ごめんなさい…」
さすがの永那も困った顔をして、もう一度参考書を捲り始めた。
「これは、この前授業で習いましたよ。できます?」
「えーっと…」
文章問題…苦手なやつだ…。
「ま、まず…クラスの男子と女子の人数を聞かれてるから…男子をx、女子をyとして…」
緊張する…。
永那を見ると、頷いてくれる。
「クラスの人数が31人だから…x+y=31で…」
覚えられなくなって、ノートとシャープペンを出す。
今言った内容を書き記していく。
「んー…男子の4割と女子の5割、合わせて14人だから…x✕4/100で…」
「“割”だから100じゃなくて10ですね。100は%の時です」
「あっ、そっか…」
手汗がすごくて、シャープペンが滑る。
そのまま解くと、「なんだ、できるじゃないですか」と永那が笑った。
正確には、できてない…。
途中で間違いを指摘されたから正解しただけで…。
「こ、これはね…一応…」
わかってはいても、“できるじゃないですか”と言われて、まるでうっかりミスみたいなフリをしてしまう。

「あ…あのさ…入試で食塩水の問題とかがよく出るみたいなんだけど、未だにちょっと理解できてなくて…」
「あー…あれは公式覚えるやつですよね」
永那が参考書をまた捲って、食塩水の問題が載っているところを開く。
…なぜ、こんなことに。
気分転換したかったのに、普通に勉強してる…。
「濃度6%の食塩水Aと濃度14%の食塩水Bがある。食塩水Aと食塩水Bを」
永那は早口で文章題を読んで“ふーん”と一度頷く。
「はい」
渡されて、ギクッとする。
「えーっと…水の重さを聞かれてるから…水がx…」
「ん?xとyにするのは食塩水AとBの重さですよ。じゃないと式が書けません」
言われた通りにしてみるけど、その先がわからず、手が止まる。
それを見て、永那がツラツラと解説してくれるけど、あまり内容が頭に入ってこない。

「あー…やっぱり私、教えるの下手ですよね?」
永那が苦笑する。
「ううん!そ、そんなことないよ!…私が、理解力ないだけで」
それに、説明してくれる永那は、なんだかすごくかっこよくて、それを見られるだけで嬉しいと思った。
「なんか、恥ずかしいよ…。こんなに勉強できなくて…」
感想 56

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! ✽全28話完結 ✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 ✽他誌にも掲載中です。 ✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。 →表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。