いたずらはため息と共に

常森 楽

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8.閑話

53.永那 中2 秋〜中3 秋《野々村風美編》

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「…どうして、あんなところでしちゃったんだろう?とは思う」
「え?」
「家族に見られる可能性があるなんて、普通に考えればわかることなのに、なんで、あんなところで、あんなこと、しちゃったんだろうね?私。ホント、自分が馬鹿で嫌になる」
「その…本当に、付き合ってたの?」
鼻で笑う。
「そんなわけ、ないでしょ…」
胸が、ズキズキと痛む。
涙が滝のように溢れ出ていく。
「もう、出て行って」
また布団を被った。
ドアが閉まる。
…自分が、嫌い。
永那に全部背負わせて、永那が全部解決してくれて、私はただ逃げて…。
本当は少し、嬉しかったのかも。
“永那と付き合ってる”なんて噂、ちょっとだけ、嬉しかったのかも。
だから死にたいとは思わなかった。
でも嬉しい以上に、私は目立ちたくなかった。
自分の意図しないところで、勝手に私の話をされるのが嫌だった。怖かった。

翌日、久しぶりに自分の姿を鏡で見た。
髪はぐしゃぐしゃだし、肌はギトギト。
数日間、お風呂にも入っていなかった。
ニキビが出来ている。
何日ぶりかのお風呂に入って、気持ちが少しスッキリした。
体重計に乗ると、5キロ以上痩せていた。
胸も小さくなっている気がする。

そしてそのまた翌日、私は学校に行った。
始業式に感じたような視線は全くなく、ホッとする。
でも教室に入る前は、怖かった。
怖くて、帰ろうかと思った。
「風美!」
友達に肩を抱かれる。
「風美~!心配したんだよ~!も~!…わ!痩せた!?ダイエットしてたんか~?この~!」
わかってるくせに…。
頬が緩む。
教室に入ると、一瞬クラスメイトから見られたけれど、普段通りだった。

「私、寮のある学校に進学しようかな」
「え?突然どうした?」
「家族から、離れたいの」
「ウチとは!?」
「それは…離れたくないけど」
「ふぁ~、安心した~」
「なんか…食べ物の研究とかしたいかも」
「食べ物!?」
「うん…農業系の学校とか、どうかな?」
「え、え~…大変そう…」
「美味しいご飯作ってさ?みんなを喜ばせるの」
「ん~、まあ…風美がそうしたいんなら、いいんではないでしょうか?」
「うん」

卒業するまでに、何度も永那を見た。
いつも女の子に囲まれていて、“彼女は作らない宣言”をしていた。
たまに目が合った。
優しく微笑まれて、やっぱり好きだと、何度も思った。
だから、もう一度告白した。
「好きです。私と付き合ってください!」
友人達に陰で見守られながら。
「ごめんなさい。私、彼女は作らない主義なんだ」
「そっか…。わかった、ありがとう」
彼女は1度頷いて、立ち去った。
私が泣き崩れると、みんなが抱きしめてくれた。
「よく頑張った!」「頑張ったぞ~!風美!」「えらいえらい!」
まるで子供みたいに、頭をぐしゃぐしゃに撫で回された。

希望した学校に合格出来て、私は中学卒業と共にこの街を去った。
お母さんもお父さんもお見送りの時に泣いていて、案外私って愛されてるんだなって実感できた。
妹はずっと気まずそうにしていた。
前までの威勢はなくなって、わがままも言わなくなっていた。
「羽美」
見つめられる。
久しぶりに彼女をちゃんと見た気がした。
「お姉ちゃん、頑張るからね。羽美も、頑張って」
「うん」
彼女と抱きしめ合った。
体つきは、ちゃんと運動している子の体で、テニスを頑張っているのだとすぐにわかった。
悪い子なわけじゃない。わかってる。
でも、どうしても相容れない。そんなことはあると思う。例え、家族だとしても。
もしかしたら、いつか、大人になった時、ようやく仲良くあれるのかもしれないし…大人になっても相容れないものは相容れないのかもしれない。
そんなの、誰にもわからない。
だからとりあえず、今はこれで良い。
この距離感で、良い。

高校生活が始まると、慣れない環境で、毎日必死だった。
あっという間に半年経った頃、妹からメッセージが送られてきた。
『今更いらない情報かもしんないけど、永那先輩、今結構ヤバいかも。いろんな子に手出しまくってるって噂…。私も、ちょっと手出されそうになった…。先生からも問題視されてるっぽくて、完全に暴走状態だよ』
暴走状態…?永那が?想像できない。
『なんでそんなことになってるの?』
『わかんない。…けど、永那先輩、成績はめちゃくちゃ良いらしくて、誰かをいじめてるわけでもないから、先生達も困ってるらしくて。もしお姉ちゃんが連絡とか取ってるなら、なんか言ってあげてくんない?』
『連絡は全然とってないけど、してみるね』
『ありがとう!』
…ありがとう?
妹からそんな言葉を言われる日が来るとは思わなかった。

久しぶりに見る、永那の連絡先。
通話ボタンを押しても、彼女は出なかった。
『永那、大丈夫?羽美が心配してるみたいなんだけど、何か話したいことがあれば聞くよ?』
返事は翌日だった。
『大丈夫!ありがと!風美元気?』
やっぱり、彼女は何も言わない。言ってくれない。
『元気だよ』
『良かった!私も元気!』
嘘つき…。
『永那、いつか、自分の気持ちを素直に言える相手に巡り会えるといいね』
『どういう意味?』
『頭良いんでしょ?考えて』
それから他愛ない話をして、メッセージは終わった。
私の恋する気持ちも、いつの間にか終わっていた。
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