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7.向
473.序開
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誉の声で目が覚めた。
何度か体験した、このヒヤリとする感覚には未だ慣れない。
部屋のドアを閉めて、慌てて服を着る。
既に筋肉痛で体が痛い。
永那ちゃんを叩き起こして、彼女が不機嫌になってしまった。
「ごめんね…」
謝ると、「キスしてくれたら許してあげる」と囁かれたので、素直にキスをした。
2人で部屋を出ると、誉に白い目で見られた気がして、目をそらす。
「明日、デートしてくるから…!」
ついでに話題もそらして、なんとか誤魔化した(つもり)。
翌日、少し遠出した。
久しぶりのちゃんとしたデートに私達は心が弾んで、箸が転がっても笑える気さえした。
ポカポカの陽気に包まれて、恋人繋ぎをしながら歩く。
「穂、ジェットコースターがあるね!」
彼女がスマホでマップを調べて、言う。
「それは…乗らないよ?」
「えー?穂、乗れるようになったんじゃないの?」
「…今日は、気分じゃないの」
「ふーん?」
電車を降りて、改札を出ると、海が目の前に広がっていた。
永那ちゃんが走り出すから、私も走る。
「穂!穂!」
海水に手をつけて、彼女がはしゃぐ。
私も手をつけると、水の冷たさが心地よかった。
しばらく楽しんだ後、永那ちゃんがベンチに腰掛けた。
太陽に照りつけられる海面を眩しそうに眺めながら、釣りでもしているおじさんみたいな格好で座っていた。
「永那ちゃんは、海が好きなんだね」
「うん。穂は?」
「私も好きだよ。水族館の方がもっと好きだけど」
「魚が見れるから?」
「うん」
「穂は真面目だな~」
「真面目っていうのかな?」
「いういう。解説もいつも熱心に読んでるし、真面目以外の何ものでもないでしょ」
「それ、褒めてる?」
「褒めてるよ。いつも可愛いな~って思ってる」
「私、永那ちゃんと一緒に水族館行くようになってから、エイが好きになったんだ。だから、水族館が好き」
「…可愛い」
彼女の肩に頭を預け、目を閉じる。
波の音、木々が風に揺れる音、鳥の鳴き声、子供の笑い声…。
全部を体に吸収するみたいに、深呼吸した。
眠ってしまいそうになった頃、永那ちゃんが「行こっか」と言うから渋々立ち上がる。
永那ちゃんに寄りかかるようにして歩くと、彼女が楽しそうに笑った。
たくさん歩いて、たくさん食べて、たくさん笑って…。
気づけば夕暮れ時で、私達はまた走って電車に乗り込んだ。
「帰宅ラッシュになっちゃったね」
ギュウギュウの電車に揉まれながら、永那ちゃんが私を守るように抱きしめてくれる。
「大丈夫」って言ったのに、彼女が家まで送ってくれた。
「デートだよ?彼女を家に送るまでがデートでしょ?」とか言っていた。
マンションの出入口で彼女を見送ろうとしたら、そっとキスされて、胸がキュッと締め付けられる。
「好き」
「私も好きだよ、穂」
「まだ一緒にいたい」
彼女の瞳がキラリと光った気がした。
「なにそれ…今すぐ食べちゃいたい」
ギュッと抱きしめられる。
「いいよ?」
「ハァ~、穂は、まったくもう…。あなた生理でしょ?なんでそんな可愛いこと言うの?食べたくても食べられないでしょ?」
フフッと笑う。
してやったり!
「おあずけ」
「おあずけ~?」
パクッと耳をしゃぶられ、舐められる。
「くすぐったい…!」
「食べられるとこだけ食べといた」
彼女が離れる。
まだ一緒にいたくて、彼女の手を握る。
…でも。これ以上のわがままはダメ。
ふぅっと息を吐いて、彼女を見つめる。
「また明日ね、永那ちゃん」
「うん、また明日。明日から勉強再開だね?」
「うん」
「じゃあ…おやすみ、穂」
「おやすみ、永那ちゃん。気をつけて帰ってね」
「うん」
彼女の背を見送る。
何度か振り向いてくれて、手を振ってくれるから、振り返す。
いつものように、彼女が見えなくなってから家に帰った。
金曜日は1日かけて入学式の準備が行われた。
念のため、新1年生の教室を見て回り、机の中やロッカーに私物が残っていないかチェックした。
事前に先生がチェックしてくれていたので特に問題はなく、滞りなく準備は進んだ。
土曜日、入学式当日。
期待と不安が入り混じった表情をした子達が校門をくぐっていくのが生徒会室から見えた。
私はどうだったかな?
新入生代表挨拶のことで頭がいっぱいだったかもしれない。
まさか恋人が出来るなんて、あの時は少しも思っていなかった。
中学の時と変わらない日常が待っているのだと信じて疑わなかった。
実際、2年生になるまではそうだった。
1年生から2年生に上がる春休みも、特に何も考えてはいなかった。
ワクワクもドキドキもせず、ただ日常を当たり前に過ごした。
2年生から3年生に上がる今年はどうだったかと言えば、結局春休み終盤は生理で、エッチ三昧なんてことになるわけでもなく、勉強をして過ごした。
“永那ちゃんがいる”という日常が追加されただけの感覚だったように思う。
前半は…それはそれは刺激的だったけれど…。
千陽とも…まさか、関係を持つようになるなんて、そんな未来、誰が想像できただろう?
永那ちゃんは私達を“親友”だと言った。
私にはまだ答えがわからず、戸惑いもある。
でも、きっといつか答えが出る。
答えが出るその日まで、精一杯考えて、精一杯自分なりに毎日を送る。
結局、戸惑いながらも、日常を送るしかない。
きっとあなた達にも新しい出会いがあって、変化があって、成長があるんだね。
そんなあたたかな気持ちを抱きながら、在校生代表挨拶を終えた。
また私達の日常が始まる。
今年はどんな年になるのかな?
みんなで笑っていられるといいな。
何度か体験した、このヒヤリとする感覚には未だ慣れない。
部屋のドアを閉めて、慌てて服を着る。
既に筋肉痛で体が痛い。
永那ちゃんを叩き起こして、彼女が不機嫌になってしまった。
「ごめんね…」
謝ると、「キスしてくれたら許してあげる」と囁かれたので、素直にキスをした。
2人で部屋を出ると、誉に白い目で見られた気がして、目をそらす。
「明日、デートしてくるから…!」
ついでに話題もそらして、なんとか誤魔化した(つもり)。
翌日、少し遠出した。
久しぶりのちゃんとしたデートに私達は心が弾んで、箸が転がっても笑える気さえした。
ポカポカの陽気に包まれて、恋人繋ぎをしながら歩く。
「穂、ジェットコースターがあるね!」
彼女がスマホでマップを調べて、言う。
「それは…乗らないよ?」
「えー?穂、乗れるようになったんじゃないの?」
「…今日は、気分じゃないの」
「ふーん?」
電車を降りて、改札を出ると、海が目の前に広がっていた。
永那ちゃんが走り出すから、私も走る。
「穂!穂!」
海水に手をつけて、彼女がはしゃぐ。
私も手をつけると、水の冷たさが心地よかった。
しばらく楽しんだ後、永那ちゃんがベンチに腰掛けた。
太陽に照りつけられる海面を眩しそうに眺めながら、釣りでもしているおじさんみたいな格好で座っていた。
「永那ちゃんは、海が好きなんだね」
「うん。穂は?」
「私も好きだよ。水族館の方がもっと好きだけど」
「魚が見れるから?」
「うん」
「穂は真面目だな~」
「真面目っていうのかな?」
「いういう。解説もいつも熱心に読んでるし、真面目以外の何ものでもないでしょ」
「それ、褒めてる?」
「褒めてるよ。いつも可愛いな~って思ってる」
「私、永那ちゃんと一緒に水族館行くようになってから、エイが好きになったんだ。だから、水族館が好き」
「…可愛い」
彼女の肩に頭を預け、目を閉じる。
波の音、木々が風に揺れる音、鳥の鳴き声、子供の笑い声…。
全部を体に吸収するみたいに、深呼吸した。
眠ってしまいそうになった頃、永那ちゃんが「行こっか」と言うから渋々立ち上がる。
永那ちゃんに寄りかかるようにして歩くと、彼女が楽しそうに笑った。
たくさん歩いて、たくさん食べて、たくさん笑って…。
気づけば夕暮れ時で、私達はまた走って電車に乗り込んだ。
「帰宅ラッシュになっちゃったね」
ギュウギュウの電車に揉まれながら、永那ちゃんが私を守るように抱きしめてくれる。
「大丈夫」って言ったのに、彼女が家まで送ってくれた。
「デートだよ?彼女を家に送るまでがデートでしょ?」とか言っていた。
マンションの出入口で彼女を見送ろうとしたら、そっとキスされて、胸がキュッと締め付けられる。
「好き」
「私も好きだよ、穂」
「まだ一緒にいたい」
彼女の瞳がキラリと光った気がした。
「なにそれ…今すぐ食べちゃいたい」
ギュッと抱きしめられる。
「いいよ?」
「ハァ~、穂は、まったくもう…。あなた生理でしょ?なんでそんな可愛いこと言うの?食べたくても食べられないでしょ?」
フフッと笑う。
してやったり!
「おあずけ」
「おあずけ~?」
パクッと耳をしゃぶられ、舐められる。
「くすぐったい…!」
「食べられるとこだけ食べといた」
彼女が離れる。
まだ一緒にいたくて、彼女の手を握る。
…でも。これ以上のわがままはダメ。
ふぅっと息を吐いて、彼女を見つめる。
「また明日ね、永那ちゃん」
「うん、また明日。明日から勉強再開だね?」
「うん」
「じゃあ…おやすみ、穂」
「おやすみ、永那ちゃん。気をつけて帰ってね」
「うん」
彼女の背を見送る。
何度か振り向いてくれて、手を振ってくれるから、振り返す。
いつものように、彼女が見えなくなってから家に帰った。
金曜日は1日かけて入学式の準備が行われた。
念のため、新1年生の教室を見て回り、机の中やロッカーに私物が残っていないかチェックした。
事前に先生がチェックしてくれていたので特に問題はなく、滞りなく準備は進んだ。
土曜日、入学式当日。
期待と不安が入り混じった表情をした子達が校門をくぐっていくのが生徒会室から見えた。
私はどうだったかな?
新入生代表挨拶のことで頭がいっぱいだったかもしれない。
まさか恋人が出来るなんて、あの時は少しも思っていなかった。
中学の時と変わらない日常が待っているのだと信じて疑わなかった。
実際、2年生になるまではそうだった。
1年生から2年生に上がる春休みも、特に何も考えてはいなかった。
ワクワクもドキドキもせず、ただ日常を当たり前に過ごした。
2年生から3年生に上がる今年はどうだったかと言えば、結局春休み終盤は生理で、エッチ三昧なんてことになるわけでもなく、勉強をして過ごした。
“永那ちゃんがいる”という日常が追加されただけの感覚だったように思う。
前半は…それはそれは刺激的だったけれど…。
千陽とも…まさか、関係を持つようになるなんて、そんな未来、誰が想像できただろう?
永那ちゃんは私達を“親友”だと言った。
私にはまだ答えがわからず、戸惑いもある。
でも、きっといつか答えが出る。
答えが出るその日まで、精一杯考えて、精一杯自分なりに毎日を送る。
結局、戸惑いながらも、日常を送るしかない。
きっとあなた達にも新しい出会いがあって、変化があって、成長があるんだね。
そんなあたたかな気持ちを抱きながら、在校生代表挨拶を終えた。
また私達の日常が始まる。
今年はどんな年になるのかな?
みんなで笑っていられるといいな。
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