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7.向
479.序開
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中学の時、後輩の女の子に初めて告白された。
元々色んな子から「かっこいい」って言われてきたけど、実際に告白されたのは初めてだった。
小学生の時からサッカーをやっていたし、男っぽく見られることは多かった。
知らない人に話しかけられた時、よく男子に間違えられたけど、男だと思われることを気にしたことはなかった。
なんなら“男になれたらいいのに”って思っていた時期もあったくらい。
…今でも、たまに思うかな。
だって絶対、力の強さや足の速さでは、男に勝てないのだから。
小学生の時は、あまり差を感じなかったけど、中学に入ると顕著に差が出始めた。
自分は男みたいではあっても、男にはなれないのだと、絶望もした。
自分が、女子が好きなのか男子が好きなのか、わからなかった。
そもそも“好き”って感覚が、よくわからなかった。
サッカーに夢中だったし、サッカーさえ出来ればそれで満足だった。
だから女子サッカー部のある高校に行こうと思ってた。
でも足を怪我して、諦めた。
そんなに大した怪我じゃなかった。
医者からは、リハビリすればまたサッカーが出来ると言われた。
なのに、ウチはもぬけの殻みたいになって、何もしなくなった。
親は心配した。
でもどうしてもやる気が戻ってこなかった。
“夢中”が戻ってこなかった。
だから、なんとなく、曖昧にしていた告白の返事をした。
「付き合おっか」と。
サッカーを失った心の穴を、彼女で埋めようとしたんだ。
彼女は必死にウチを支えてくれようとした。
またサッカーが出来るようにって応援してくれた。
でもその応援がプレッシャーに変わって、ストレスになって、彼女を傷つけた。
それで、喧嘩別れみたいになって、ウチの初めての恋愛は呆気なく終了した。
泣きもしなかった。
“恋愛”とは呼べない代物だったのかもしれない。
それでも、感謝はしてる。
彼女が初めてウチにキスした時、ドキドキしたんだ。
ゴールした時の感覚とは全然違ったけど、それでも、初めてサッカー以外で興奮した。
柔らかい唇。
緊張して潤んだ瞳。
少し震えた手。
“恋愛”ってこんな感じなんだっていうのを教えてくれた人だった。
だから感謝してる。
彼女とは1年弱付き合って、別れてから3ヶ月後に別の子に告白された。
その子も後輩だった。
前の彼女と同じように、べつに好きだったわけじゃなかったけど、付き合ってる内に好きになれるかもって思ってOKした。
2人目には、私からキスをした。
彼女が喜ぶから、少し、心が満たされた気がした。
それから同性で付き合うことについて色々調べてみて、よくわからないながらも、その子との付き合いを続けた。
前の子と違ってサッカーの話題に触れてこなかったし、純粋にウチと一緒にいるのを楽しそうにしてくれたから、段々自分も楽しいと思えるようになった。
たまに友達にからかわれるのがウザったかったけど、それ以外に特に不満もなく、ウチが中学を卒業してからも恋人関係は続いた。
今でも、続いている。
もう付き合って2年ちょっとになる。
2年も付き合っていれば、当然、セックスも経験済みだ。
最初は戸惑いながらだったけど、最近は御手の物。
色々調べた努力の賜物だ。
彼女は同じ高校に進学して、同じ部活に入っている。
彼女が「卓球部がいい」と言ったから、なぜか卓球部だ。
弱小も弱小で、お遊び同然の部活。
バスケ部、バレー部、バドミントン部が試合に向けて励む中、体育館の隅を借りて、ウチらは楽しくワイワイやっている。
楽しくやっている、けど、ウチには秘密があった。
高校入学と同時に、初恋を経験してしまったのだ。
廊下ですれ違う度にドキドキして、つい目で追ってしまう。
「これが初恋か…!」と気付いた時、彼女への罪悪感が膨らんだ。
別れを切り出そうかとも思った。
でも、初恋の人には、相手がいることを知った。
それから、この想いは誰にも告げないと決意した。
彼女にも別れを告げなかった。
だから今でも彼女との関係が続いている。
彼女とキスしてる時、たまに初恋の人を思い浮かべてしまうのは秘密。
彼女とセックスしてる時、初恋の人だったら…と思ってしまうことがあるのも秘密。
違うクラスだから、どうしたら仲良くなれるか必死に考えたことがあるのも秘密。
1度も話したこともない、その人と、話してみたい。
そんな浮ついたウチの気持ちに、彼女は気づいているのかいないのか、ウチが高校に入学した後から、少し束縛されるようになった。
「今何してるの?」とか「友達はどんな子?」とか「学校で“かっこいい”って言われてない?」とか、頻繁に聞かれた。
会うとスマホをチェックされることもあったけど、初恋の人と話したことすらないのだから、何かが出てくるはずもなく、次第に彼女は不安がらなくなった。
彼女が進学してからは、付き合いたての頃と同じように、ただ平和に楽しく過ごした。
それでも…やっぱり…心のどこかで初恋を追っている自分がいた。
中学の時、後輩の女の子に初めて告白された。
元々色んな子から「かっこいい」って言われてきたけど、実際に告白されたのは初めてだった。
小学生の時からサッカーをやっていたし、男っぽく見られることは多かった。
知らない人に話しかけられた時、よく男子に間違えられたけど、男だと思われることを気にしたことはなかった。
なんなら“男になれたらいいのに”って思っていた時期もあったくらい。
…今でも、たまに思うかな。
だって絶対、力の強さや足の速さでは、男に勝てないのだから。
小学生の時は、あまり差を感じなかったけど、中学に入ると顕著に差が出始めた。
自分は男みたいではあっても、男にはなれないのだと、絶望もした。
自分が、女子が好きなのか男子が好きなのか、わからなかった。
そもそも“好き”って感覚が、よくわからなかった。
サッカーに夢中だったし、サッカーさえ出来ればそれで満足だった。
だから女子サッカー部のある高校に行こうと思ってた。
でも足を怪我して、諦めた。
そんなに大した怪我じゃなかった。
医者からは、リハビリすればまたサッカーが出来ると言われた。
なのに、ウチはもぬけの殻みたいになって、何もしなくなった。
親は心配した。
でもどうしてもやる気が戻ってこなかった。
“夢中”が戻ってこなかった。
だから、なんとなく、曖昧にしていた告白の返事をした。
「付き合おっか」と。
サッカーを失った心の穴を、彼女で埋めようとしたんだ。
彼女は必死にウチを支えてくれようとした。
またサッカーが出来るようにって応援してくれた。
でもその応援がプレッシャーに変わって、ストレスになって、彼女を傷つけた。
それで、喧嘩別れみたいになって、ウチの初めての恋愛は呆気なく終了した。
泣きもしなかった。
“恋愛”とは呼べない代物だったのかもしれない。
それでも、感謝はしてる。
彼女が初めてウチにキスした時、ドキドキしたんだ。
ゴールした時の感覚とは全然違ったけど、それでも、初めてサッカー以外で興奮した。
柔らかい唇。
緊張して潤んだ瞳。
少し震えた手。
“恋愛”ってこんな感じなんだっていうのを教えてくれた人だった。
だから感謝してる。
彼女とは1年弱付き合って、別れてから3ヶ月後に別の子に告白された。
その子も後輩だった。
前の彼女と同じように、べつに好きだったわけじゃなかったけど、付き合ってる内に好きになれるかもって思ってOKした。
2人目には、私からキスをした。
彼女が喜ぶから、少し、心が満たされた気がした。
それから同性で付き合うことについて色々調べてみて、よくわからないながらも、その子との付き合いを続けた。
前の子と違ってサッカーの話題に触れてこなかったし、純粋にウチと一緒にいるのを楽しそうにしてくれたから、段々自分も楽しいと思えるようになった。
たまに友達にからかわれるのがウザったかったけど、それ以外に特に不満もなく、ウチが中学を卒業してからも恋人関係は続いた。
今でも、続いている。
もう付き合って2年ちょっとになる。
2年も付き合っていれば、当然、セックスも経験済みだ。
最初は戸惑いながらだったけど、最近は御手の物。
色々調べた努力の賜物だ。
彼女は同じ高校に進学して、同じ部活に入っている。
彼女が「卓球部がいい」と言ったから、なぜか卓球部だ。
弱小も弱小で、お遊び同然の部活。
バスケ部、バレー部、バドミントン部が試合に向けて励む中、体育館の隅を借りて、ウチらは楽しくワイワイやっている。
楽しくやっている、けど、ウチには秘密があった。
高校入学と同時に、初恋を経験してしまったのだ。
廊下ですれ違う度にドキドキして、つい目で追ってしまう。
「これが初恋か…!」と気付いた時、彼女への罪悪感が膨らんだ。
別れを切り出そうかとも思った。
でも、初恋の人には、相手がいることを知った。
それから、この想いは誰にも告げないと決意した。
彼女にも別れを告げなかった。
だから今でも彼女との関係が続いている。
彼女とキスしてる時、たまに初恋の人を思い浮かべてしまうのは秘密。
彼女とセックスしてる時、初恋の人だったら…と思ってしまうことがあるのも秘密。
違うクラスだから、どうしたら仲良くなれるか必死に考えたことがあるのも秘密。
1度も話したこともない、その人と、話してみたい。
そんな浮ついたウチの気持ちに、彼女は気づいているのかいないのか、ウチが高校に入学した後から、少し束縛されるようになった。
「今何してるの?」とか「友達はどんな子?」とか「学校で“かっこいい”って言われてない?」とか、頻繁に聞かれた。
会うとスマホをチェックされることもあったけど、初恋の人と話したことすらないのだから、何かが出てくるはずもなく、次第に彼女は不安がらなくなった。
彼女が進学してからは、付き合いたての頃と同じように、ただ平和に楽しく過ごした。
それでも…やっぱり…心のどこかで初恋を追っている自分がいた。
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