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9.移ろい
520.大人
何かが肩に触れ、目を開ける。
千陽の長い睫毛が見えて、視線を横にずらすと、永那ちゃんが睨むように私達のそばにいた。
「私もする」
その声に反応して、千陽も目を開けた。
永那ちゃんが入れるように1度離れ、正三角形に座る。
頂点が中心に向かうように、3人同時に動く。
口端が触れ合う。
何度目かの3人でのキス。
永那ちゃんのであろう舌が、私達を繋げるみたいに私達の唇を這う。
導かれるように、私も舌を出す。
千陽の舌も絡まり、どれが誰のものかわからなくなる。
混ざり合って、絡まり合って、しっかり繋がり合う。
ドアがノックされ、肩が上がる。
繋がり合ったはずの私達は、呆気なく離れ離れになった。
「千陽~、パパが呼んでるんだけど?」
「ん、待って」
千陽がため息をつく。
立ち上がり、全身鏡の前で顔や髪、服をチェックする。
軽く化粧を直して、振り向く。
「行こ」
頷いて、私が立ち上がろうとすると、手を引っ張られた。
項を掴まれ、永那ちゃんに強引にキスされる。
彼女はすぐに引き下がり、私を見下ろすように顎を上げた。
その冷ややかな視線に、私は前髪を梳いた。
…まだ怒ってる。
永那ちゃんが立ち上がり、私もそれに続く。
ドアを開けると、既に千陽のお母さんはいなかった。
階段を下りると、千陽のお父さんが両手を広げて千陽を抱きしめた。
「千陽、何やってたんだよ」
「お化粧直し」
「ま、それは仕方ないか。…何名かお帰りになるから、玄関までお見送りして」
「はい」
千陽とお母さんの腰を抱いて、千陽のお父さんは満悦そうな表情だ。
2組の夫婦と一緒に廊下に消えていく。
「あ、ケーキまだ残ってる!」
「良かったね」
「ラス1だよ、ギリギリ」
永那ちゃんの機嫌が少し良くなってホッとする。
最後の1つだったことで、尚のこと嬉しいみたいだった。
「穂、一口いる?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
私の返事に、不服そうに頬を膨らませる。
「お腹いっぱいなの」
「ふーん?」
永那ちゃんはテーブルに寄りかかりながら大きな一口を口に運んだ。
一歩、永那ちゃんに近づく。
肩が触れ合うから、ほんの少し寄りかかる。
「好きだよ…」
彼女だけに聞こえるように言う。
「冷たくしているつもりは、ないけど…そう感じさせてしまったなら、ごめんなさい」
彼女が二口目を食べるので、上目遣いに彼女の顔を見た。
唇にクリームをつけながら、私を見下ろす。
さっきまでの冷たさは感じない。
フォークを持った手が近づいてくる。
その先には何も刺さっていない。
何をするのかと、体を起こす。
彼女の冷たい指が首筋をツーッと撫でる。
ひんやりしているから、ゾワゾワと鳥肌が立った。
「これ」
永那ちゃんは口の中のケーキを飲み込む。
食べ物が喉を通っていくのが見えて、“もっと噛んで”と言いたくなる。
「私がつけたの」
「え?」
「これ」
彼女は冷たい指先で首に触れ続ける。
指先を包み込むように、手の平で首を擦る。
「このシミになってるの」
「…ああ、最初のね」
初めて永那ちゃんにキスされた日。
去年の体育祭の終わり。
あの日つけられたキスマークはまだ残っている。
内出血がシミのようになって、痕になっている。
点々と大小様々なシミが1箇所に集中していた。
全然消えそうにない。
「他の時のは痕になってないのに、どうしてここだけ残ってるんだろう?」
「そこが特別皮膚が薄いところだからじゃない?」
「そういうもの?」
「知らない」
「永那ちゃんがつけたのに?」
「うん。私はそういうのには詳しくないの」
「少なくとも、私よりは詳しいと思うけど」
ソファに座っていた久米さんが立ち上がり、目が合う。
永那ちゃんは気にせず、三口目を口に放り込んでいた。
ケーキを三口で食べるなんて…。
最初に話しかけられた時と同様の笑顔で、久米さんは私達に近づいてきた。
「ねえ、2人はゲームとかする?」
「私は、しません」
「私も」
永那ちゃんが久米さんに背を向け、テーブルのご飯をお皿によそっていく。
もう部屋にいる大人達は食事を終えたらしく、ほとんどがお酒だけを片手に持っていた。
「僕が開発したゲームアプリがあるんだけど、やってみない?」
「私の家Wi-Fiないんで、ゲームは出来ないですね」
「あ、そうなの?今どき珍しいね。Wi-Fiないと厳しくない?…スマホのプランによっては、それでも平気なのかな?」
「プランも、最低限のやつですよ。だから、ゲームなんてやったら、終わりです」
久米さんが苦笑する。
「まあ、カフェとか駅とか行ったら無料のWi-Fiあるしさ?とりあえずインストールしてみてよ。穂ちゃんも、ね?」
特に断る理由もないので、スマホを出して、言われた通りにインストールしてみる。
永那ちゃんは「私はいいです」とご飯を食べ続けた。
インストールしている最中に、千陽達が戻ってきた。
お父さんが千陽の頭を抱き寄せ、こめかみにキスをする。
千陽と目が合う。
心底鬱陶しそうだった。
“お疲れ様”という気持ちを込めて笑みを浮かべると、彼女の頬が緩む。
千陽の長い睫毛が見えて、視線を横にずらすと、永那ちゃんが睨むように私達のそばにいた。
「私もする」
その声に反応して、千陽も目を開けた。
永那ちゃんが入れるように1度離れ、正三角形に座る。
頂点が中心に向かうように、3人同時に動く。
口端が触れ合う。
何度目かの3人でのキス。
永那ちゃんのであろう舌が、私達を繋げるみたいに私達の唇を這う。
導かれるように、私も舌を出す。
千陽の舌も絡まり、どれが誰のものかわからなくなる。
混ざり合って、絡まり合って、しっかり繋がり合う。
ドアがノックされ、肩が上がる。
繋がり合ったはずの私達は、呆気なく離れ離れになった。
「千陽~、パパが呼んでるんだけど?」
「ん、待って」
千陽がため息をつく。
立ち上がり、全身鏡の前で顔や髪、服をチェックする。
軽く化粧を直して、振り向く。
「行こ」
頷いて、私が立ち上がろうとすると、手を引っ張られた。
項を掴まれ、永那ちゃんに強引にキスされる。
彼女はすぐに引き下がり、私を見下ろすように顎を上げた。
その冷ややかな視線に、私は前髪を梳いた。
…まだ怒ってる。
永那ちゃんが立ち上がり、私もそれに続く。
ドアを開けると、既に千陽のお母さんはいなかった。
階段を下りると、千陽のお父さんが両手を広げて千陽を抱きしめた。
「千陽、何やってたんだよ」
「お化粧直し」
「ま、それは仕方ないか。…何名かお帰りになるから、玄関までお見送りして」
「はい」
千陽とお母さんの腰を抱いて、千陽のお父さんは満悦そうな表情だ。
2組の夫婦と一緒に廊下に消えていく。
「あ、ケーキまだ残ってる!」
「良かったね」
「ラス1だよ、ギリギリ」
永那ちゃんの機嫌が少し良くなってホッとする。
最後の1つだったことで、尚のこと嬉しいみたいだった。
「穂、一口いる?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
私の返事に、不服そうに頬を膨らませる。
「お腹いっぱいなの」
「ふーん?」
永那ちゃんはテーブルに寄りかかりながら大きな一口を口に運んだ。
一歩、永那ちゃんに近づく。
肩が触れ合うから、ほんの少し寄りかかる。
「好きだよ…」
彼女だけに聞こえるように言う。
「冷たくしているつもりは、ないけど…そう感じさせてしまったなら、ごめんなさい」
彼女が二口目を食べるので、上目遣いに彼女の顔を見た。
唇にクリームをつけながら、私を見下ろす。
さっきまでの冷たさは感じない。
フォークを持った手が近づいてくる。
その先には何も刺さっていない。
何をするのかと、体を起こす。
彼女の冷たい指が首筋をツーッと撫でる。
ひんやりしているから、ゾワゾワと鳥肌が立った。
「これ」
永那ちゃんは口の中のケーキを飲み込む。
食べ物が喉を通っていくのが見えて、“もっと噛んで”と言いたくなる。
「私がつけたの」
「え?」
「これ」
彼女は冷たい指先で首に触れ続ける。
指先を包み込むように、手の平で首を擦る。
「このシミになってるの」
「…ああ、最初のね」
初めて永那ちゃんにキスされた日。
去年の体育祭の終わり。
あの日つけられたキスマークはまだ残っている。
内出血がシミのようになって、痕になっている。
点々と大小様々なシミが1箇所に集中していた。
全然消えそうにない。
「他の時のは痕になってないのに、どうしてここだけ残ってるんだろう?」
「そこが特別皮膚が薄いところだからじゃない?」
「そういうもの?」
「知らない」
「永那ちゃんがつけたのに?」
「うん。私はそういうのには詳しくないの」
「少なくとも、私よりは詳しいと思うけど」
ソファに座っていた久米さんが立ち上がり、目が合う。
永那ちゃんは気にせず、三口目を口に放り込んでいた。
ケーキを三口で食べるなんて…。
最初に話しかけられた時と同様の笑顔で、久米さんは私達に近づいてきた。
「ねえ、2人はゲームとかする?」
「私は、しません」
「私も」
永那ちゃんが久米さんに背を向け、テーブルのご飯をお皿によそっていく。
もう部屋にいる大人達は食事を終えたらしく、ほとんどがお酒だけを片手に持っていた。
「僕が開発したゲームアプリがあるんだけど、やってみない?」
「私の家Wi-Fiないんで、ゲームは出来ないですね」
「あ、そうなの?今どき珍しいね。Wi-Fiないと厳しくない?…スマホのプランによっては、それでも平気なのかな?」
「プランも、最低限のやつですよ。だから、ゲームなんてやったら、終わりです」
久米さんが苦笑する。
「まあ、カフェとか駅とか行ったら無料のWi-Fiあるしさ?とりあえずインストールしてみてよ。穂ちゃんも、ね?」
特に断る理由もないので、スマホを出して、言われた通りにインストールしてみる。
永那ちゃんは「私はいいです」とご飯を食べ続けた。
インストールしている最中に、千陽達が戻ってきた。
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