王の愛は血より濃し 吸血鬼のしもべ第2部

時生

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第二章 月ニ鳴ク獣

第二十九話 沈みゆく月(1)※

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 乾き、皺の寄った手が張りつめた肉茎を上下になでさすっていた。磨くような手つきで丹念に愛撫される毎に、甘く震える吐息が寝台の帳の内にこもる。

月鳴げつめい、綺麗だよ」
「ん、ぅ……」

 腰まで伸びた豊かな黒髪を持つ男娼は淡い色のひもでくつわを噛ませられ、右手と右足首も縛り付けられていた。
 蜜が出てきた、腹の筋が震えていると老爺に指摘されるたびに、いやいやと首を横に振る。髪が、風に揺れる羅紗のように浅く日焼けしたような色の肌を流れ落ちる。

「あ、あぁ……」

 月鳴の太ももがぶるるっと痙攣するのを見た老爺は、そっと手を離した。
 手を寝台の脇にある盥でゆすぐと、老いた手に二つほど指輪をはめる。

 月鳴は右ひざを立て、陰茎をさらした姿勢のまま、まぶたを持ち上げた。長いまつげが夜露に濡れているようだ。月鳴のねだるような視線を受けて、白髪をきちりと結った老爺が微笑み、月鳴の戒めを解いた。

「もう夜が明ける。帰らないと、朝から商談がある」
「……ごめんなさい。こんな時間になっているのに気づかなかった」
「いいんだよ」

 月鳴は勃ちあがる陰茎をそのままに肌が透けて見える夜着を纏い、男の着替えを手伝う。男の足元にひざまずき、下着を変えながら、下がった陰茎にちゅうと吸い付いた。老爺の雄は役に立たないが、それでも唇でしごけばわずかに反応がある。

「悪戯しちゃだめだよ月鳴」
「ん……」

 柔らかい肉を頬張れば、客がたしなめながら月鳴の後頭部をなでる。自分の竿が萎えぬようにしごきつつ、上目で見上げて豪商の征服欲を満たしてやる。唇を離して、固く絞った布で清める。

「綺麗にしたかったの」

 着替えの手伝いを終えた月鳴が笑うと、目の下を指でくすぐられる。月鳴は膝をついたまま、男の親指を前歯で噛んだ。

「うそ」
「えぇ?」
「あのね」

 月鳴は立ち上がると、笑いながら首を傾げた。シャラリと老爺が贈った金の耳飾りがあえかな音を出して揺れる。

「舐めたかっただけ」

 月鳴の方が背が高い。背を屈め、目を覗き込みながら告げると老爺とゆっくりくちづけあう。
 客を見送るため、扉まで一緒に歩く。

「時に月鳴」

 戸を開ける寸前で声をかけられ、「なに?」と月鳴は振り返って微笑んだ。老爺が笑みを深くする。

「次、夢王様にお会いするのはいつになりそうだ?」
「いつ、か」

 月鳴は顎に手を置く。困ったように眉を下げる。

「来るのはいつも突然なんだ。前もって連絡くれって言っているんだけど。何かご用でもあった?」
「いいや、前に夢王様と来店が被った日があったからな」
「あぁ、ぬしさまが譲ってくださった」
「まさか夢王様と争うわけにいくまい。引き下がるしかないわな。まぁ、分からないならそれでいい」
「申し訳ございません」
「いいんだよ」

 月鳴が戸を開き、老爺が歩き出す。廊下に完全に出る前に、月鳴は男の背を引いた。
 今にもこぼれそうなほど涙を溢れさせて、「ぬしさま」と震える声を出す。

「どうか、お願いを聞いてくださいませ」
「時間が」
「ちょっとでいいんです。月鳴にお情けをください。はち切れそう、で」

 言いながら、腰の下から夜着を開いた。寸前で放出を止められたままの陰茎がびくびくと跳ねている。
 老爺の口元が弓なりに歪む。

「お前ほどの者が。若いのが見ているよ」
「我慢でき、ない」
「少しでいいんだな」
「指でなでるだけでいい……」

 客を玄関まで送るために廊下で控えている男衆が見ないふりをしている。老爺の乾いた指が、くびれを三度なでると、月鳴は一声叫び戸枠にすがって射精した。ぼたぼたと床に落ちる精を老爺が楽し気に眺める。

「こらえ性のない子だ。出してはだめだと言ったのに」
「申し訳ございません……」
「次は仕置きだな」

 はらはらと涙を落としながら、何度も小さくうなずく月鳴を残して、老爺は男衆を従えてゆっくりと廊下を歩きだす。その姿が角を曲がった瞬間、月鳴はふう、と息を吐いた。後始末に来た別の男衆が、月鳴の足元に屈み白い染みを拭い始める。

「さっきの子、新顔か」
「あの方がいらっしゃる時は見送り役の争奪戦が起きます。あまり男衆を狂わせてくださいますな」
「じい様も若いのをからかいたくてやっている節がある。この見送りのために一晩中寸止めに次ぐ寸止めだ。もう一発出したい気分なんだが付き合うか?」
「禁じられております」
「よく言う。淘乱とうらんに命じられた時は一も二もなく犯したくせに」
「お客様のご要望でしたので」

 月鳴は己が入楼した頃から勤めている男衆の頬にくちづけて、勢いよく戸を閉めた。
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