それでも好きな人

なめめ

文字の大きさ
8 / 30
触れられない心

3

しおりを挟む
初めての理人さんとの行為は今まで以上に幸せな気分だった。男の人でイける自分に驚いたが、何より、理人さんが自分のモノで感じている姿が芸術品のように綺麗で脳が震えるほど、徹史を虜にさせていた。

 しばらく余韻に浸る徹史の一方で理人さんは終わった瞬間にベッドから降りると裸のままソファに足を広げて座り、一服を始める。

 事後は身を寄せ合ってイチャイチャするものだと信じて疑わなかった徹史にとって彼の行動は少し寂しく感じた。

しかし、世の中には事後は淡泊になる人だっていると耳にするし、致し方ないのかもしれない。まだ正式に交際を申し込んだわけではないけれど、身体から関係が始まることもある話だし、期待をしていいんだろうか。

 徹史は理人さんの姿を目で追いながらベッドから起き上がる。煙草の煙をくゆらせて物思いにふける彼の姿にドキッとさせられながらも、徹史の頭の中は今後のことでいっぱいだった。

「あの……。理人さん、俺達って……。その……」
「あーそうだ。連絡先教えてよ?」
「はいっ」

 徹史が本題を切り出そうとしたのと同時に、理人さんがスマホを手にして左右に振ってきたので、大きくうなずいた。

彼の気が変わらぬうちに急いで鞄からスマホを取り出すと理人さんの座るソファの隣に正座をした。お互いのQRコードを読み取って連絡先を登録する。

「連絡してダメな時とかある?」
「いいえ、特にないです。できれば毎日……。いや、理人さんはありますか?」

 できれば毎日したいと提案しようとして言葉を呑み込んだ。それはきっと世間で言う『重たい男』の典型的な行動のような気がしたからだ。

理人さんは恋愛関係においてかなり淡泊そうだし、ここは自分も大人になって相手のペースに合わせることが必要な気がした。

「ないけど、あまり私情に踏み込んでほしくないから誘いのメッセージ以外送ってこないで」
「はい……」
 
誘いの連絡以外してくるなということは、恋人特有のイチャイチャメッセージも禁止ということだろうか。

せめて週一くらいはやり取りを通して、彼の好きなものとか彼のことをもっと知りたかったがそれも禁止なのだろうか。

「あと、仕事の繁忙期は俺からするとき以外は時間作れないときがあるけど」

 想像以上に淡々としている彼を見て、本当に付き合っている方向で合っているのだろうかと不安になる。今までの恋愛遍歴が当てにならないほど、この人との距離感が難しそうで雲行きが怪しい。

「だったら、そういうときは週一くらいで理人さんに連絡するのはアリですか?会えないときはメールで交流を深めたいというか……」

 少しでも恋人同士なのだからと思い、せめてもの妥協案を出してみたが理人さんは煙草の灰を灰皿に落とすと天井を仰いでカッカッと笑い始めた。

「なんで?何のために?そんな恋人みたいなこと、ないない」

 冗談で言ったつもりはない。

眉を下げて小馬鹿にしたように笑う理人さんにムッとしながらも、彼の言葉に高揚していた心が急降下していく。

「恋人みたいって……。俺たちってそういう関係になったんじゃ……」

 身体を重ねたのなら心を重ねたのも同然だと思っていた。

「はあ?たった一回ヤッただけで?俺は君とはセフレのつもりでやっていきたいと思っているんだけど、それとも嫌だった?なら無理強いはしないけど。俺さ、恋人は作らないし、執着もないから、割り切った関係でいてくれると助かるんだけど。なんなら君も適当に遊んでくれていいよ。君もノンケならたまに女も抱きたくなるでしょ?暇つぶしだと思って、彼女出来たら適当に切ってくれて構わないから」

 徹史の方など一切目をくれずに、スマホを眺めながら事務的に話を進めてくる。

ほぼ初対面だから気持ちを推し量ってくれとまでは言わないが、勝手に不貞を働くような男だと思われるのは、心外だった。

「セフレの方が……俺も助かります。わかりました……」

 徹史は腿の上で拳を握ると息を飲み込んで頭を垂れる。内心では反論したくても、言葉にすれば直ぐにでもこの人に見切りをつけられてしまいそうで、今ここで本当の気持ちを告白することは出来なかった。

「そう、じゃあ。これからも宜しく」

 理人さんは煙草を咥えたまま、微笑んでくると灰皿に押しつけて浴室へと入って行ってしまった。

 シャワーの音が虚しく響く部屋。

 自分の気持ちが相手に通じていたわけではなかった。

理人さんは欲を満たす相手としか見てくれていなかった事実に落胆する。

絶望的な始まりだけど、出会う前のようなただ遠くで眺めるだけの赤の他人に戻ってしまうよりはマシだと思いたかった。

 やっと繋がった関係を自ら断ち切ることはしたくない。

この関係を続けていたらいずれ、理人さんの氷のように冷たい心を溶かすことができるだろうか。欲求の対象としてじゃなくて、栗山徹史として、一人の人として、恋愛感情を抱いて求めてくれる日が来ないだろうか。

 希望が見えない訳じゃない。
 どうしても、理人さんを手に入れたい。
 理人さんが欲しい……。

 こんなに欲しいと思えたのは理人さんが初めてだった。



 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

俺達の関係

すずかけあおい
BL
自分本位な攻め×攻めとの関係に悩む受けです。 〔攻め〕紘一(こういち) 〔受け〕郁也(いくや)

《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 毎日更新

処理中です...