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嫉妬から始まる恋心……
嫉妬から始まる恋心……⑤
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百合に促されて掃除を終えた、亨と雛森さんは事務所のロッカーへと向かってしまった。
ほんの一瞬だけ亨と視線が合ってしまったのが、すぐに逸らしてしまう。
百合が動かなければ無意識に亨の元へと向かおうとしていたが、よくよく考えたら、今更亨に何を告げればいいのだろうか考えものだった。この間は映画、ありがとうございました.......なんて今更すぎる話だし、かと言って完全に彼に心を許したわけでもない。
自分を最後だからと抱き竦めてきた程の想いを伝えてきた彼に下手に期待を持たせて、しまうのもしてはいけない気がした。
「葵ちゃんも帰る支度してきていいわよ」
「え、でも……」
「母さんも、これ終わったらすぐに行くから車で待ってて」
二人が行った後、しばらくしてパソコンの前で事務作業をしている百合が声を掛けてきた。閉店後は毎回、母親の車で自宅まで帰る。今、事務所へ行ったら亨と鉢合いそうだし避けたいところではあったが、ここで頑なに居座るのは違う気がして、葵は素直に頷くとへと向かった。
「ねえ、亨君。今度のお休み…一緒に映画行かない?」
事務所の扉のドアノブを掴んだとき、中から雛森さんの声が聞こえてきて
思わず手を止める。如何せん狭いお店なので、部屋の角にカーテンレールで囲い一か所だけ更衣室のようなものを設けてはあるものの男女ロッカーを分けているわけではない。だから二人一緒にいることは覚悟の上ではあったが……。
亨を映画に誘うということは、やっぱり雛森さんは亨のことが好きなのだろう。これは聞いてはいけないような気がして、立ち去ろうにも亨の反応が気になってしまい、葵は足を動かせずにいた。
「…私まだあの監督の映画観に行ってないんだよね……。亨くんさえよければどうかなって…」
好意を寄せて相手を誘うのは相当な勇気がいただろう。ましてや女性から誘うなんて尚更のことだ。ドア越しで雛森さんの表情は見えないが、緊迫した空気が伝わってくる。僕なんかよりも彼女と映画を鑑賞したほうが、同じ趣味で会話が弾むだろし、彼女となら気楽に楽しめる筈。実際にお店で彼女と話しているときの亨は笑顔が多いような気がしていた。
百合も言っていたように亨と彼女はお似合いだ…。
だから僕のことを想うくらいなら彼女といたほうが、幸せに決まっている。だけど、さっきから胸の真ん中あたりがモヤモヤして気持ちが晴れなかった。
「ごめん…その映画さ、俺もう観に行ったんだよね…」
きっと亨であれば誘いを受けるであろうと思っていただけに内心、驚いたと同時に胸を撫で下ろしていた自分がいた。もしかして、諦めるといいながら亨は未だに…なんて淡い期待のようなものを抱いてしまう。
「じゃ、じゃあ…別の作品。私、亨君と一緒に観たい…って思っているものがあって…」
「雛森さんそれって……」
「返事は、すぐじゃなくていいから。良く考えてから返事くれると嬉しいです。じゃあね…」
二人のやりとりに既視感を覚えながらも、途端に事務所の扉が開かれる気配がして、体を引いた直後に勢いよく扉が押されて雛森さんが出てきてしまった。
ほんの一瞬だけ亨と視線が合ってしまったのが、すぐに逸らしてしまう。
百合が動かなければ無意識に亨の元へと向かおうとしていたが、よくよく考えたら、今更亨に何を告げればいいのだろうか考えものだった。この間は映画、ありがとうございました.......なんて今更すぎる話だし、かと言って完全に彼に心を許したわけでもない。
自分を最後だからと抱き竦めてきた程の想いを伝えてきた彼に下手に期待を持たせて、しまうのもしてはいけない気がした。
「葵ちゃんも帰る支度してきていいわよ」
「え、でも……」
「母さんも、これ終わったらすぐに行くから車で待ってて」
二人が行った後、しばらくしてパソコンの前で事務作業をしている百合が声を掛けてきた。閉店後は毎回、母親の車で自宅まで帰る。今、事務所へ行ったら亨と鉢合いそうだし避けたいところではあったが、ここで頑なに居座るのは違う気がして、葵は素直に頷くとへと向かった。
「ねえ、亨君。今度のお休み…一緒に映画行かない?」
事務所の扉のドアノブを掴んだとき、中から雛森さんの声が聞こえてきて
思わず手を止める。如何せん狭いお店なので、部屋の角にカーテンレールで囲い一か所だけ更衣室のようなものを設けてはあるものの男女ロッカーを分けているわけではない。だから二人一緒にいることは覚悟の上ではあったが……。
亨を映画に誘うということは、やっぱり雛森さんは亨のことが好きなのだろう。これは聞いてはいけないような気がして、立ち去ろうにも亨の反応が気になってしまい、葵は足を動かせずにいた。
「…私まだあの監督の映画観に行ってないんだよね……。亨くんさえよければどうかなって…」
好意を寄せて相手を誘うのは相当な勇気がいただろう。ましてや女性から誘うなんて尚更のことだ。ドア越しで雛森さんの表情は見えないが、緊迫した空気が伝わってくる。僕なんかよりも彼女と映画を鑑賞したほうが、同じ趣味で会話が弾むだろし、彼女となら気楽に楽しめる筈。実際にお店で彼女と話しているときの亨は笑顔が多いような気がしていた。
百合も言っていたように亨と彼女はお似合いだ…。
だから僕のことを想うくらいなら彼女といたほうが、幸せに決まっている。だけど、さっきから胸の真ん中あたりがモヤモヤして気持ちが晴れなかった。
「ごめん…その映画さ、俺もう観に行ったんだよね…」
きっと亨であれば誘いを受けるであろうと思っていただけに内心、驚いたと同時に胸を撫で下ろしていた自分がいた。もしかして、諦めるといいながら亨は未だに…なんて淡い期待のようなものを抱いてしまう。
「じゃ、じゃあ…別の作品。私、亨君と一緒に観たい…って思っているものがあって…」
「雛森さんそれって……」
「返事は、すぐじゃなくていいから。良く考えてから返事くれると嬉しいです。じゃあね…」
二人のやりとりに既視感を覚えながらも、途端に事務所の扉が開かれる気配がして、体を引いた直後に勢いよく扉が押されて雛森さんが出てきてしまった。
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